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採用後まもなく退職した者に対し損害賠償請求できるのか

今回は、せっかく採用したにもかかわらず、すぐに辞めてしまった場合のことです。そこに、損害賠償の話が入ってくるパターンです。

1 損害賠償請求にはパターンがある

 従業員に対する損害賠償請求という点でみますと、法的な考え方を考えなければ2つのパターンが考えられます。

➀損害が発生する場合を想定して、予め損害額を支払うことを契約しておくパターン。
事後的に損害賠償を要求するパターン。

あくまでも法的な概念を考えない場合になります。

➀が可能だったとしても、実際に企業がいくらの損害を被るか採用時点で確定できるはずもなく、約束することが難しいでしょう。また、損害額も未知なのに従業員は損害の支払いを約束することはないと考えられます。

②は現実的なパターンですが、従業員の行為が原因で損害が発生したのか、そうだとして、損害額は要求された金額なのか、こうした点で大いに揉めることが予想されますので、スムーズはないかもしれません。

とかく、金銭要求の話は、すんなりいきにくいと言えます。

2 ➀のパターンは法的にどうか

 労基法16条は、労働契約が守られなかった(不履行)ことを理由に、違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約を結ぶことを禁じています。

 労働基準法第16条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。ただし、この条文は、違約金や損害賠償額といった金額を定めて支払うことを予定する約束がだめだと言っているものです。

したがいまして、「労働契約に反する行為により会社が損害を被った場合、損害賠償を求めることがある」といったことは、実際に金額を支払う約束にもなっていないと考えられるため、即違反にはならないと考えます。

3 ㋑のパターンは法的にどうか

 原則は、入社した従業員には、法的にいつでも退職できる、従業員からの雇用契約の自由が保障されています。

したがいまして、採用後、間もないのに辞めますとなったとしても、それだけでは何ら違法性はなく、損害賠償請求はできないことになります。

ただし、その従業員の退職により取引先が契約を解除してきて、売上げや利益を失った場合で、会社の採用・労務管理にも欠ける点があったことを指摘しつつも、労働者に一定レベルの損害賠償を認めた例もあります。

このように、その退職が原因で実際に損害が発生したと認められる場合には、会社の採用説明や労務管理状況にもよりますが、ある程度の損害賠償ができると考えられます。

4 有期雇用契約の場合

 今回の契約が有期雇用契約であった場合はどうでしょうか。

有期雇用契約は、約束した契約期間まで働かなければいけないことを意味しています。

法は、期間の定めのある雇用契約については「やむを得ない事由」があるときは直ちに解約できる。ただし、その事由が一方の過失によるときは、相手方に対する損害賠償の責任を負うことを規定しています(民法628条)

有期雇用契約であって、期間満了前に辞めた事由が、従業員の過失にあたる場合に損害賠償請求が可能だと考えられます。

こうしてみますと、有期雇用契約は、約束した契約期間まで働かなければいけないことが原則になっていると考えられます。

ちなみに企業(使用者)からの雇用契約の解約(解雇)は、これまでも、やむを得ない事由がある場合以外では解約できないとされてきたもので【モーブッサンジャパン(マーケティング・コンサルタント)事件/東京地判平15.4.28労判854号49頁など】、現在は、そのことを規定した法律(労働契約法第17条第1項)が適用になります。

ただし、原則は、そうであっても、労働者が長期に拘束されることの懸念から、労働基準法が修正しています。

労働基準法附則137条
期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が一年を超えるものに限る)を締結した場合労働者は、・・・民法628条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から一年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。 (※政府が必要な措置を講じるまでの暫定措置)

有期雇用契約が1年を超えれば、有期契約労働者はいつでも解約できるとしたのです。逆に言えば、1年未満の短期間の有期雇用契約では、任意に退職することが叶わないことになります。

こうしてみると、現実は、入社時から1年以下の有期雇用契約が一般的に多くみられることから、有期雇用契約の場合、従業員は、今回のテーマのように入社してすぐに、期間の途中で自由に退職できないと考えられます。

有期契約労働者が、入社して間もなく退職すれば、企業としては、過失に当たるか否かを検討して、従業員に損害賠償請求できる場合もあり得ることになります。

5 以上の内容の要点をピックアップ

やや、難しいグレーな話になってしまい、わかりにくいかと思います。要点は以下の点になります。

無期雇用や有期雇用かで異なる考えになること、無期雇用の場合は、損害賠償の金額を定めて契約できないこと、無期雇用の場合には、そもそも従業員がいつでも退職できることが基本的なことになります。

ただし、その場合でも、予め違反し損害が生じた場合に損害賠償請求することがあることを約束するのは可能なこと、事後でも、退職を原因に企業が損害を被った場合には損害賠償請求が可能なことを知っておくことが、大切かと思います。

有期契約労働者に場合には、期間の途中では自由に退職することは許されないこと(ただし、契約期間が1年を超えれば可能)、退職の事由に過失があれば、従業員に損害賠償請求が可能なことも、有期契約労働者を雇用している企業では把握しておきましょう。

【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】

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