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おやじパンクス、恋をする。#228
俺の中で、パズルがカチッとはまる感じがした。
そこにいるのは間違いなく雄大だった。ここ一週間以上に渡り姿を消していた雄大、その雄大が会社の主催するパーティに現れて、おそらく一番偉い人になったんだろう佐島さんを襲う。
ナイフを持って。
よく分かんねえけど俺はこの流れには納得感があった。
そうか、雄大は、怒ってたんだ。
嵯峨野が持ち込んだ新しいビジネスに。それに乗っかった佐島さんや社員たちに。そして多分、それを防げなかった自分自身に。
だがひとつだけ違和感があった。ナイフを掲げボディガードに対峙している雄大の表情だ。それはあの、梶さんの見舞いに行った病院、エレベーターホールのソファで雄大が浮かべていたあの殺し屋みてえな無表情じゃなかったんだ。
雄大は、明らかに、怯えていた。
自分のやろうとしていることに、既にやっちまってることに怯える、ガキの顔だった。
雄大の顔に集中した俺の視点の端で、ひゅっと動くものがあった。ボディガードが身体を斜めに揺らし、何かを雄大に向かって投げつけた。ブラックライトの下でその物体は鮮やかな紫色に光って見えた。
「うわああああ」と雄大は絶叫すると、その何かに向かってぶんぶんとナイフを振った。小ぶりな、果物ナイフくらいの刃物だった。
その物体が隙を誘うための「おとり」であり、ボディガードが今まさに雄大に向かって蹴りを繰りだそうとしているのを俺は感じ取った。
俺は雄大の名を叫びながらボディガードの背中に突っ込んだ。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。