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おやじパンクス、恋をする。#190
俺は言いながら歩き出した。でたらめ言っただけだが、マジで死んでたらえらいことだ。父親の葬儀会場で車中自殺! とか、笑えねえニュースが新聞に載っちまう。
「ちょっと、変なこと言わないでよ、心配になるでしょう」
彼女も慌ててついてくる。
「俺らここで待ってっから」とカズがでけえ声で言う。
それにしても広い駐車場だ。並んでる車の数も、百台をくだらないだろう。
雄大の車まで三四十メートル、途中、佐島さんらが乗ってきた厳つい車の前を通る。彼女はマジで心配になってきたのか、俺を追い抜くくらいの早足で近づいていく。
あの趣味の悪いセダンは、まるでガキの頃の俺みてえに、回りの車から離れてポツンと停まってた。
近づくと、さっきは気付かなかったんだが、水垢やら土埃やら鳥のクソやらでひどく汚れているのがわかった。
次の瞬間、運転席でぼんやりとしている雄大が見えた。
「あっ、雄大」
彼女と共に早足で駆け寄ると、奴も気付いた。特に驚いた様子はなく、かといってあの殺し屋みてえな無表情でもない。
こいつのことをそこまで知ってるわけじゃないが、「なんか顔つき戻った」という彼女の言葉に、今更ながらに納得するような顔だった。
雄大は、どこか照れたような笑いを浮かべて、運転席の窓を開けた。
「どうしたんですか、二人して」
車の中からはなんつうか、爺さん婆さんのにおいがした。古い化粧品みてえなにおい。古い車独特のにおいだ。
「どうしたんですかじゃねえよ、お前こそここで何やってんだよ」
雄大はふふ、と笑って、それから俺を眩しそうな目つきで見た。
「だって、親父の葬式ですよ。いろいろ考えてたんですよ。マサさん、親父の葬式出たことあります?」
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。