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「木と竹のつくる楽しみ つかう楽しみ」-ろうきん森の学校岐阜地区10周年記念事業レポート

 ろうきん森の学校岐阜地区が2015年度に開校して10年目を迎えたことを記念して、2024年11月23日(土・祝)、24日(日)の2日間、美濃市の「みの木工工房FUKUBE」で記念事業が開催された。
 「木と竹のつくる楽しみ つかう楽しみ」と題した事業は、拠点の1つである木工工房FUKUBEの2階・3階のほぼ全面を使用し、この10年あまり取り組んできた活動の成果をお披露目する場となった。2日間で約110名が来場し、この地に着実に「木と竹でつくる・つかう」を実践する人々の輪が根付いていることを実感した。
 ろうきん森の学校岐阜地区の立ち上げ時から見守ってきた立場で、事業の様子を報告する。

会場入り口に掲げられたタイトルは小野さん自身の書によるもの
中に入ると手書きの横断幕とグリーンウッドワークの作品が迎えてくれた
館内の至るところが作品展示やワークショップ会場になっていた

 ろうきん森の学校岐阜地区を担当するのは、NPO法人グリーンウッドワーク協会(以下、GWW協会)で2015年度より、ろうきん森の学校岐阜地区として、主に生木を人力で加工してスプーンや椅子といったモノづくり=グリーンウッドワークに取り組んでいる。
 理事長の小野敦さんは、元々大手製鉄会社のプラント建築を担当する部署で働いていたが、岐阜県立森林文化アカデミーでグリーンウッドワークに出会い、入学と共にGWW協会の会員となった。グリーンウッドワークの基礎的な技術を習得して、2010年に森林文化アカデミー卒業後美濃市に定住し、GWW協会の理事長に就任した。
※小野さんらの過去インタビュー記事はこちら

 2015年度からスタートしたろうきん森の学校岐阜地区としての活動は、GWW協会にとって事業を拡大・定着する上で大きな力になったことは間違いないだろう。
 当初、グリーンウッドワークだけだったが、2010年から「竹部会」を設立し、竹細工の技術継承及び普及にも取り組んでいる。中でも岐阜県の象徴ともいうべき長良川の鵜飼で使われる「鵜籠(うかご)」などの製作は、竹細工の技術継承の象徴ともいえる。当日は竹部会による竹細工のワークショップも開催されていた。

 展示でひときわ目を引いたのは、「アルプスの少女ハイジの暮らし展」である。これは1974年に日本で放送されたテレビアニメーション「アルプスの少女ハイジ」をモチーフに、そこで描かれた世界観を再現したものである。
 アニメーションで描かれていた削り馬や木製の皿、コップ、スプーンなどが展示され、小野さん自身も「おんじ(アルムおんじ)」に扮した衣装で来場者を迎えていた。この他、ハイジのベッドや台所の様子なども細かく再現されており、グリーンウッドワークがスイスにも息づいていることがよく分かった。

ハイジの象徴・ブランコによる姿も再現されていた
小野さん自身が「おんじ」に扮して対応
おんじとハイジ

 ちなみに、この展示製作の一部を地元の県立武義高校の生徒が課題研究の一環として手伝っており、学校との連携も進んでいる。

 会場にはGWW協会の会員や関係者が多く来場しており、旧交を温めたり、道具や作品を前に談笑する様子があちこちで見られた。

ハイジに登場していた削り馬を再現
思わず笑みがこぼれる

 館内のカフェスペースには、グリーンウッドワークについて書かれた書籍である「Green Woodwork」「Going with the Grain」「LIVING WOOD」(いずれもMike Abbott著)が置かれており、関係者は懐かしそうに開いて眺めていた。これらの本は日本でグリーンウッドワークに関する本が出版される前、小野さんらがバイブルにしていた本だったのだ。

バイブルだった本を見る

 その中の1枚の写真に目が釘付けになった。2008年の6月に撮影された写真には、生徒が屋外の屋根下で椅子づくりに取り組む様子が映っているのだが、これはろうきん森の学校で整備した森の工房にそっくりなのである。いや、森の工房がこれをモデルに建てられたと言ったほうが正しいのだろう。

現在のGWW協会の森の工房のモデルになったMikeさんの工房
GWW協会の森の工房

 グリーンウッドワークは家具や竹細工にとどまらない。GWW協会メンバーの1人、椿ゆかりさんが取り組むのは草木染だ。3階の1室には所狭しと草木染の作品が展示されていた。※草木染(藍染)の様子はこちら
 ろうきん森の学校の関連では、東京の労金会館の前にあったヤマザクラが会館の建て替え工事に伴い伐採されることとなり、このヤマザクラを使って記念品を作るというプロジェクトがあった。椿さんが苦労を重ねて、見事ヤマザクラから得も言われぬピンク色を抽出して染め上げた作品も展示されていた。
 グリーンウッドワークは、単に生木を材として家具・食器などに加工するだけでなく、皮や葉、木の実など余すところなく丁寧に使う、総合技術なのではないだろうか。

草花を布に散りばめて巻いて蒸して染め上げる「バンドルダイ」の作品
ヤマザクラで染められた作品

 皮も余すところなく使うと言えば、当日会場で限定販売された「竹皮弁当」も素晴らしかった。竹部会から提供された竹皮を使った昔ながらの弁当は、単に郷愁を誘うだけでなく、古くて新しいスタイリッシュな印象があった。

竹皮で包まれた手作り弁当
中は、おにぎりや卵焼き、つくね焼きなど盛りだくさん

 ろうきん森の学校岐阜地区がスタートして10年。
 GWW協会が創設されて16年。
 小野さんが「これまで関わってくださった全ての方に感謝いたします。」とコメントしていた通り、ろうきん関係者だけでなく、数多くの会員・講座参加者・地域の方々の協力・支援があって、今回の記念事業でこれだけ多くの方が集まったのだろう。岐阜地区では、地元労働金庫である東海ろうきんとも既につながりができており、会場の一角には東海ろうきんによる、ろうきん森の学校と東海ろうきんの紹介パネルが掲示されていた。
 椿さんからは「さらに事業を発展させていきたい。企業研修にも積極的に取り組んでいきたい」とのコメントがあり、次のステップに向けたイメージが見えてきているように感じた。

ろうきん森の学校についての紹介パネル
東海ろうきんの紹介パネル

 ホップ・ステップ・ジャンプで例えるなら、GWW協会創設8年目にスタートした「ろうきん森の学校岐阜地区」は、間違いなくこの10年でステップアップしたと言えるだろう。
 では次にもう1段上がるためのジャンプには何が必要なのだろうか。小野さん、椿さんらメンバーの活動を見守りつつ、GWW協会の原点である「木と竹のつくる楽しみ つかう楽しみ」を一人でも多くの人が実感できるよう、共に考えながら、引き続き応援していきたい。

報告者:大武圭介(NPO法人ホールアース自然学校)

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