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おやじパンクス、恋をする。#195
親に棄てられ、自分で生きていくしかなかった雄大。どうしていいかわからず、どうしようもなくなって、金貸しに飛び込んだ雄大。
それこそこいつにとって、世界は原始時代も同然だった。
そういうことなんだろうか。
「まあでも、結果的には全然ラクじゃなかったっすよ。親父は俺を特別扱いしねえし、仕事だってそう簡単でもないし」
そういう雄大に、今度は梶さんの顔が思い浮かんだ。病室で見た、あのおっかなくもチャーミングな爺さん。
「……でも梶さんは、お前のことを本気で気にかけていたと思うぜ」
俺が言うと雄大はチラッとこっちを見て、「なんですか、それ」と言った。
「なんですかってお前、だから、なんつうの、別にネガティブになる必要ねえだろうよってことさ」
雄大は笑って、「マサさん、親父の葬式っすよ。ネガティブになるよそりゃ」と言った。
俺は慌てて、「で、でも姉さんはまだいるだろうがよ」とか失礼つうかバカ丸出しな言い方をした。
場合によっちゃキレられてもおかしくねえ物言いだったが、意外にも雄大はさらに笑い声を大きくし、「つうかマサさん、何しに来たんすか」とバカにしたように言った。
「ああ? 何しにってそりゃ、お前が車からなかなか出てこねえから……」
まるで子どもの言い訳、いや言い訳でも何でもなく事実俺はこいつが心配でここまで来たんだが、なんつうか、こいつのこの舐めた態度を見ている限り、マジで何も心配するこたなかったんだなと思えてきた。
つまり、彼女の言う通りだったわけか。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。