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第3話「悲しき犠牲者」

-戦の始まりの地-レイノウェレン  

アルバラド「あとは突撃だ。」  

おおおぉぉ!  

アラバラド軍が雄叫びを上げた。  

ピクンチュ兵「ミチマ様、新手の敵が突進してきます。」  

ミチマ「あれが例のやつか。」

  ピクンチュ兵団がアルバラドの騎馬部隊に次々と殲滅させられていく。  

カスティニャダ「始まったか、よし一気に押し返せ。」  

カスティニャダ兵「ハッ!」    

ピクンチュ兵「ミチマ様!瞬く間に味方が・・」  

ミチマ「浮き足立ってきたか。
ワシに続け!新た手の群れはワシが一掃してやるわ!」  

ロレンツォ「隙あり!」  

ミチマがその場から離れようとした瞬間、すかさずロレンツォが責め立てる。  

ミチマ「甘いわ。うるさい小鳥が。」  

ミチマはロレンツォの攻撃を捌きつつ、徐々にその場から離れていく。  

カスティニャダ「追うな、ロレンツォ。 俺たちは持ち場で敵を追い詰めるまでよ。」    


-アルバラド軍右翼-
騎兵の一団が戦況眺めながら、話しだした。

  騎兵A「ふん、いつも通り化け物を見るような目で俺らを見ておるわ。
今回も楽な戦だったぜ。未開の地での仕事は本当楽だな。」  

騎兵B「ハッハ、だな。
本国では死にかけた事もあるが、俺らの甲冑にはあんな原始的な武器は通用せん。」  

ヤナクナ「ギャー」  

騎兵C「むっ、なんだあの黒くデカイ塊は?」

異変を感じた騎兵達であったが、時すでに遅く、彼らはミチマの間合いから逃れる事ができなかった。  

騎兵Aは馬ごと一刀両断され、他の騎兵はミチマの突進により馬上から吹き飛ばされ地面に仰向けに倒された。  

彼らは重い甲冑と、重なり合って仲間が倒れているせいでなかなか起き上がれないでいた。  

騎兵B「まずいぞ、一旦体制を立て直せ。ええい、何をしておるヤナクナ! 我らを守れ!」  

インカ兵たちは、彼らを救出に行く者もいれば、スペイン語を聞き間違えて明後日の方向へ身構えたり、聞き間違えたフリをして逃げ出す者もいた。    

南のマプチェ兵「おお、ミチマ殿があの化け物を倒したぞ。
我らもミチマ殿に続くぞ!」  

ミチマの武勇によりピクンチェ族、南のマプチェ連合軍の士気は盛り返し、その勢いはアルバラド軍、そしてヤナクナ達を怯ませた。  

さらにミチマは、ケチュア語でインカ兵に叫んだ。  

ミチマ「ヤナクナと呼ばれる者達よ!
貴様らが神と崇めている者の哀れな姿を見よ! ここに臓物を撒き散らし無惨に転がってるのは、神でもなく我らと同じ只の人ぞ!」  

ミチマ「こやつらに貴様らの命をくれてやる価値が、本当にあるのか?!」  

ヤナクナ達は、騎兵の死体に目をやりながら、ざわつき出している。    


-アルバラド本軍-
淡々とした冷ややかな声色でアルバラドは、配下に言った。  

アルバラド「ふむ、向こうは肌色が悪そうだな。
が、本陣がガラ空きよ。
奴らは守るということを知らないようだな。
兵法を知らぬ獣どもめ。」  

アルバラド「あのデカイのには構うな。
そのまま奴らの本陣を叩くぞ。」  

アルバラド本軍は真っ直ぐに敵本陣へ向かっていた。  

アルバラド騎兵隊によりなすすべもなく無力化されていくピクンチェ兵達。    


-ピクンチェ族本陣-
アルバラド騎兵「いとも簡単に落ちましたね。」  

アルバラド「ああ、砦の防御が整ったら、あのデカイのを挟み撃ちにするぞ。」    


-アルバラド軍本陣-

ワイナ「むっ、川からマプチェどもがやってきます。」  

エレロ「何と?
彼らは本当に気でも狂ってるのですか?」  

ピジョルコ「気づかれたか。構わん進むぞ。
まずはあの中洲を目指せ。」  

ピジョルコ軍はこちらと対岸の敵本陣の中継地点の中洲を目指す事にした。  

ピジョルコ「川滑兵よ、先に拠点の確保に向い、相手に圧をかけよ!」  

川滑兵「ハッ!」  

ピジョルコ軍から数人の兵士が物凄い勢いで、中洲へ向かっていく。  

エレロ「なんたる機動力でしょう。
彼らは川を滑る様にしてこちらへ向かって来ますよ。」  

ピジョルコの川滑兵は、岸から助走をつけて川へ次々と進入してゆく。  

まるで現代のサーフィンでもする様なフォームで川を滑り、物凄い勢いで中洲へ迫っている。  

ワイナ「それがマプチェでございます。
長年私どもも手を焼いております。」  

ワイナ「奴らは川の浅い場所を熟知しており、そこをうまく滑りながら進んでいるのです。」  

エレロ「そんな事が可能なのですか?
やはり国王の御触れ通り、彼らは人ではないのですね。」  

ワイナ「・・・。しかし、奴らは火器というものを知りません。
こちらまでたどり着くことは、まずないでしょう。」  

エレロ「そうですか、所詮は獣ですね。
火器を準備してください。
彼らが中洲に上陸したら、一気に放って下さい。」  

エレロ兵「ハッ!」  

川滑兵「よし中洲に着い・・」

ドッ!ドドンッ!!  

