【広島地区】体験から学び、わかちあうことで気づいたコミュニケーションの大切さ ~ローカルSDGs人材育成スタート
ろうきん森の学校では、“学校”というキーワードから人材育成に焦点を当てて、地域の若者と地域の課題の解決に取組み、リーダーシップの取れる人材を育成する『ローカルSDGs人材育成』を、富士山地区と広島地区で試行開始した。今回は広島地区で2022年12月から1月にかけて行われた全3回のべ4日間の試行プログラムの概要について、最終回の第3回を中心にリポートする。
1.ローカルSDGsとろうきん森の学校
SDGsとは、国連が定めた「持続可能な開発目標」で、2030年までに達成すべき17のゴール・169のターゲットが挙げられている。「誰も置き去りにしない」を共通理念として、日本をはじめ世界各地で取り組みが行われている。
一方、ローカルSDGsは「地域循環共生圏」と呼ばれる新しい概念で、各地域が、その地域固有の資源を活かしながら、それぞれの地域特性に応じて異なる資源を持続的に循環させる自立・分散型のエリアを形成するという考え方である。
ろうきん森の学校は、2005年の開校当初より、「森づくりから始める人づくり・地域づくり」を掲げ、地域に密着したNPOが中心となって、森林整備や遊休農地の活用、自然体験プログラムの開発、ボランティア育成などを通じて、持続可能な地域づくりに取り組んできた。いわば、ローカルSDGsの取り組みを先駆けて行ってきたともいえる。
こうした取り組みを「ローカルSDGs実現に向けた人材を育成する」と捉え直し、2030年のSDGs目標達成期限に向けて、地域課題解決の取り組みとリンクさせた人材育成を試行することとなった。
2.広島地区におけるローカルSDGs人材育成試行プログラムの概要
広島地区における取組概要は以下の通り。地元北広島町を中心に「せどやま」と呼ばれる裏山の整備を行っているプロジェクト関係者に参加者がインタビューを行った。参加者は、ひろしま自然学校が取り組む大学生のボランティアグループのメンバーが中心となった。
日程と概要:第1回 2022年12月3日(土)
・自己紹介とSDGsを知る、フィールドワーク作戦会議
第2回 2023年1月7日(土)、8日(日)
・せどやま事業の取材、まとめ、発表
第3回 2023年1月21日(土)
・フィードバックシート読み合わせ、ローカルSDGsキーワード
抽出、ふりかえり・わかちあい
目標:①ローカルSDGsを理解する
②ローカルSDGs実践の現場を体験する
③ローカルSDGsのポイントを整理する
対象者:ひろしま自然学校が実施している大学生のボランティアグループ「なちゅらるず」に登録している大学生(6名)ならびに、地域で活動する社会人(3名)の合計9名。ただし、新型コロナウイルス感染等により、第3回まで通しで参加したのは5名。
取材・協力団体:認定NPO法人西中国山地自然史研究会(せどやま再生事業)
今回取材した認定NPO法人西中国山地自然史研究会は、「芸北せどやま再生事業」に取り組んでいる。「せどやま」とは「裏山」の意味。昔は、家の裏山で柴刈りをして薪にしたり、炭焼きをして木炭として利用していたが、燃料革命により石油が普及すると裏山の木は使われなくなり、せどやま(裏山)は「切られない山」になってしまった。その結果として、ナラ枯れの原因につながったり、荒廃して自然萌芽のしにくい里山になったりして、里山景観を損なうこととなった。そのせどやまの木を切って、せどやま市場に搬入することで「せどやま券」という地域通貨と交換し、地域内でその地域通貨を利用してもらうことで、小さな経済循環を生むとともに、里山の景観保全や生物多様性保全に寄与しようというのが「せどやま再生事業」である。
3.第3回の取り組み概要
2023年1月21日(土)に実施した第3回は、それまでの体験をふりかえり、目標③に掲げた「ローカルSDGsのポイントを整理する」に取り組んだ。
最初に第2回で行った、せどやま事業関係者へのインタビュープレゼンテーションに対するフィードバックシートを読み合わせた。フィードバックシートとは、各グループの発表を聞いた参加者(インタビューを受けた当事者含む)から受講者(研修参加者)に対して、「Good Job!(良かった点)」や「Plus One(こうするとより良い)」といった視点でフィードバックされたコメントが書かれたシートである。各グループはそれを読んで自分たちの発表資料(模造紙にまとめたもの)に補足・追記する作業を行った。その後、参加者からのフィードバックによる気づきを発表し、ファシリテーターの志賀さん(ひろしま自然学校代表理事)から、それぞれの発表について「インタビューした人の想いをもっと詳しく聞き出した方が良い」「具体的なデータがあれば追記した方が良い」といったコメントがあった。
