取り留めのない会話(2)-訪来者
※今晩は。
こちらは、「スピリットパクト」と「封神演義」という漫画の2次創作です。
気に入っていって頂けたら嬉しいです。
暗闇の中で声がする。
僕の周りでは聞いたことがない、優しく囁く声……
耳を澄まさずにはいられないその声は、男にも女にもとれる。
知らないうちに耳を傾けた僕に、その声は言った。
『君が今いる世界を別の世界で、何と呼ばれているか知りたくない?』
「別の世界なんて本当あるの?」
『その世界はこちら側からは見えないし、当然行けないけど、ちゃんと存在しているんだ。』
“僕の力を持ってすれば、必ず行ける”
そう言い切った声に
『行ってみる?』
と、可愛い声で訊ねられた僕は、1度躊躇して、向かい側のデスクで御札を作る青年ー端木煕(タンモク・キ)の方へ瞳を向ける。
彼は製作に夢中のようで、僕の甘える視線に気付いていないようだ。
それもそのはず、僕は今向かい合う形で設置されている、黒いソファーの上で寝転んでいたから、視線が届かないのである。
幽霊は眠らないと言うけれど、僕だって眠気ぐらい感じる時だってあるんだ。
「ちょっと位なら行ってもいいよな?」
自問自答して、僕は何処かにいるかもしれない声の主に
「その世界へ行ってみたい!」
と、興味津津と言わんばかりにそう告げた。
『それじゃあ、僕が君の手を握るから、君は』
「君じゃない、楊敬華(ヨウ・ケイカ)っていう名前があるんだ」
『あっ、ごめんね!
それじゃあ楊敬華君、別世界へ行けると強く念じていてね!』
「分かった!」
僕は言われた通りに固く目を瞑って、まだ見ぬ別世界を想像した。
彼が言う別世界とは、一体どんな所だろう?
火を崇める誰もが憎しみ合う世界?
それとも水のように清らかな心を持つ、優しい人達が住む世界……?
(待て待て、まさか物も人も全く何もない世界・・・だったりして)
僕は自らが想像した別世界に一喜一憂して、小さな恐怖を憶えると、思わず身震いした。
『目を開けてみて』
彼の少し鼻にかかった声が、寝惚け眼の僕に優しくそう告げる。
僕は目の前に広がる光景と、想像した光景を照らし合わせる為に、恐る恐る瞼を開いた。
「えーっと・・・ここは?」
目に光景が飛び込んだ瞬間、素っ頓狂な言葉が、僕の口からポロリと零れ落ちる。
『ショッピングモール』
“君の世界にもあったよね?”と訊ねられて、僕は理由も分からずにコクリと頷いた。
だけど・・・ここの方が少し規模が小さいかも。
お店の大きさが小さいというか、何と言うか……
『その代わり、お店の数が多いんだよ』
僕が思案していると案内人ーと呼ぶことにするーは、すかさずその答えを教えてくれた。
“見えないけど、ちゃんと近くにいるんだな”
案内人の事を疑っていたけど、僕が思っていること、喋っていることに答えているところから、存在はしているんだと納得はした。
(でも、何でショッピングモール?)
僕の頭の中に、ハテナマークが沢山飛び交う。
『あーっ、それは会ってほしい人達がいるからだよ』
「会わせたい人?」
案内人の言葉の意味がよく分からなった僕は、どんなリアクションしていいのか困ってしまう。
『もっと驚く事があるから、楽しみにしてて』
最後にハートマークがつくような語尾に、少し恥ずかしくなったけど
(どうせ大した事ないんじゃないの?)
