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【DARK SOULS】ダークソウルの「病み村」の入り口と神話【神話】
ドーモ、マーズです。
お前らはダークソウルをプレイしたことはあるだろうか。今ならリマスタード版が出ているから、まだの人はやった方が良い。ちなみに俺は当時箱○しか持ってなかったから、アジア版を輸入して買ってプレイしていた。字幕も音声も英語だから苦労したけど、おかげで英語での時代がかかった言い方に精通した。Thou sholdst xxx みたいなやつ。この廃れた古い二人称はフランス語とかアイルランド語では今でも tu という語形で残っている。
ダークソウルには病み村というロケーションがあり、あまたの不死人がここで暗闇と猛毒に苦しんだ。画面が暗すぎてほとんど何も見えず、どこからともなく飛んでくる猛毒の吹き矢で治療不可の猛毒になり……俺もそうだった。降り切ったら今度は広大な毒沼。ゲーム史に残る名ロケーションだと思う。
さてこの病み村の入り口だが、二つある。一つは裏口で、素性「盗賊」や贈り物「万能鍵」があれば、火継ぎの祭祀場に到着し次第飛竜の谷経由で入ることが出来る。人によってはこのルートで初手グレートクラブを取りに行くこともあるとか。ちなみに俺は飛竜の谷を抜けて即アンドレイのところに行き、裏から不死教区を踏破して、橋の下から回り込んでクレイモアを取る牛頭無視ルートが好きだ。
もう一つの入り口は言わば正面入り口、最下層の貪食ドラゴンを倒して手に入る鍵で門を開け、ハシゴを下って入るルート。出迎えには腐敗した亡者、大柄な腐敗亡者、そして奥から猛毒吹き矢を飛ばしてくる蓑虫亡者。今でこそ蓑虫亡者はリスポーンしなくなったものの、アップデート前は酷かったな……。
さて、この病み村の正面入り口。巨大な下水管のような丸い穴にかけられたハシゴを降るのだが、この穴、井戸のようにも見えないだろうか。いや、見えるはずだ。見えなさい。
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このスクショを撮るために
リマスタード版を久々に起動した。
ダークソウルが既存の神話をモチーフにしていることは今さら言うまでもない(参考:俺のnote記事 またアルトリウス*1など)上に、ダークソウル自体も新たな神話を創作しようとした試みだと言えるだろうが、神話的な目線からこの入り口を見てみると、病み村は神話に登場する地下異界を意識しているように思われてくる。どういうことか説明しよう。
まず、病み村の位置だ。病み村は一応地上にあるが、アノールロンドの外壁の外に築かれた城下不死街から見た場合、地の底と言って良い場所にある。不死街から下層、最下層を通った下水が毒となって病み村に流れ込むため、そう言ってよいだろう*2。
次に、病み村は異界であると言える。ロードラン自体が我々からしたら異世界ではあるが、異世界と異界は違う。異世界は観測者の立つ現実から物理的に隔絶された世界であり、物理的に地続きではない。一方で異界は観測者の住む世界とは別の原理によって成り立っている別世界ではあるものの、物理的には緩やかにつながっており、ふとした拍子に迷い込んだりして移動することができる。例えばアイルランドの伝説「ネラの異界行」*3では、主人公ネラは地下洞窟を通って地下の異界へ行く。
病み村は、イザリスから溢れ出した混沌の炎の影響により住人が異形へと変貌してしまっている。人間界にはいない異形が存在するのは異界の特徴だ。暗く、湿り、腐っているのも地獄のようである。ロードランの住民にとって病み村は、そのようなものだということは認めてもらえるだろう。
最後に病み村の正面入り口だ。この入り口を井戸と見立てよう。すると、井戸が地下異界に続く入り口だということになる。なぜ、井戸か。答え:井戸を通って地下異界へ行く神話が存在するから。
井戸というものについて考えてみよう。井戸は近代的な水道が整備されるまで、日常的に使用されていた。いや、日本でも現役の井戸があるかもしれない。一方で井戸は地面から深く下の水源へと通じた穴である。つまり見えない地下へと通じているのだ。そして生活に不可欠であるため、古来信仰の対象とされてきた。日本ではミズハノメノカミなどが祀られてきたという。
井戸が地獄との通路であったという説話の例がある。小野篁は平安時代の公卿にして役人であるが、相当なワーカホリックであったらしく、夜は地獄で閻魔大王の補佐をしていたという伝説がある。その際に通った通路が、井戸であるというのだ*4。
日本以外にも例がある。アイルランドの守護聖人、聖パトリックの伝記を7世紀のティーレハーンという司教が書いているのだが、その中に次のようなエピソードがある。そのエピソードによると――アイルランド高王の娘たちが、聖なる井戸の近くで、聖パトリックと従者一行に遭遇した。娘たちは一行を「異界の、それとも地上の神々の、それとも幻影の男たち」かと想像した*5。これは、井戸が神々や異形の世界、すなわち異界への通路だとアイルランドで見なされていた証拠になる。
以上のことを踏まえた上で、病み村の正面入り口を見てみよう。これは、どう見ても井戸を意識している形だろう*6。井戸と言っても色々な形があるが、一般的に想起される掘り抜き井戸、つまりあなたが今想像している井戸の形にそっくりだろう。その先は、地獄に通じている。暗闇に囲まれ、異形に変じた者たちが襲い掛かり、毒が蔓延している異界だ。井戸のような入口という道具立てが、病み村の異界っぽさを増していると言えるだろう。井戸と言えばジャパニーズホラー映画の代表作「リング」のクライマックス、貞子の死体が捨てられた場所も井戸である。井戸は地獄への通り道として、今でも我々の意識の底に根付いているのだ。
結論として、病み村はロードランにおける異界として設計されており、入り口が井戸のような丸い形状をしていることにも意味があり、井戸が地下異界への入り口となっている現実の説話を踏襲しているのではないか。以上で本記事は終わりとなる。お前らも創作神話としてダークソウルを体験しよう。ダークソウルを神話として認識していないお前らはぜひ認識を改めていただきたい*6。さらばだ。
*1 アルトリウスは英語にするとアーサーになるが、これは明らかにアーサー王がモチーフだ。アルトリウスの剣は折れた直剣または直剣の柄を素材として使用するが、エクスカリバーが折れるエピソードが存在するらしい。「らしい」というのは出典が確認できていないからだが、そういう言説が流布されていることは事実なので、実在の伝説かもしくは噂話が元ネタだろう。
*2 ご存じの通り、実際はさらにデーモン遺跡、イザリスへと続く。イザリスこそはロードランの地の底の一つだ。
*4 https://ja.wikipedia.org/wiki/小野篁#逸話と伝説
*6 話半分に聞いてください