ピジョルコ「これは・・
晴天だというのに雷が鳴っておる。
奴らは天候まで操るのか?」  
エレロは立ち止まっている一際大柄の者を目に捉えた。  

エレロ「あの大柄な方が、あちらの軍を率いているようですね。クレブリナ砲を。」  

エレロ兵は一際長い大砲に球をこめ出した。  

その刹那

タイエルが斧を投げた。  

エレロ兵「ギャー、カレブリナがぁ。」  

ワイナ「なんたる膂力・・あれは・・北の奴ではない・・」  

ワイナが言葉を言い終えるより、早くエレロが激昂しながら口を開いた。

エレロ「な、なんだと!
調子こいたお猿さんたちが!!」  

今まで穏やかな口調で話してたエレロが、節々に品性のない言葉が混ざりながら、口汚く話し始めた。  

エレロ「せ、せっかくイングランド商人から苦労して手に入れた、カレブリナが。
私の財産が・・」  

かと思うとエレロは泣き崩れる様に呟いたり、怒りを露わにしたりで、せわしなく感情を吐露している。  

エレロ「ぬうぅ、猿どもの手足から臓物、爪、髪の毛、目玉、脳みそに至るまで、全て売り飛ばして金に変えてやる!!」  

ワイナは動じる事なく、エレロの傍らでただ直立不動でいる。  

エレロ「かね、かね、おーかーねぇ・・」  

エレロは呪文の様に、血走った目で呟いている。    

ピジョルコ「タイエル殿、かたじけない。」  

タイエルはそっと頷いた。  

ピジョルコ「しかし、得体の知れぬ攻撃よ。
我らの機動力で辿り着けなくもないが、悪戯に仲間を失いかねぬな。」  

ヤマイ「兄者、ここは私の隊だけでも行かせくれ。」  

ピジョルコ「駄目だ、妹よ。
この相手はもはやこの規模で対処する話ではない。
撤退だ、すぐにミチマ様の援軍に行くぞ。」    


-アルバラド軍右翼-

ロレンツォ「だいぶ相手も減ってきましたね。」  

カスティニャダ「ああ、ただこちらのヤナクナも大分いかれた。」    


-ピクンチェ本陣- アルバラド騎兵
「準備が整いました。」  
アルバラド「よし、一気に畳み掛けるぞ。」    


-ミチマ軍前線-

ミチマは目の前のヤナクナの群れを猛烈に叩き伏せていく。  

スペイン兵達はヤナクナを盾に後方に位置し、ヤナクナが次々と葬られるのを、ただただ呆然と見る事しか出来なかった。  

ミチマの眼前の群れが半数まで削れた頃、悍ましい殺気が漂い出した。

突如ミチマの脇腹に刃が飛び込んできた。  

ミチマは刃を交わし、軌道の先を見たが人影すらなかった。  

ミチマ「闇洗いだな。」  

どこからともなく不気味な声が響き渡る。  

「裏切り者、裏切り者・・・」  

そして、また無軌道な無数の刃が襲いかかるが、ミチマは恐ろしい反応速度で刃を防いでいく。  

ミチマ「ふん。気味が悪いだけではワシには勝てんぞ。」  

ミチマの眼前に、陰気なオーラを纏った少年が姿を現した。  

ミチマ「闇洗いのアマルよ。
タワンティンスーユの影だった貴様が、また新しい権力の影となったか。」  

アマルはゆらゆらと動きながら、幾つもの残像を生み出し、四方八方からミチマに襲いかかった。  

カスティニャダ「化物には化物か。
あやつが相手でも敵わないだろうが、敵さんも簡単に勝つこともできまい。」  

ロレンツォ「今の内に囲んじゃいますかね。」      

ミチマとアマルの戦いは拮抗し、互いに決定打が出ないまま、悪戯に時が過ぎてゆく。  

