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第16話 「漆黒の四騎士」
バルディビアはペンコ湾へ向かう道中で
キラクラに住むモルチェ族の大規模な集落に辿り着いた。
バルディビアはキラクラの丘に陣を敷き、
この地の長達に和平の使者を送った。
1546年2月11日、
マジョケテ配下のマレアンデは兵200を率いて、
バルディビア軍の前線に攻撃を仕掛け
和平の申し出を拒否してきた。
この出来事により本格的に戦が始まる事になる。
「キラクラの戦い」の始まりである。
-バルディビア本陣-
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伝令兵「報告です。
麓の陣が原住民どもにより襲撃を受けました。」
アルデレテ「して、戦況は?」
伝令兵「ネイラ様の見事な策略により、
50名ほどを殲滅すると、
奴らは引き返していったとの事です。」
バルディビア「ふむ、挨拶がわりか。」
オロ「ネイラの話では、
今夜本腰を入れて攻めてくる可能性が高いとの事です。」
バルディビア「ほう、なぜその様な事が分かるのだ?」
オロ「どうやらモルチェ族は夜戦を得意としているらしく、
ヤナクナ達の間では梟の部族と呼ばれている様です。」
バルディビア「ハハ、面白い。
では今宵は梟狩りと勤しむか。
第一陣は誰に任せようかのう。」
オロ「モルチェ族の装いは青い衣を纏っていると聞きました。」
バルディビア「ほう、夜戦が得意であるのにそんな目立つ色を使っておるのか?
奴らのこだわりと言った所か。」
アルデレテ「それならガスパル殿たちが良いのでは?」
バルディビア「漆黒の四騎士たちか、適任だな。」
アルデレテ「また野戦の混乱を避ける為、
ガスパル殿たちと同様に
前線の者達の装備は黒で統一することにしましょう。」
バルディビア「そうだな。
と、目が慣れるまでは混戦状態のポイントへの
援護射撃は控える様に触れを出せ。」
アルデレテ「ハッ!」
-1546年2月11日夜 マジョケテ陣営-
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マジョケテ「ほう、
やつら前線まで強固な陣を敷いておるな。
全身黒の装いで身を固めてるようじゃ。」
アイナビージョ「なおさら軍議通り、
ここは一気に詰め寄って白兵戦に持ちこむのが良さそうじゃな。
奴らの扱う雷は ワシらの武器より射程も長いとの報告もあった。」
マジョケテ「うむ、直ぐに白兵戦となれば
迂闊に援護射撃は出来んじゃろう。」
アイナビージョ「ただ、ここには幾つもの丘があるが
奴らは守るのに最も適してた場所に
陣取っておる様に見えるな。」
マジョケテ「左様。
こちらから見て左方は崖になっておる、
攻めこむ箇所は限定されておる・・」
アイナビージョ「前線がそろそろ丘の麓にたどり着くぞ。」
マジョケテ「アウカマンの軍が一気に加速して詰め寄る段取りは出来ておる。
やつらアウカマンの突破力に度肝を抜かすぞ。」
-キラクラの丘麓-
今は亡きフランシスコ・ピサロには、
《漆黒の四騎士》と呼ばれる手練の戦士を抱えていた。
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「※注1)ヘッフェ、相手をどう見る?」
如何にも叩き上げの軍人の様な男
ホアン・デ・ガンガスは、
四騎士のまとめ役であるガスパル・オレンセに尋ねた。
ガスパルは、自身の髭を捩らせながら言った。
ガスパル「あの前線の軍はこの地において、
今までにない凄みがある。」
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ガンガス「ほう、ヘッフェもそう見るか。」
「お二人はほんと戦が好きですねぇ。」
壊れかけた西洋風の装飾が施された柵に
手をかけながら、
金髪に小さな顎髭を蓄えた男が二人の会話に割って入ってきた。
名をホアン・デ・セペダといい、
ガスパルとガンガスに実績は遠く及ばないが
ピサロに腕を買われ漆黒の四騎士に大抜擢された若者である。
セペダ「しかし、殆どがまともな柵ですが、
所々に設置されたこの使い物にならなそうな柵は
一体なんなんですかね?
