霧の中の灯台~第4話:地下室の囁き①
1. 迫り来る赤い影
地下室でアリシアが硬直する中、赤い影はじりじりと距離を詰めてきた。その姿は異様なほど歪んでおり、まるで人間ではない。アリシアは恐怖のあまり足が動かず、ただじっと影を見つめていた。
「ここに……来たのは、お前か。」
低くかすれた声が地下室に響いた。声はまるで空間全体から響いてくるようで、どこにも逃げ場がないように感じられる。
「誰……あなたは誰なの?」
アリシアは震えながら尋ねたが、返事はなかった。ただ影は片手をゆっくりと伸ばし、彼女の方へ触れようとしてきた。
咄嗟にアリシアは懐中電灯を振り回し、その光を影に向けた。すると影は霧のように溶けて消えた――だがその消え方は異様で、どこか意識を持っているような動きだった。
地下室に残されたのは静寂だけ。しかし、その静寂の中で、かすかな囁きが聞こえた。
「思い出せ……お前の中にいる。」
その声に背筋を冷やされながら、アリシアは梯子を駆け上がり、灯台を飛び出した。