霧の中の灯台~第5話:記憶の扉①

1. 地下室の中の「子ども」

地下室の暗闇に立つ「子ども」を前に、アリシアは声を失った。その姿は確かに幼い頃のレオを思わせたが、何かが違う。瞳は虚ろで、笑みは不自然に歪んでいた。

「ここにいる……ってどういうこと?」
震える声で問いかけるアリシアに、子どもは答えた。

「霧が僕を連れて行った。でも、僕の一部はここに残ったんだ。」

その言葉は意味を持たないようでいて、アリシアの胸に重くのしかかった。彼女は前に進み、もう一度問いただそうと手を伸ばした。だが、その瞬間、子どもはまるで霧に溶けるように消えた。

地下室に残されたのは静寂。そして、アリシアの耳にはかすかな声が響いた。

「思い出せ……霧の中で何を見たのか。

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