まるで抜いてくださいと言わんばかりな・・」
ガスパル「何か深いお考えがあっての事だろうよ。」
ガンガス「ほう、宴意外に頭がない男が
たまには戦ごとに関心を示すとはな。」
セペダ「いえ、酒のつまみになる様なネタになるかもなぁと思いまして。」
ガンガス「ふん、所詮そんな所か・・
せっかく戦の才があるのに、全く勿体無い奴よ。」
ガスパル「ガハハ、ワシは宴も好きじゃ。
アロンソ・デ・コルドバ殿、
あんたは戦と宴どっちが好きなのだ?
それとも出世か?」
ガスパルは、物静かで品格のある男に問いかけた。
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アロンソ「ハッ!
私の幸せは、我が国の繁栄でございます。」
ガスパル「流石、アロンソ王であるな。」
アロンソ「どうか王などとは呼ばないでください。
私は我が国の一臣下として、
生涯を全うしたいのです。」
ガスパル「おいおいおい、冗談じゃ。
そんな間に受けて貰っては、調子が狂う・・・・・・」
アロンソ「ガスパル殿、失礼しました。」
ガスパルを筆頭に、アロンソ、ガンガス、セペダと四者四様の「漆黒の四騎士」が、
今はバルディビアの元で仕えている。
ドドドド・・・
ガンガス「来ます。」
ガスパルは大声を上げた。
「さて、戦じゃ!! いくぞ!!」
アウカマン「やはり最前列にはタワティンスーユ兵の群れか。
とりあえず、通常通り蹴散らすぞ!」
アウカマン兵「ハッ!」
グアンコ「アウカマン・・我ら・・ 早く・・戦う・・」
アウカマン「ダメだ。
お前達は手筈通り 合図があったら動け。」
グアンコ達、巨躯の者達はアウカマン軍の中程に身を屈めながら行軍している。
アウカマン「でわ、参る!」
そう言うと、アウカマンは大斧を構え 誰よりも先に突進していった。
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ガスパル「ほう、あの青いの。
あ奴が凄みの原因じゃな。
ただ、他にも幾つか潜んでおるわ。」
セペダ「とりあえず、私たちは高みの見物ですね。」
ガスパル「そうじゃ、じっくり見極めようぞ。」
セペダは顔を右に向けると ガンガスがソワソワしていた。
セペダ「ガンガスさん・・
盛りのついた猿じゃないんですから・・」
ガンガスの耳には セペダの小言が全く聞こえていない様であった。
ガンガスはアウカマン軍が 自身の期待に応える相手であることを感じ 高揚感に満ちている。
「ローロ、ロロロロ!」
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アウカマンは独特の発声と共に大斧を一振りした。
「グァー!!」
アウカマンの一振りで、
最前列のヤナクナ兵達が削り取られてゆく。
「あああ・・アウカマンが現れたぞー」
ヤナクナ達はアウカマンの突撃に恐れ慄いている。
彼の振るう斧の圧に怖気付くものもいれば、
衝突する前から腰が引けてる者までいた。
畳み掛ける様に
前戦のアウカマン兵もまたヤナクナ達を
より恐慌状態に陥らせていった。
セペダ「ハン!何の冗談ですか? あの雄叫び?」
ガンガス「興味深い。
あの様な呼吸法であんな力が出るのか。」
セペダ「ローロロロ ローロロロ って笑
めっちゃくちゃ緊張感にかけるんですけど笑」
ガスパル「なんという殲滅力。
ヤナクナ達が既に縮み上がっておるわ。
時に滑稽な事というのは、
脅威となる時より恐ろしく聞こえるものじゃ。」
セペダ「そうですかね。
私たち四人がかりでやれば いけるでしょ?」
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ガンガス「貴様、騎士の戦いを愚弄する気か!
