霧の中の灯台~第3話:霧の中の囁き⑤
5. 灯台の下にあるもの
震える手で懐中電灯を握り直したアリシアは、再び灯台の入口へとたどり着いた。扉を押し開けると、昨夜とは違う異臭が漂っていた。腐敗したような、潮とは違う不快な匂いだった。
中を探索していると、床板の一部が不自然に浮き上がっていることに気づいた。手を伸ばしてそれを開けると、そこには地下室へと続く梯子があった。
「地下室……こんな場所があったなんて……」
アリシアは恐る恐る梯子を降りた。地下室は暗く狭い空間だったが、壁一面に文字が掻き殴られていた。そのすべてが子どもの字で書かれており、こう繰り返していた。
「霧が来る。」
「あの人が連れて行く。」
「ここにいる。」
そして、壁の中央には大きくこう書かれていた。
「アリシア」
その文字を見た瞬間、背後で物音がした。アリシアが振り向くと、そこには再び赤い影が立っていた。