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おやじパンクス、恋をする。#191
舐めた口調は相変わらず、だが俺はむしろそれに安心した。
「あ? ねえよ。ねえけど、それがなんだってんだよ」
「変な感じっすよ、なんか」
「変? 何がだよ」
「だから、親父が死んだってことがですよ。悲しいだけでも、辛いだけでもなくて、どっかホッとしてる部分もあるっていうか」
ああ、それは何となく分かる気がする。親父を亡くした経験はまだねえが、雄大の言ってることは何かリアルだった。
思わず黙った俺の横から彼女が顔を突っ込み、「ほら、いいからすぐ来なさい」とせっついた。
「いや、分かってんだけど、なんかさ」
雄大が困ったように言って、だけど彼女は「もう、ゴチャゴチャ言ってんじゃないわよ。早くしなさいよ」とあくまでせっつく。
まったく、女ってのは無粋な生き物だな。
俺と雄大は自然と顔を見合わせて、思わず笑った。
「ちょっと、あんたたち何笑ってんのよ」
いや、もっともな意見だ。だけど多分、その理由を説明しても彼女には理解できないだろう。それに俺にしたって、うまく説明できる気がしない。
「まあまあ、ちょっと待ってやれよ。な?」
「何言ってるの。もう式始まってるんだよ」
「ああ、だから先に戻っててくれよ、俺がちゃんと連れてくからよ」
自分の口から出た言葉に、俺自身が少し驚いた。
「もう、じゃあ任せたわよ」
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。