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35年間、好きな事を続けるDJ TAC(52歳)⑧〜聞きたいことを聞く回〜

ひとしきりお話をお伺いして、私は気になったことをぶつけてみました。

「DJに対するアーティストという呼称について」


自分はアーティストだとは思っていない。
現場のディスコDJ出身なのでよっぽどじゃないと配信系もやらないし、MIXCDは作らない。

「ホンモノのアーティスト」って言われる人が0から物を作って販売するのは正当だと思うが、自分たちDJはお客さんを踊らせるためにアーティストの作品を「借りて」、プレイしている訳だからね。

著作権などグレーになっている部分はあるけど、こちら側が不利になっちゃうと文化として成長しないでしょう。自分は売り物として正規なルートでない商品は作らないようにしている。

それに日本はアーティスト文化が弱いよね。自分たちが若かったころよりはマシだけどね。それこそHIPHOPやブラックミュージックというジャンルに芸能事務所が絡むことなんて考えられなかった。

「私は中学生のときにRIP SLYMEの音楽がきっかけでHIPHOPというものに触れたのですが、日本でのHIPHOP文化のメインストリーム化は90年〜2000年前半デビューのMCクルーによって土台が築かれてきた部分があるといえますか」


歌謡曲×HIPHOP×レゲエを融合させたという意味では彼らの功績は大きい。

RIP SLYMEやKICK THE CAN CREWやケツメイシなどが一時期「あいつらはHIPHOPじゃない」とか叩かれていたけど、どう表現するかはそれこそアーティストの個性でしょ。

結果として支持を得たなら正解じゃん。

最終的に若い子たちがそれを聴いて、次の世代の原動力になって、カルチャーが引き継がれていくならそこは評価されるべき。



「ずばり、クラブシーンが衰退していると感じますか」

それは2000年頃からずっと言っている。

遊び方のトレンドが変わった時はもうやめどきだったと思ってしまったこともあった。

変化があると慣れていた人たちは離れる。

新しいものが形成されるときには必ず凹みがある。

次の世代をどう作っていくかは当事者が考えていくしかない。

ロゴスを辞めた後、自分は今までとは違う人たちと組んで横浜の音楽シーンをサポートできないかと思っていた。そんな時、クリブという小さい箱でClean UpというイベントをやっていたDJ MINOYAMAに誘われたんだよね。

自分より下の世代と1から何かを作っていくというのが純粋に面白そうだなと思った。MINOYAMAをサポートしながら、Clean Upというイベントを大きくしてやろうと思った。

やって見せた方が早かろうということでメンバーになりましたよ。

MINOYAMA曰く「自分たちより10年以上長い現場のキャリアを持つTACさんが入ることでイベント自体が締まった。」って言ってたな。

現在はクリブより収容人数の多いBridge Yokohamaの毎月第4土曜日で開催している。

Bridge Yokohamaに入る際は、オーナーにこんな営業をかけた。
「先々の投資として必ず伸びるメンツ。必ず後の財産になるから。」
結果、未だに当時のメンバーはみんな残っており、Clean UpはBridge Yokohamaの人気老舗イベントして続いている。

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そんなClean Upは2020年8月にDJ TAC 35th Anniversaryを開催。

実際に私も遊びに行かせてもらいました。
インタビューはオンラインだったので、TACさんとの初対面が実現!
とても暖かく、心地よい空間でした。

演者さんもお客さんも一体化してその場を平等な対等な立場で楽しんでいました。

一番、印象的だったのは日本酒でひたすら乾杯すること。

そしてアニバーサリーのドレスコードはアロハシャツ。

TACさんはダーツがとても上手で遊びの達人でした。笑
私の経験によるとダーツがやたら上手いおじさんは遊び人という法則を思い出しましたよ。
自分もバブル世代に遊べる年齢だったらどんなに人生謳歌をできただろうかといつも考えてしまうのですが、「生けるバブルの遊び人」を目の当たりにして、その気持ちがさらに強くなりました。

そしてこの一夜で私はニュートラルゾーンから脱出したと言えます。

TACさんがインタビューで話してくれた

「健全なクラブ」

「現場でしか分からないこと」が私の五感に突き刺さったからです。
まさにネット上の動画でも追体験できないもの。


「TACさんの先見の明は才能ですか」

 
先天的なものではないと思うよ。現場慣れかな。

ディスコスタートだったから自分は主役じゃない。俺ありきじゃなく店ありき。自分がこうしたいじゃないく、ここの空間をどう盛り上げたいか。

継続して面白くするにはお店ありきにしないとダメ。

DJではなく運営という立場で常に考えている。フリーになってからはずっとサポート役だね。
基本的には他の人間がやらない部分・足りない部分を補うことをしているかな。

受容と供給のバランスをしっかり見極めているとは思う。
死ぬまで現役っていうのもある意味かっこいいけど、こればっかりじゃ次世代が作れない。

クラブ文化の成長とともに自分ありきアーティストというスタンスでいるDJが増えたよね。

それが良い悪いではなく、そのスタンスでいる限りみんながライバルになってしまって次の世代は育てようがない。

これはクラブ文化が成熟しない一因だよな。個人主義っていうのかな。

Clean Upメンバーに「TACさんのお蔭です」「世話になりました」って言われることがあるんだけど、これこそ自分の財産。

違う世代と関わり合う機会ってあまりないよね。

似たような人たちといる方が居心地はよいけど、何かを形にして、残していきたい場合はそれだけだと難しい。

ただし、ひたすらサポート役でいるのもよくないかな。

「出しどころ・引きどころ」を意識している。

先見の明は経験値として感覚で分かってくるし。

分からないことは実際に行動して試してみればいい。

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TACさんは受容と供給を見極めて、自分自身の役どころを把握されている人でした。

だからこそビジネスにおいても物事のタイミングをうまく見計らうことができるのだと思います。

そういう意味で若くして目標達成ができ、やりたいことがある程度できた、と言い切れるのだと感じました。

DJ TACはアーティストではないと語っていましたが、私の中でのアーティストの定義は 「人の五感に触れようと意図して創り出された空間」という行為自体がアートであり、その空間を創り出した人は誰しもアーティストなのだと思っています。

材料が借り物だったとしても、人の五感に少しでも何か触れた時点でその創り出された空間は生を受けるのではないでしょうか。

少なくともDJ TACの現場で、私は自分の五感を使ってその空間をめいっぱい感じることができました。

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