と、案内人を疑ってしまった。
『取り敢えず付いて来て』
“こっちだよ!”と手招きして、案内人は先を急ぐ。
「面白いのなら見に行ってもいいか……」
僕は気持ちを切り替えて、彼の後ろを黙って
付いて行くことにした。
暫く歩くと、家電製品を取り扱う店舗が目に入ってくる。
他の店よりも、十数倍の広さはあるその店を通り過ぎ、僕は本屋へ辿り着いた。
本屋は家電量販店よりも半分の広さしかない。
家電よりも薄いのだから、当然と言えば当然なんだけど。
因みに家電も本屋もみんな右手側にあるから、そこに行くなら回り道をしなくては行けない。
(面倒だな・・・)
僕が内心でいやな気持ちを抱いているとも知らない案内人が
『あっ、いたいた!』
と、向こう側で銀色の手摺りに体を預けている大人2人を見つけ、嬉しそうに笑って叫んだ。
だけど、場所が離れていて聞こえないようだ。
「あの2人は?」
訝し気に問う僕に、彼はにこやかに
『僕の大切な仲間ってとこかな?』
と、少し曖昧な表現をする。
けれど、僕はそれより彼等の姿を近くで見たくて、うずうずしていた。
1秒でも早く側に近づきたくて仕様がない僕は
「ねえ、2人に近づいてみてもいい?」
と、案内人にわくわくしながら訊ねてみる。
『行ってもいいけど、君の事が見えるかまでは保障できない・・・あっ、ちょっと待ってよ!』
僕は彼の長い説明をあまり聞かずに、向こう側へと駆けて行った。
くるりと右にカーブして、彼等に近づいた僕は、驚きのあまり言葉が出せなかった。
目を丸くして見つめる僕の目の前には、端木家の屋敷で自室に籠もっているはずの端木熙と、敵対していたはずの龍神借仁(リュウジンシャクジン)が、仲良く並んで会話を楽しんでいたからだ。
『もう、待ってって言ったのに・・・』
追いついた案内人は、少々愚痴を零してから
『驚いたでしょう?』
と、再び笑って言葉を付け足す。
「驚き過ぎて一言も出ない……」
僕は今の気持ちをストレートに伝え、その場に立ち尽くした。
有り得ない光景にどう対処したらいいか考えていた僕に
『彼等の話、少しだけ立ち聞きしてみない?』
と、案内人が楽しそうに誘う。
(こうなったら、好奇心を思い切り満たしてやる!)
“立ち聞きはいけないけど、どうせ2人には見えないはずだから”と、僕は胸の内で決意して耳を澄ました。
「今日は買い物に付き合って貰って悪かったね」
「いえ、僕も用事があったから」
黒髪の短髪の男性ー橙口天光(ヒグチタカアキ)と、やはり黒髪だが彼よりも伸びている男性ー千津風五(チヅフウゴ)は、目の前の本屋へ入ったきりの青年を待ちながら、楽しく談笑していた。
2人は同じ職業を生業としているが、天光は主にナレーターを、風五はアテレコを中心に活躍している。
元々ごくたまにアフレコ現場で会うだけの仲だったが、とある事件がきっかけで、こうして仲が良くなり、今は連絡を取り合うようになった。
今日は天光の従兄弟が遊びに来ているということで、風五を誘って近くのショッピングモールへ買い物へやってきたのである。
片や風五はというと、彼の誘いを受けて思いついたのが、上松鋭美(アゲマツサトミ)とのデートだった。
彼女もまた、ここで買いたい物があると言っていたのを思い出したからである。
「用事って・・・上松さんとデートですか?」
「えっ・・・何を言っているのか・・・」
“鋭い!”と思いながら、天光の唐突な質問に、風五は顔を真っ赤にして否定した。
でもそれは、言い当てて妙というものである。
確かにここで待ち合わせはしたが、午後4時には現場へ向かわなければならず、彼が言うデートと言う程でもなかったからだ。
(上松さんは、もっと僕と一緒にいたいんだろうな……)
“いや、逆だな”と、風五は否定して
「橙口さんの従兄弟さん、まだ出てきませんね」
と、話をはぐらかすように話題を変える。
「悩みに悩んで選ぶからな……あいつ」
溜め息混じりに言葉を吐く天光に
「なら、僕達も中へ入りましょうか?」
と、風五は提案した。
「いや、気持ちは嬉しいけど、上松さんが来たら中へ入ろう」
天光は彼の申し出をやんわりと断り、もう少しここで待つ事を逆に提案する。
「……直に来ると思いますから、ここで待いうことにします」
風五は彼の意見を受け入れて、あと少し待つことにした。
「上松さんって・・・?」
耳を欹てていた楊敬華は、今ここにはいない人物の事を、不思議そうに案内人に訊ねてみる。
『うーん・・・それじゃあ、迎えに行こうか』
「僕のこと見えないかもしれない人を?」
『見えないか・・・なら、こうしたら?』
彼は敬華の悩みを解消する、とっておきの方法を耳打ちした。
『ほらね、やっぱり近くにいたでしょう?』
“僕の勘は当たったね!”と、さも嬉しそうに笑って言った案内人は
『見えるようにって、強く念じた?』
と、緊張気味の僕に訊ねた。
『その気持ちを長く保たないと、直ぐ消えてしまうから、気をつけてね。』
「・・・分かった、やってみる!」
僕は不安を吹き飛ばすかのように答えて、一歩足を踏み出す。
彼等がいう“上松さん”は、直ぐ近くまで来ていた。
だけど……僕の瞳にこの人の姿が映った時、驚きを隠せずにその場に固まってしまう。
僕が今身に着けている、水色のジャケットとズボンを、若干の違いはあるけど同じ形の服を着ていたからだ。
(瓜二つっていう言葉は、この場面の事なのかも)
怖くて動けなくなった僕に、痺れを切らした案内人は
『仕方がないな・・・えぃ!』
と、呆れた声を出すと同時に、思い切り背中を押す。
(うわーっ!?)