蛮族相手に四人がかりなど、俺にはできん。」
セペダ「はいはい、騎士道精神ってやつですか?
それってほんとにあってるんですか?
まあ、私はあの雄叫びが笑えてきちゃうので
アイツの相手はしませんからね。」
ガスパル「ここはガンガスを尊重しよう。
ただガンガスよ、いけるのか?」
ガンガス「俺の見立てでは、
多勢に無勢に強いタイプとみてる。
身体能力では奴が上でも、俺には技がある。」
ガスパル「ほう、でわお前に任せるとしよう。
アロンソとセペダは左翼を頼む。
ワシはガンガスの援護に回る。」
アロンソ「ハッ!」
セペダ「了解しましたぁ。」
アウカマン(そろそろヤナクナではない連中が見えてきたな。丁度ヤナクナ背後に控えておる。)
スペイン兵「やつらが迫ってきたな。
まっ、いつも通り押し返してやるか。」
アウカマン「グアンコ達出番だ!」
グアンコ「やっと・・戦う。」
グアンコとその仲間達は顔を上げ怒号と共に突進した。
「グオオォォォー!!」
スペイン兵「なっ?!なんだ?! 壁?!いや熊か?」
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スペイン兵の前に突如2メートル近い巨人達が姿を現した。
ドゴォン!!
スペイン兵達の直前に構えるヤナコナ達が怯んだ瞬間、 突如グアンコ達が現れ、
ヤナクナ兵ごと背後にいたスペイン兵を巻き込み転倒させていった。
アウカマン「皆の者!!今だ!
狙うは異形の者たち!
奴らの装備で覆われてない部分に槍を刺せ!」
スペイン兵「くっ、身動きが取れぬ。
お前ら早くどけ!! まずい!!」
グサ!グサ!
スペイン兵「ギャー」
アウカマン兵達は、
ヤナコナの下敷きになり、
倒れているスペイン兵達の 甲冑で覆われてない部分に槍を刺し込んだ。
ガスパル「やられたな。
どうやらあ奴らの中にキレものがおる様じゃ。」
-半刻前-
マプチェ兵「アウカマンさま!
ガルバリノ殿から話があるそうです。」
アウカマン「もうすぐ始まるというのに
どうしたのだ?」
ガルバリノ「タイエルの話だと、
新たな勢力の者達の防具は非常に硬いらしい。
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おそらく俺たちの武器では歯が立たない。
タイエルが直接手にして触ったらしいから 間違いないだろう。」
アラウマン「しかし、ミチマもマレアンデも あやつらを倒したみたいだぞ。」
ガルバリノ「マレアンデはどうかな。
ただ、ミチマやあんたぐらいの使い手ならいけるかもしれんが 聞いた感じ厳しそうだ。」
アウカマン「そうか。
それでは私と腕のたつものが、
そやつらを相手する必要があるな。」
ガルバリノ「それも悪くはないかもしれぬが、
俺に一つ策がある。」
アウカマン「ほう。」
ガルバリノ「レイノウェレンの戦いでは、
基本ヤナクナの背後にやつらは位置し応戦していたらしい。」
アウカマン「最初の衝突ではまずはヤナクナと戦うわけだな。
それならば、
ワシらは後続として備えた方が良いという事か。」
ガルバリノ「いや、
あんたと主力部隊はそのまま先陣を切って、
ヤナクナを蹴散らして欲しい。」
アウカマン「それでは異形の物たちに押し返されてしまうではないか。」
ガルバリノ「そのままの流れではいけばそうだが。
そう、丁度グアンコ達が適任だ。」
アウカマン「?」
ガルバリノ「あんたらがヤナクナと衝突し怯ませた直後、
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グアンコ達がヤナコナごと体当たりをかまし
後続の異形の者たちを巻き込み転倒させる事を狙う。」
