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おやじパンクス、恋をする。#219
車の中からは、同じくこないだ会ったあのプロレスラーみてえな男が出てきて、SPよろしく佐島さんの隣に立った。
その大きな身体の前で、嵯峨野はますます小さく見えた。何か書類を見せながら忙しく口を動かし、佐島さんがゆったりと頷いている。
誰がどう見たって、嵯峨野より佐島さんの方が立場が上って感じだった。
黒塗りの車は、一車線の道路をしばらく占領していたが、嵯峨野と佐島さん、そしてあのプロレスラーみてえな男が連れ立って階段を下りていくと、やがて発進してどこかに消えた。
「こりゃ、違和感ある展開だな」カズが言う。
「つうかお前ら、早く食っちまえよ、バカが」
あのプロレスラーみてえな男を見てアドレナリンでも出てきたのか、そわそわした様子の涼介が言った。
カズは素直に山盛りポテトをがっつき始め、「そんで、今から具体的にどうするってんだよ」と口を芋だらけにしながら聞く。
「さあな」俺は言った。
「どうなるかなんて、分からねえよ」
「まあ、そうだな」カズがあっさり同調する。
「待ち人来ず、その可能性もあるし」ボンがハンバーグを食い終わり、言う。
「でも、帰ってくるといいな。俺、心配してんだ」
外から見たら一番おっかねえ風貌のタカが、ボソッと呟くように言う。俺たちは何となく黙った。
よっしゃ。
俺は残ったビールをぐいっと煽ると、皆に向かって言った。
「ま、あいつが帰ってきたらせいぜい歓迎してやろうぜ。そりゃあもう、盛大によ」
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。