声なき声を上げ、僕の華奢な体は勢い余って、彼女の前に躓くように飛び出した。
彼女ー上松さんは、一瞬自分の目の前で何が起きたのかという表情で、僕を見ている。
(僕と同じ顔……同じ体型……)
“そんな人いるんだな”と、妙に感心して
「こ、こんにちは!」
と、思わず場違いな挨拶をしてしまった。
(驚きの眼で見ているのは、僕の方なのかもしれない)
そう思っている僕は、自分の体が消えかかっていることに気付かず
(髪の毛の色も似ているし・・・彼女が端木熙の前に現れたら、一体どんなリアクションを取るのかな?)
なんていうことを、呑気に考えてみる。
(腰を抜かすか・・・それとも抱きつくか)
“後者はないな”と否定した僕の胸の中に、沢山の疑問が次々と沸いてきて、いつしか僕の口から言葉が出なくなっていった。
僕との違いは“女性”である事だけ……
それを思っただけ、で小さな嫉妬が生まれてきた。
(初めて会ったのに、これはないよな)
自分に恥ずかしながら突っ込みを入れて、僕は考えた。
考えて・・・僕はその場から姿を消そうと決める。
彼女と接することによって、この世界に何らかの影響が出てしまうかもと思ったら、急に怖くなったんだ。
『それはないから、大丈夫!』
「僕の心の中を覗いたのか?」
『僕、聞こうと思ったら聞こえちゃう体質だから』
“悪気はないから許してね”と、苦笑して謝る案内人は
「端木熙の他にもそういう人がいたんだな」
と、顔を引き攣らせて言った。
『人じゃないけど・・・まぁ、とにかく敬華君が考えていることは本当に起きないから、安心して上松さんとお話ししてみて』
案内人はクスクスと笑ってそう告げたかと思うと、僕が話易いように、気配を消してしまう。
「ち、ちょっと待て、上松さんに僕の姿は見えない」
“僕を一人にするな!!”という気持ちが届かないことに苛つき始めた僕の耳に、とても信じられない言葉が貫いた。
「楊敬華君がいる・・・」
何故だろう、彼女ー上松さんに瞳を向けなくても、とても嬉しそうに声を漏らしたことが分かった。
そう、それだけ僕が上松さんと通じたいと思っていたことだったんだ。
「本人・・・?コスプレした人?」
「コスプレ・・・?」
何を言っているのか分からないけど、彼女の目に僕が映っている事だけは分かる。
『細かい事は無視して、そのまま上松さんの話を聞いてあげて』
(いつの間に戻ってきたんだ?)
『ずっと側にいたよ』
“いいから早く!”と、ここで案内人の的確な指示が、僕の耳に飛んできた。
彼への不信感は消えないが、追求するのを後回しにした僕は小さく頷いて、上松さんの言葉を拾うように耳を傾ける。
「私、人には言えなかったけど、きっと何処かに敬華君が生きている世界があるって信じていたんだ!」
“だからこれが束の間の時間(トキ)でも、会えて嬉しい!”