アウカマン「それは可能かもしれぬが。
そうなると、
最初の衝突にほぼ主力部隊を投入させないと、難しいとワシはみるが。
かつ、転倒したらやつらを瞬く間に無力化するには相当な手練を後続にも充てねばならぬ。」
ガルバリノ「やつらの防具はとても重いという話だ。
なので、一旦転倒したらそう簡単には起き上がれない様だ。
そこで、後続の部隊の者たちを雪崩れ込ませ、
やつらの防具で覆われてない箇所を突き無力化させる。」
アウカマン「なるほど。
それならば、
転倒している者どもを処理するのは 能力の低い者でも出来そうだな。」
ガルバリノ「そうだ。
そうなると最初の衝突には、
より多くの手練を当てる事が出来るだろう。」
アウカマン「名案だな。」
ガルバリノ「肝となるのはグアンコ達の動きだ。
力もありうってつけに思えるが、
ただ素早く正確な突進をする必要がある。
グアンコ達にこの任務を任せる事は出来そうか?」
アウカマン「いけるだろう。
あいつらは見かけによらず素早い。」
ガルバリノ「手合わせしたあんたが言うなら
間違いないだろう、じゃあな。」
-バルディビア軍前線中央-
ガンガス「ヘッフェ、これはまずい事になったな。」
ガスパル「案ずるな、
昔みたいに多くの死傷者が出て、
戦の大舞台に参加出来なくなってしまう心配をしておるのじゃろう。」
ガスパル「ワシらの防具は飾りではない。
致命傷になるような部分はしっかり覆われておる。
命まではそう簡単にとれないじゃろう。」
ガンガスはホッとした顔をした。
ガスパル「しかし、この地に来て初めての
歯ごたえのある戦ではあるな。
良い酒が飲めそうじゃ。」
ガスパルは、アウカマンの部隊より
はるか後方のマジョケテたちがいる部隊を眺めた。
ガスパル「やはりな。」
ガンガス「?」
ガスパル「突出した部隊は、この前線の者どもだ。
後方にはまるで凄みを感じない。
ワシらは幸運だな、
この戦の派手な舞台はワシらに用意されておる。」
ガンガスは前線を注視し、
グアンコたち巨人の群れに目をやった。
ガンガス「そうだな、
そしてこの前線の凄み尋常ではない。
こやつらはまるで、本土の蛮族※注2)トゥデスコスの様だ。」
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ガスパル「ガハハハ、言えてるな。 差し詰め、
この戦は新天地でのトイトブルクの森と言った所か。」
ガンガス「ヘッフェ、そんな不吉な例えやめてくれ。」
ガスパル「不吉?
ワシらはこんな新天地まで来て 歴史を堪能するものじゃ。
現にお前もより生き生きとした顔をしておるではないか?」
ガンガス、精気が漲り身震いをしている。
ガスパル「兵の消耗は気にするな、思う存分戦ってこい。
ガンガスよ、ほれアルミニウス殿がこちらに向かってきておるぞ。
戦場のマエストロ殿の策が発動する前に、
主役として 歴史を紡いでこい!」
ガンガスは、一際覇気を放ち自軍の兵を薙ぎ払う者へ黒く鋭い槍の如く駆けていった。
-マジョケテ軍前線中央-
ゴッ!カン!ブンッ!
巨大を揺らしながら、甲冑を着た者に近づく先住民の姿が見えた。
ドッドッドッ・・
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マイロンゴ「おい!コルピジャン!奥まで進むな!
上から言われてた通り、
俺たちはヤナクナと小競り合いしてればいいんだ。」
コルピジャンは、マイロンゴの言葉にはっとしている。
そこへ、鉄製の刃が襲いかかる。
スカッ!
刃がコルピジャンの顔を掠めた。
間一髪で、フェニストンが器用に相手の武器の柄を手で小突き、攻撃の軌道を変えていた。
ドシュン!
