「名探偵のはらわた」を読んだ。
以下、白井智之著「名探偵のはらわた」ネタバレを含む雑感を書き散らかす。
筆者得意の特殊設定・多重解決ミステリは相変わらず面白い。
なにより過去の凶悪犯罪者たちの魂が現世に蘇って大暴れなんていう設定が開陳された瞬間、おいおいこれはとんでもないものが始まったぞ…と前のめりになったし、死んだはずの浦野灸が探偵事務所で煙草をふかしながら現れて「古城倫道」と名乗ったシーンは最高にアガる物語の始まりだった。
確かに面白かった。文句なしに面白かったんだけども。
ずっと浦野灸への尊厳凌辱プレイが行われていて、こっちは気が気じゃなくってさあ…!!
※以下、浦野灸への偏った解釈があります。
生前はあんなに理知的で優しくスマートだった名探偵・浦野灸の肉体が、今や酒色におぼれ風呂に入らずゴキブリも裸足で逃げ出す悪臭を放ち、下の毛までチラ見えさせられる。古城に肉体を乗っ取られてから、ひたすら品性のかけらもない振る舞いをさせられるという、どんな罰ゲームだというこの所業。
これまであらゆる手段を用いて人間の尊厳を凌辱してきた白井先生による新たなプレイがそこにあった。こんな中年男性への尊厳凌辱、韓国映画以外
でも見られるんだ…という衝撃。
敬愛する恩師のそんな姿を目の当たりにする亘の気持ちは察するに余りある…と勝手に憐れんでしまいそうになるけれど、意外と作中にそれを嘆く描写はなかったので亘は浦野灸の死を受け入れて割り切っているんだろうな。
ここまでさんざん言っておいてなんだが、古城倫道というキャラクターは嫌いではない。
普段の自己中心的で粗野・アウトローな言動の一方で、浅からぬ因縁を持った石本吉蔵の墓へ花を手向けたり、誤解から亘の彼女へ暴力をふるった後に土下座までして謝罪したところに筆者の「こいつもそう悪い奴じゃないんだよ」という意向を感じたし、実際に憎み切れない愛着が湧いている。
何はともあれ次作を読むのが楽しみな程度には、しっかり楽しませてもらった。そのうえで本作一番のツッコミどころを下に引用しておく。
「腸だ」錫村がつぶやいた。「名探偵の腸(はらわた)だ」
「黙れ!」
本来熱いはずのタイトル回収をシュールギャグにしちゃうんだもん。痺れたよ。
2024.8.6