霧の中の灯台~第1話:帰郷と不気味な足音③
3. 夜に響く足音
その夜、アリシアは子どもの頃の部屋で眠ることにした。薄暗い電球が灯る部屋には、幼少期に使っていた小さな机や、読みかけの古い絵本がそのまま残されている。
「ここに戻ることになるなんて思わなかったな……」
布団に身を沈めた彼女は、静寂の中でそう呟いた。けれども、しばらくするとその静寂は突然破られた。
トン……トン……トン……。
階下から、重い足音が聞こえてくる。誰かがゆっくりと廊下を歩いているような音だった。母がトイレにでも行くのかと思い気にも留めなかったが、音はいつまでも続いた。
しかも、その足音はだんだんと近づいてきているように感じられた。
「……お母さん?」
声をかけてみたが返事はない。
やがて、足音は部屋の前でピタリと止まった。そしてドア越しにかすかな呼吸音が聞こえた気がした。
アリシアの心臓は高鳴り、冷たい汗が背中を伝う。だが、勇気を振り絞ってドアを開けると、そこには誰もいなかった。