第四話 賢者
「ここはゴミ捨て置き場だ。腹が減っててもゴミを荒らすんじゃないぞ、人間に嫌われるからな」
「はい」
「俺たちはカラスじゃないんだ、猫なんだからな、忘れるなよ」
「はい!」
てくてく歩いていると前から5匹の猫集団がやって来た。
先頭には恰幅の良い茶トラ、その脇をキジトラとハチワレで固め、またその後ろには白茶トラと白キジトラが控えていた。
「よぅ、年寄り爺ちゃんじゃねぇか。老猫ホーム抜け出して徘徊ですか〜?」
「おぅ、相変わらず子分引き連れてボス気取りか?餌の横取りでまた太っちまったんじゃねぇか?」
「うるせぇ、冬に向けての準備だ」
「まだ夏も来てないのにもう準備か?随分と気が早いんだな~」
「黙れ!いいからそこをどけ!俺様が通るんだ」
「高齢化社会の時代に何て態度なんだ、けしからん」
「知るか!いいからそこをどけ!」
「そうだな、お前さんの腹じゃあ狭くて通れんもな、ははは」
師匠はひょいっと塀の上に登り、僕も後に続けた。
「待て、こいつは誰だ?見ない顔だぞ」
「今日この島にやって来た新入りだ。こいつはまだ完全に猫じゃない。手を出すなよ」
「猫じゃない奴を相手にするわけないだろ!」
「よし、わかってるじゃないか」
「さっさと行け!」
僕達は足元を確認しながら塀の上を歩き、そこから何度かジャンプを重ね、屋根の上に辿り着いた。
「いい景色だろ〜」
「はい」
「さっきの連中、怖かったか?」
「はい、ちびりそうになりました。師匠がいなかったらどうなっていた事か・・・・・・」
「大丈夫、偉そうに見せてるだけで、本当は怖がりの小心者の集まりだからな」
「そうなんですか?」
「本当に強い奴は群れる必要がないからな」
「なるほど」
「それに本当に強い奴はな、優しいものだ」
「師匠の事ですね!」
「おらぁ、もう年だからよ、強くはないけど、知恵ならあるからな、それで切り抜けられるわな」
「知恵ですか?」
「失敗して学んだ事だったり、お手本になる相手の話を聞いて感じた事だったり、周りをよく観察して気付いた事だったり」
「ふむ」
「ま、そのうちわかる」
「はい」
「とにかく賢くあれ!無駄な喧嘩は意味がないからな、怪我するだけだ。喧嘩は本気で何かを守る時だけにしろ!」
「はい」
「逃げるが勝ちって言葉を頭に入れて置け!」
「はい、師匠!」
僕達はしばらく夕日を眺めていた。
師匠のパサついた毛を僕が舐め始めると「くすぐったい」と言って嫌がったが、僕はやめなかった。
師匠は諦めて、後に僕は小さな毛玉を吐いた