アンティークレースの世界をご存知ですか
私は東京と大阪で活動している、アンティークレースを研究する研究会『Accademia dei Merletti』を主宰し、「アンティークレース」についての考察や周知を行なっています。
人生を変えたアンティークレースの魅力と出会い
ー アンティークレースとの出会い
私が二十歳のころ、アンティークブームが起こって各地で催事などのイベントが行われていました。そのうちのひとつで、銀座のデパートで開催されていたアンティークフェアがきっかけでした。
はじめて実際の古いアンティークのレースを見た時は、こんな繊細なものを手で作るなんて信じられないと思いました。
専門学校を卒業して就職した職場は刺繍レース関係のデザイン室で、この職場の資料室には多くのレースに関する資料が揃っていました。
この時入手したレースは、のちに18世紀前期のニードルレース(針を使ってひと目ひと目編み目を作って製作するレース)であったのをこの企業の資料で知ることとなりました。
それ以来、私は古いアンティークレースに興味を持ち蒐集を重ねてきました。その蒐集のなかで深めた知見をnoteで公開し、レースの歴史やその奥深さを知っていただけるならうれしく思います。
レースの種類
ー レースの語源
レースは英語でLaceと綴り、これはラテン語から派生した古フランス語の「縛る」や「結ぶ」という語源から生まれています。
フランス語ではDentelle(ドンテル)といい、Dent「歯」から派生した言葉で、レースが流行した16世紀の終わりにレースは鋸歯状のデザインをしていたので、このように呼ばれています。
ドイツ語ではSpitze(シュピッツェ、複数形はSpitzenシュピッツェン)で、これはフランス語と同様に「先の尖った」というのが語源となっています。
イタリア語でもPizzi(ピッツィ、基本的にPizzoの複数形で表されます)という「先の尖った」という意味の言葉と、Merletto(メルレット、複数形はMerlettiメルレッティ)とも呼ばれ、城砦や城壁の胸壁の装飾を表すMerlo(メルロ)から派生した言葉などが、レースに対して使われています。
スペイン語ではEncaje(エンカーへ)「箱に入れる」とか「収める」という言葉から派生した「挿入する」という語源や、Puntilla(プンティーリャ)という「嵌め込む」とか「継ぎ合わせる」という語源が元となり、古くはレースが細巾で嵌め込み装飾として使われていた名残りが伺えます。
オランダ語ではKant(カント)と呼ばれ、これは原ケルト語の「100」を表すそうですが、なぜ100が語源となったのかは判っておりません。
このように、レースは16世紀頃に流行した当時の形状や形態を色濃く残した言葉として各国で使われています。これにはヨーロッパ諸国でレースが大流行したのがこの時代だったことが反映されています。
レースがどこで、どのようにして生まれたのかははっきりとは判っていません。しかし、現存する資料からヨーロッパでレースの祖型が現れるのは16世紀の中頃です。
ー レースの種別
刺繍の一部を繰り抜いた「カットワーク」や、ブレードなどの飾り紐を製作する技法から発展した「パスマン」(ボビンという糸巻きに糸を巻き付けて、その糸を交差させて作るレース)などの、単純で平易なデザインの手芸が基となり、徐々に技術を向上させて開発されました。
このほかにも、下生地の織り糸を引っ張って格子状に穴を穿った「ドロンワーク」、漁網のようなメッシュ状の下生地に、別の糸で編み目の中を細かく交差させて埋めた「フィレ」、搦み織のメッシュのような下生地に刺繍を施した「ブラットー」、結び目を繰り返す「マクラメ」などの技法も生み出されました。
『透ける』という素材は当時の人々にとって、それはとても新鮮で斬新なものと映り、このようなレースや刺繍などの手芸のために、木版画の図案を挿入した図案集が多くの国で出版されるようになります。
レースは大別すると、手工芸的に製作されたハンドメイドのレースと、機械によって製作された「マシンレース」があります。
現在販売されているアンティークレースにはこの「ハンドメイドレース」と「マシンレース」が混在しています。ごく一部を除いて美術品やアンティークとして欧米で価値を認められているのは、このハンドメイドレースです。
ハンドメイドレースには大別すると、カットワークを元にして発展した「ニードルレース」と、糸巻きを使用した「ボビンレース」があります。また、先述したフィレレースやブラットーレースなどの「刺繍レース」などがあり、これらはレースの一種ではありますが、厳密に言えば本来のレースとは個別のものと考えられています。
レースには様々な種類があり、時代による変遷、技法や素材による違い、用途やそのほか多様な発展の歴史を重ねてきました。
これから、みなさんにアンティークレースの奥深さをお伝えできればと思っております。