次に「ローカルSDGsの実現に大切なこと」というテーマで、それぞれがキーワードを書き、それを話し合いながらまとめる作業を行った。予想以上にたくさんのキーワードが挙がったため、5名の考えをまとめるのに想定以上の時間がかかった。
最終的には、ホワイトボードに以下のようにまとめた。(あくまでこの時点での納得解)
まず、ローカルSDGsのローカルとは、顔の見える規模感の地域を指し、「もの」・「金」・「学び(人)」が循環している状態を理想とした。そこには「ハブとなる人(コーディネーター)」がいて、一人一人が地域の「学校」や「企業」とのつながりや、「心の豊かさ」を実感できている状態がある。大切なのは、組織内外に対して丁寧なコミュニケーションが取れていることである。さらに地域外から地域にアクセスする「入口の多様化」も重要、というポイントが共有された。ポイントをまとめた後、個人でふりかえりシートを記入し、最後に全員で読み合わせて共有を行った。
参加者がローカルSDGsの担い手になる上で必要だと思ったこと(心構え、態度、スキル等)として、以下が挙げられた(一部抜粋)。
・一方的な関係を持たないようにする。(双方にメリットのある関係性が重要)
・SDGsで掲げられている17番目の「パートナーシップ」が重要。互いに協力すること、話すこと、情報収集力が必要。
・一人一人とのコミュニケーションを大切にする。(参加者同士による学びも大きかった)
・自分が幸せになることで他人を幸せにする、他人が参加しようと思える活動をし、広げること。
共通したキーワードとして、コミュニケーションや関係性の大切さが挙げられていたのが印象深かった。
最後に志賀さんから、地域に関わる際に大切な視点として次の2点が挙げられた。
「地域のことは地域で決める」
「地域に入る際に誰を窓口(=ゲートキーパー)にするかが重要」
前者は、例えば大学やコンサルタント会社が、安易な調査だけで地域に提言・提案することの危険性のことであり、後者は適切な窓口を選ばないと、地域から受け入れてもらえないリスクがあるということであった。
【参加者の感想コメント】※一部抜粋
・こんなに疲れるほど話をしたのは久しぶりだった。大変だったけど楽しかった。
・全員が学ぶ姿勢で最後のまとめまでできた。いろいろな人と関わりながら学べたのが楽しかった。
・人と人をつなげる仕事「コーディネート」という役割があることを知った。これは新しい発見だった。
・せどやま事業の取り組みを取材する中で、敢えて環境保全を前に出さないことで、関わる人の入り口が広がることに気づいた。
4.今後に向けた展望と可能性
ローカルSDGs人材育成の最初の取り組みとして、広島地区で試行した今回のプログラム。地道に地域課題解決に取り組む関係者に丁寧にインタビューを行い、参加者自らローカルSDGsのポイントに気づいていく過程が人材育成につながっていることがよく分かった。森の学校がこれまで大切にしてきた実体験に基づく体験学習法のプロセス、すなわち「体験から学ぶ」「互いから学ぶ」「わかちあって一般化する」手法は、ここでも十分活かせることを実感した。
2030年のSDGs達成に向け、これまで培ってきた森林環境教育のノウハウを、地域課題解決にどのように活かしていくのか。例えば、富士山地区では地域の協議会と連携しながら、移住・定住の取り組みを支援している。こうした取り組み現場に、他地域で同様の取り組みにチャレンジしている若者に来てもらい、その中で実際に見聞きしてもらうことは、参加した若者が新たな視点を得るだけでなく、若者によるフィードバックを受ける地域の関係者にも新たな気づきをもたらすに違いない。
また、人材育成を通じて地域のコーディネーター役が生まれ、育っていくことも感じることができた。試行錯誤を続けながら、「学び方を学ぶ」方法論を一般化していくチャレンジを、2023年度以降もろうきん森の学校各地区で続けていきたい。
【投稿者】
ろうきん森の学校全国事務局(NPO法人ホールアース研究所)大武圭介