すかさずフェニストン、土煙の様なものを放ち、
スペイン兵に目眩しすると、コルピジャンの手を引き、味方の群れへ引き返していった。
周りでは甲冑を着込んだ兵たちに、
果敢に挑んでしまったマプチェ兵達は、
なす術なく命を落としていった。
フェニストン(しかし、異形の者たちへはこちらの武器がまるで歯がたたないな。あくまで俺たちの役目は、巨人たちの突進の手助けに徹した方が良いな。)
マイロンゴ「てか、最前線にいるのやめようぜ。
俺たちも少し下がって、倒れるやつをちくちくやって、なんとなく戦ってる体でいいだろう。
死んじまったら、何にもなんねーしよ。」
バシュ!ドス!バシュ!
その時、物凄い勢いで何かが肉を切り裂き、突くような音を奏で近づいてきた。
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フェニストン(ん、なんだ?黒い影?!)
ドカ!
マイロンゴ「いってぇ、何すんだよ!?」
突如フェニストンは、
マイロンゴの肩を掴み地面に引き倒した。
ドサっ・・
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マイロンゴ「ひぃ!」
地面に横たわるマイロンゴの眼前には、
目に歪んだ風穴が空き、
口をポッカリ開けた同胞の顔が飛び込んできた。
フェニストンは、
ドヤり顔で話すマイロンゴに体当たりして、
黒い影の殺戮に巻き込まれるのを防いでいた。
マイロンゴがいた場所を黒い影が通過していった。
黒い影の進んだ後の道には、
正確に急所を損傷されている死体が、
幾つも転がっていた。
フェニストン「なんで速さだ・・
いや、現実の速さはそうではないが、
手際の良さにより、
高速で人が葬られていってるといった所か。」
黒い影はそのまま、スピードを緩める事なく、
前線の指揮者であるアウカマンの所へ向かっている。
マイロンゴ「はっ?」
マイロンゴは、今頃辺りの死体の道に気付いた。
そして苛立ちを忘れて、
ただただ横たわる死体と同様に口をポッカリ開けて、
黒い影を目線で追っていった。
「後、100歩という所か。」
黒い影は漆黒の四騎士の一人、戦狂のガンガスであった。
ガンガスは剣を握り返し、
渾身の一撃を放つ体制に入った。
標的に対し、
足を踏ん張り加速しながら眼前の1人を葬り進もうとした。
その時、ガンガスの左右から人を刈り取るが如く刃が飛んできた
グワン!!
ガンガスは目の前に目を向けると、
長柄の斧をぶつけ合わせた双頭の化け物が立ちはだかった。
ガンガス「ん?なんだこの化け物は?
頭が二つあるぞ。
いや、足は一つづつしかないが、2匹の蛮族か。」
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ガンガスの眼前には、
北のトゥンベス島を追われたグワノ兄弟が立ちはだかっていた。
ガンガス「仲間が直前で葬られているのを利用して虚をついての攻撃。まるで助けるそぶりがなかった。
この蛮族共に仲間意識はないのか?」
マイロンゴ「おお、こりゃ見ものだな。
薄気味悪いあいつらと黒い影の対決か。」
マイロンゴは、
彼らの戦いを遠目にいつもの調子を取り戻した。
ガンガス「ほう、どこで仕入れたんだ・・
やつらの得物、音からしてこれは鉄製だ。」
ガンガスはグワノ兄弟目掛けて剣を振り下ろした。
ブン!
