霧の中の灯台~第5話:記憶の扉③

3. 村の長老の証言

翌日、アリシアは村の最年長である長老を訪ねた。彼は90歳を超えていたが、かつて村で起きた異変について語れる唯一の人物だった。

「お嬢さん、あの霧について話を聞きたいだなんて、命知らずだな。」

「レオのことを知りたいんです。あの日、何が起きたのか……赤い影が何なのかも。」

長老はアリシアをじっと見つめた後、ゆっくりとうなずいた。
「いいだろう。ただし、覚悟しなさい。」

彼は静かに語り始めた。

「あの霧はただの自然現象じゃない。あれは、人々の恐怖や後悔に呼応する異界の入口だ。赤い影は、そこで人を取り込む存在……いや、正確には、人の心の中から生まれたものだ。」

「心の中から?」

「そうだよ。赤い影は、その人が隠してきた罪や恐怖を映し出す鏡のようなものだ。そして、弱った心を利用してその人を霧の世界に引きずり込む。」

その言葉を聞いたアリシアは、自分が赤い影を見た理由が少しだけわかった気がした。幼い頃、レオと霧の中で何かをした――その「何か」が赤い影を呼び出したのだ。

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