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台風の後のメキシコ料理
食べ過ぎて後悔したことはあるでしょうか。若かりし頃は何度もあったのですが、久しぶりにそれを味わってしまいました。
とある鉄道会社が発行している月間広報誌でタコスの特集があり、家から近くて一際華のある原宿の店にずっと目を付けていました。メキシコから帰国してまだ2年ですが、そもそも気候や風土が違う日本で本場と同じものを求めるのはお門違いだというのが率直な感想ではあったのですが、この店には、目を楽しませる鮮やかな色使い、食材の多様さとボリューム、そして現地を思わせる店の雰囲気に密かに期待していました。
さて、それにしても温暖化に伴う異常気象が言われて久しいのですが、もう今となっては異常気象が常態化し、これが普通なのだと認識を改める必要がありますね。前日、念のため在宅勤務に切替え自宅から一歩も外に出なかったため、台風一過、朝から頭の中で練り上げた妄想理論を実践すべくゴルフの打ちっぱなしに行ったり、転居に伴って中段していたドラムのレッスンを再開すべく音楽教室に説明を聞きにいったり、反動といっては何ですが、アクティブな一日となりました。
それは他の方々も一緒のようで、銀座線は各国からの観光客や家族連れ、若者達で込み合っており、銀座で地上に出てみると、夏の日差しで蒸し上がるような天候とも相まって、街全体が熱気を帯びていました。初めて訪れる音楽教室はそうした賑わいから少し離れた東銀座方面に位置しており、人影がまばらとなって、下町風情を感じる余裕も生まれる私好みの立地にあったのですが、建物の中に入ると、予想外に多くの人々が音楽とその周辺について対話をしています。
係りの人に声を掛け、何とか自分が希望する時間でドラムのレッスンを受けられそうな感触を得て、ああこの街に週一回通うことになるのだな、という感慨を持ちながら静かな裏通りを東銀座に向かって歩いたのですが、よく見ると、イタリア料理や中華料理、そしてワインバーのような趣きの店もあります。レッスン帰りの追加の楽しみに思いを馳せながら歩を進めると突然、人だかりのある一角に差し掛かりました。そうです。東銀座には歌舞伎座があったのでした。丁度、納涼歌舞伎の時期で、丁度第2部が終わったところなのか、入り口付近がごった返しておりました。
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東銀座からメトロに乗って明治神宮前に出ると、夕方の若者の街が眼前に開けました。と同時に、代々木公園の大きな木々が人々に木陰を提供しています。日が傾いて薄暗い領域が広く、そして濃くなってきているのですが、それでもとても涼しいとは言えない状況で、ヨーロッパなど湿度の低い地域から来た外国人は日本の夏をどう思っているのだろう、と若干気になりました。
妻との待ち合わせまでにはまだ時間があり、公園内をうろうろしていると、先程の音楽教室から、先方の認識違いで弊方が希望していた時間のレッスンが取れないことが判明したとの連絡が入りました。喫茶店に入って手持ちの本を読もうか迷っていた時だったのですが、この問題を片づけるには丁度おあつらえ向きのタイミングです。何度か電話をやり取りして、ようやく他の教室に空きを見つけ、体験レッスンを受講する目途を付けたところで、妻との待ち合わせの時間を迎えました。
急いで原宿駅方面に戻り、メトロの明治神宮前2番出口から、目立たない細い小径を奥に進んで行くと、CASCADE HARAJUKUという飲食店の集まるビルが見えてきます。このビルにあるLAS DOS CARAS MODERN MEXICANO Y TACOSというメキシコ料理店がディナーの場所です。
入り口が地下にあって分かりにくいところは玉に瑕ですが、思った通り、メキシコのお酒、食材、サルサ(ソース)が質よく整っており、席と席との空間も保たれつつ、店全体の統一感もあるところが魅力です。
現地で良く購入したMINERVAのビールを注文し、前菜のトスターダやアグアチレが上品に出てきたところまでは良かったのですが、ハラペーニョや干しトマト、シラントロ(パクチー)の入ったサルサ・フレスカとワカモレ(メキシコの定番アボガドサラダ)が山盛りのトルティーヤチップスと共に出てきたのがいけません。お盆にどこにも行かなかった代わりに気が大きくなって一番高いコース料理を頼んでいたことを忘れ、チップスに伸ばす手が止まらなくなってしまいました。
ポークリブ、蒸し海老、定番のパストールのタコスが次々とテーブルに運ばれてきて、それぞれ美味しさと懐かしさから会話も弾み、お酒も進みすっかり出来上がってしまって、多分後はデザートなんだろうな、と思っていたその時、店員さんが、実はこれから店自慢のメインなんです、と仰るではありませんか。そう言えば、先程から店のそこここで火の手が上がる演出で盛り上がる外国人達の誕生パーティが気になっていたのですが、まさか我々のテーブルでもそれが繰り広げられるとは・・・。
しかし、上品にほんのり脂の乗ったビーフとカジキマグロ、そして絶妙な野菜の付け合わせにそそのかされて、もう一かけらも入らないと思っていた我々夫婦は何と完食してしまったのです。メキシカンマジック!
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お陰で今朝は、一夜にしてお腹周りに無駄なお肉と辛味による違和感を覚え、一日を棒に振ってしまうかも知れないという、焦りを伴った無力感に襲われる私。
一方、「あっ、やっぱり。昨日のメキシコ料理屋さん、メキシコにいた時お世話になったAさんの息子さんが日本に留学していた時バイトしていた店だって。原宿のメキシコ料理屋で働いいたらしくて、美味しいから日本に帰ったら寄ってみて、と勧められたのを思い出したんだ。もしかしたらと思って過去のメールを探していたのだけけれど、見つかった。ほらっ」朝から元気な妻です。
ベランダには、台風の難を逃れ、置かれた環境で精一杯生きる朝顔が、かつてない程多くの花を咲かせています。朝から賑やかな我が家、それに引き換え情けない私でした。
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