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あなたの玉高く買い取ります

 その玉は、普通は15歳、早い人だと12歳くらいになると身体から零れ出る。伝統を重んじる家庭だと、その玉が零れた日には赤飯を炊く。その玉は人によって色や大きさが異なる。といってもオレンジかグレープフルーツかくらいの違いだ。大きさはビー玉くらいで、透明だったりそうじゃなかったりする。特別美しいものではないのだが、その玉は大事にしなければならない、という風習があった。昔の人は肌身離さず持ち歩いたりしたようだが、今では銀行口座の通帳や実印なんかと一緒にタンスの中にしまわれることが多い。今を生きる若者はコンビニに行くにしたって持ち物が多い。美しくもない玉のために限りあるポケットを空けるようなことはしないのだ。


 まあその玉自体には何の力もない、ように思われていた。思われていたんだ。


 その玉を買い取る会社が設立されたのが5年前。俗に言うスタートアップ企業だ。その会社はまず、金に困った若者から玉を買い取った。しかも結構良い値段で。買取価格は普通の大学生の1ヶ月分の食費くらいだろうか、若者達はこぞって玉を売った。その会社は、玉を宝飾用に加工して販売するという目的で設立された。業績もすこぶる良かった。ただ、加工された玉が市場に出回る事は一度もなかった。
 先月、その会社が潰れた。理由は公表されなかった。この国には玉を失った人と、玉を売る機会を失った人だけが残った。結局、あの玉が買い取られた後どうなったか知る人は1人もいない。そしてあの会社が何の為に大量の玉を買い漁ったのかも、誰一人として知る由もない。知る由もないのだ。


 私以外は。

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