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蓼科への旅 -前編-

 旅の帰りの電車というのは、思い出に浸る充実した気持ち、名残惜しく物悲しい気持ち、明日からの仕事に備え早く無事に帰りつきたいという気持ちなど、複雑な感情を抱えながらいつの間にか眠りに落ちるというのがいつものパターンなのですが、まじめな私はnoteの原稿作りに勤しんでいます。

 東京に転居してからの初めての旅は信州蓼科に決めました。この決定には、夫婦揃ってファンである中沢新一の「アースダイバー神社編」が大きな影響を及ぼしている気がします。諏訪神社が、日本人の営みの古層を今でも垣間見ることができる貴重なスポットであるという、これまで思いもしなかった中沢からのメッセージに、我々は是非諏訪神社に行かねばならない、と思ったのでした。

 諏訪神社は上社(本宮と前宮)、下社(春宮と秋宮)の4つの宮から構成されており、諏訪湖の南東に上社が、北東に下社が位置しています。最寄りの駅が、それぞれ茅野駅と下諏訪駅で、そこからそれぞれの宮まで1~2Km強ずつ離れているため、1泊2日の旅行で全て回ることができるのか、回れたとしてもそれだけが目的となってしまい、せわしなく疲れるだけではないか、と心配だったのですが、結果的にそれは杞憂でした。

 旅は良い意味で期待を裏切ります。それはnoteに向かって最初書こうと思っていた内容と、実際に書いてしまった内容が似てもにつかぬものになってしまうのと似ています。結局はそれで良かったのだと思う、いや、場合によっては少々違うかもしれないと思いつつも自分を納得させるところまでそっくりと言えるかも知れません。

 最初に、より古い歴史を持つ上社を訪れたのですが、それはまさに中沢が本で説明していた内容を追体験する道程でした。特に、前宮から本宮に向かう岡谷茅野線歩道沿いに予定外に見つけた「茅野市神長官守矢資料館」は諏訪神社の歴史を理解する上で非常にためになった気がします。しかしこの幸運な偶然により、我々の旅は、最初の大きな計画変更を迫られることとなりました。その興味深い資料や敷地に予想外の時間を費やしてしまったのです。

諏訪神社上社本宮への入口

 旅の当初、4つの宮は初日で全て巡り終わってしまい、二日目は豊かな蓼科の自然を味わうべく、宿泊先ホテルの敷地でゆっくり過ごそうと考えていたのですが、2つの宮を巡るだけで時間も体力も使い果たして次の宮に行く気力が失せてしまいました。諏訪湖畔の景色を「かりんちゃんバス」に揺られ、ツアーガイド顔負けの女性運転手のアナウンスに感心しながら着いた上諏訪駅近くの蕎麦屋で、ざるそばをすすり、馬のもつ煮込みをほおばりながら、予定と違うけどホテルに向かおう、とどちらからともなく話が付きました。

しかしまたここで誤算があったのですが、茅野駅に戻ってからホテルの送迎バスの便数が昼過ぎから夕方までほぼない、という事実に気付いたのです。そうであれば、上諏訪駅近くの造り酒屋訪問をする手もあったのに、茅野駅で何かすることってあるのだろうか、と考える気力も起きませんでした。妻と二人、駅前のカフェでガールズトークをする女性達に交じって約1時間半木調のゆったりしたテーブルで、上社の余韻に浸ったのでした。

ようやくホテルの送迎バスに乗ることができたのは、日も暮れかかった17:00過ぎ、残念ながら窓の外はほぼ真っ暗で、昼間であれば豊かな自然を見ることができただろうに、目隠しをされて来たかのように、突如風情のあるホテルのエントランスに降り立ちました。まあ、でも、こんな旅も悪くないのかもしれません。

通された部屋の大きな窓辺からは樅の木なのでしょうか、杉より柔らかな印象の針葉樹がすっきりと真っすぐ並び立ち、その繊細な葉を風に揺らせているのが、暗がりの中ではありましたが感じられました。早々に露天風呂を楽しみ、しっとりと保湿成分を身に纏った我々は、塩尻は林農園の五一わいんをお供にイタリアンを堪能し、翌朝に向け英気を養ったのでした。長くなってしまったので、興味がある方は来週アップする予定(頑張ります)の後編を是非どうぞご期待下さい。

窓辺から見える木立(蓼科にて)

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