グワノ兄弟はまるで分裂するかの如く、
剣を左右に交わすと、
そのまま互いの片足を軸にして力を込め
斧をガンガスの首元と足元へ向け、振り回した。
ガンガス「くっ・・これは後方に退いて避ける事もできぬか・・」
ガンガスはまるで空中で寝ている様な体制で
上下から迫る斧を躱わすと、
そのまま両足で2人に蹴りを放った。
マイロンゴ「なんだあの変態的な攻防は・・」
グワノ兄弟は蹴りをひらりと回転しながら躱わすと、
空中で無防備になっているガンガスの左右に回り込んだ。
グワノ兄弟は回転の力を活かしながら、
アルカティパイは上から、
カジェグワノは下から互いの斧をクロスする様にガンガスの身体に迫らせた。
ガスパル「下を防げ!!」
咄嗟にガンガスは、
浮いているまま体を反転しカジェグワノの斧だけを防ぐ事に集中した。
ググワーン・・
二つの斧と剣がぶつかる鈍い音が二重に響き渡った。
ガンガス「ヘッフェ。いつの間に。」
ガスパル「ワシはこう見えて、四騎士で1番早いのじゃ。」
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ガンガス「フン、馬上においてはな。」
ガスパルは、
無駄な動作なく長く太いハルバートを馬上から伸ばし、アルカティパイの攻撃を制止していた。
ガスパル「しかし、危なかったな。
と、漆黒の四騎士と呼ばれてるんだから少しは馬も学べ。」
ガンガス「俺は地に足がついてるのが性に合ってる。」
ガスパル「所で、こやつら思った以上にやりおるな。
トゥデスコスの体格だけでなく、
大麻中毒者達の様な身のこなしまでしよる。
というか、お前も吸ってるのか?」
ガンガス「アサシンたちの事を言ってるのか?
ハシーシュはやってないが、南東の技に俺も心得はある。」
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ガスパル「それは初耳だな。
坊さん達には、言わない方が良いぞ。」
ガンガス「ああ。」
ガスパル「言われてみれば、
お前の得物も湾曲しておるな。」
「この剣は抜刀もしやすいし、
色々と俺にとっては利点も多いのだ。」
ガンガスは気を取り直して、剣を構えた。
ガスパル「ただ、なおさら馬上の方が扱いやすそうな剣ではないか?」
アルカティパイ(新しく現れたこの男・・我が渾身の一撃を軽く片手で止めたか。)
不敵な笑みとは裏腹に、ガスパルの背からは熱気が立ち込めいる。
グワノ兄弟は、尋常じゃない圧を感じた。
ガスパル達とグワノ兄弟が睨み合い緊張が高まる中、
遠くから雄叫びが聞こえた。
「ローロロロロロ!」
その刹那、ガンガスの脇腹に丸太の様な何かが迫ってきた。
ガンガスは湾刀でかろうじて受けとめたが、勢い凄まじく、
そのままガスパルの右斜め遥か後方に吹き飛ばされる。
そのままガスパルにも攻撃が迫っていた。
ガスパルは両手でハルバートをしっかり持ち攻撃を凌いだが、馬ごと後方に後退させられていた。
吹き飛ばされてゆくガンガスを横目にガスパルが呟く。
「ほう、あの剣は衝撃吸収にも便利そうじゃのう。」
すぐ様ガスパルは落ち着いた面持ちに戻り、
アウカマンを一瞥すると、自身の愛馬の頭を撫でた。
ガスパル「そうかお前ですら、萎縮してしまう程か。
のう、我がバビエカよ。」
馬はブルルッと鳴き声を上げた。
「ここでやり合うのも一興だが、ワシは先陣を任されている身。
どう転ぶか分からない戦は避けなくてはいけないんでな。」
ガスパルは馬を素早く反転させると、瞬く間にその場を後にした。
ガスパル「さらばじゃ!我がアルミニウスよ!
ロロロローろろろぉ!」
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アウカマンは、ガスパルの行動に特に反応するまでもなく、仁王立ちしていた。
そして、マプチェ兵達は馬で駆け抜けるガスパルに矢を射かけた。
アウカマン「やめい。味方に当たりかねない。
やつとの決着はまだ先であろう。」
※注1)スペイン語でボスの意味 注2) ゲルマン人の事を指す。