ミチマ「くっ、拉致があかんな。」  

ミチマはアマルの残像を身に纏いながら周囲を移動している。  

得物がぶつかる音を響きせながら。  

ヤナクナ兵「ア、アマル様」  

アマル「僕から離れて、巻き込まれて死んじゃうよ。」

ヤナクナ兵「は、はい、アマ・・」  

ブシャー、血飛沫が飛び散る。  

ミチマの纏う黒い霧は、血を撒き散らし、四肢を生み出しながら、周囲の群れを飲み込んでいった。  

カスティニャダ「まるで二つの化け物が一つになり、敵味方構わず喰い散らかしている様だな・・」  

ピジョルコ「着いたか。
ぬぅ、ミチマ様が危ない。即刻救出に行くぞ。」  

ピジョルコの大斧は怒号と共に地を裂く。  

ピジョルコは一振りで大勢を吹き飛ばしながら真っ直ぐに駆けていく。  

タイエルは落ちてる装備や木々や石、そして死体さえも前方に放り投げ、進路を切り開いてゆく。  

ヤナクナの群れは様々な物をぶつけられて、転倒している。  

タイエルはただ真っ直ぐを見つめ、視界を良好にさせてのしのしと歩いている。  

ピジョルコの双子の妹ヤマイは、
二挺の斧を自在に操り竜巻の如く、
蛇行しながらミチマの元へ向かっている。  

切り刻まれる者、絶命する者、利き腕を失い無力化する者と、無差別に竜巻は様々な運命を生み落としていった。    

アルバラド「なんたる突破力。」  

ピジョルコ「ミチマ様大丈夫ですか?」  

ミチマはピジョルコの声に一瞬気を取られた。  

再びミチマは辺りを見渡したが、既にアマルはいなくなっていた。  

ミチマ「ぬぅ、消えたか。どうやら負け戦のようだ。
ただ下々の奴らが騒いでおった化物は、ワシらと同じ人だということは分かったわ。」  

ピジョルコ「そうでしたか。今回はこれでよしとしましょう。」  

ミチマ「うむ。さて引き上げるか。」  

ヤマイ「私が道を作ります。」

  インカ兵「ぎゃー。
《二牙のヤマイ》が現れたぞ!」  

ヤマイはインカ兵を次々と薙ぎ倒した。  

ヤマイが食い散らかした後には、ミチマとピジョルコが控えており大斧により微かに命ある者達も一掃されいった。  

ミチマ軍は荒々しい連携で退路を切り拓いていった。    


-アルバラド本軍-
アラバラド兵「やつらを全滅させました。」  

アルバラド「うむ、しかしなんと痩せた土地よ・・高い買い物をしてしまったようだな。」    


【レイノフェレンの戦い】

ミチマはなんとか生き延びることができた。  

が、北のマプチェではあるピクンチェ族を盟主とした連合軍の犠牲者の数は甚大であった。  

3万近くいた兵は壊滅状態と言われている。  

対して、スペイン側は5000人のヤナクナとスペイン人200名ほどからなる連合軍だった。  

ヤナクナ兵も壊滅的な打撃を受けたものの、スペイン人の犠牲者は2名だった。    


これがコキンスタドールの戦である。    


◉読んでいただき、有難うございました!
次回の話は、月曜12:00公開です。

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「アラウコの叫び」第3話目のCM

⚫️相関図/レイノウェレンの戦い

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