彼女は飛び切りの笑顔を見せて
「あそこにも友人がいるから、一緒に来て」
と言って、不意に僕の右腕を摑んだ。
いや、それは嘘で……。
本当は摑むことが出来なかった。
彼女の手がスルリと抜けて、空を摑むところを目の当たりにした僕は、やっぱりこの世界において異質な者なんだと、改めて感じる。
(何だろう……この気持ち……)
伝えられない台詞が胸一杯に広がって、押し潰されそうだ。
ただ“会ってみたかった”と、それだけを伝えればいいのに、僕の唇はずっと麻痺し続けていて、一向に動く気配がない。
上松さんが驚愕ーとまではいかなくてもーした表情の中に、心配という言葉を浮かべている事に、うっすらと気付いた僕は、一言でも喋ろうとして藻掻いてみたけど……
『ごめん、そろそろ帰る時間が近づいてきたみたいだ』
なかなか喋らない僕に、案内人が非情にも時間切れを告げる。
(突然こっちの世界に遊びに来ても、これじゃあどうする事も出来ないなぁ……)
僕はがっくり肩を落とし、それでも最後に足掻こうと思い……
何かを言おうとして、口を開きかけたその刹那。
「待って、消えないで!」
「えっと・・・上松さん?」
僕が咄嗟に覚えたての名前を呼ぶと、上松さんはコクリと頷づいてくれた。
「本当に僕の姿が見えているんだな」
「うん、見えてるよ!」
彼女は目に涙ぐみ、だけどニッコリと笑って答えた。
その笑顔は僕に似ていて、凄く可愛い。
(見たことはないんだけどね……)
内心で自分に突っ込んで、虚しさを感じた時、上松さんの柔らかい唇が動いた。
「あのね、端木さんの影霊……ここでは守護霊って呼ぶんだけど、多分色々な事があって、大変だと思うんだ」
「……うん」
「でも、遠くから応援してるから、めげずに頑張ってね!」
溢れそうになる涙を拭いた上松さんから、応援メッセージを貰った僕は、強く頷いてみたものの、それ以上言葉にする事など出来ず、そのまま姿を消した。
再び暗闇に紛れ込んだ僕は、隣りにいるであろう案内人に、さっきの世界のことを、何気なく訊ねる。
「あの世界は一体何なの?」
“僕や端木熙と同じような人がいたけど”と、不思議そうに首を傾げる僕に
『あの世界は、君が住む世界と表裏一体化した世界だよ』
と、ニコッと笑って答えた。
“よく笑うな・・・この人”と、内心呟きながら
「一体化した世界?」
と、訝し気に訊ねる。
『似ているようでいていない世界をそう呼ぶんだ』
「似ているようで似ていない世界ねぇ……」
感嘆の声をあげてはいるが、僕の頭の中ではハテナマークが沢山飛び交っていた。
『向こうの世界では、君の世界を“パラレルワールド”とか“異世界”って名付けているよ。
事実、似ていた所があっても、微妙に違っていたでしょう?』
クスクスと楽しそうに笑う彼ー多分右隣りにいるーを横目で見た僕は、“ふーん”と、感心した声を出し
「うーん・・・まだよく分からないかも」
と、理解出来ない説明に対して謝った。
僕は彼が言いたいことをなるべく分かってあげたかったけど、難しい言葉ばかり出てきて、訳が分からなくなってしまって……
どうやって理解したらいいのか思いつかず、結局渋い顔をするしかなかった。
束の間の沈黙の後、僕は思い出したかのように、案内人の正体を訊ねる。
これだけは聞いておかないと、次に行く時に大変な目に遭いそうな気がして……
『僕はあまねく世界を見守る釈迦如来の脇侍、その名を普賢菩薩と申す・・・何てね』
“大切な友人の口調をまねしてみました”
照れ笑いを浮かべて、案内人ーいや、普賢菩薩と名乗った彼は
『上松さんがいる世界へ行きたくなったら、いつでも僕を呼んで』
と、伝えてから、静かに微笑んだ。
“強く念じれば、僕の耳に必ず届くから”
普賢菩薩は顔を綻ばせてそう告げ、僕の前から姿を消した。
「何だか、あっという間に終わったって感じ?」
誰もいなくなった暗闇で、僕は一人つまらなそうな表情を浮かべて、一人トボトボと下を向いて歩く。
思い出すのは、つい先程までいたあちらの世界……
(僕と上松さんは、実は分からない程昔に兄妹として暮らしていたんじゃないか?)
ホラッ、亡くなった章軒って人が言ってただろう?
人間として生きていた時の絆は切れ易いものだけど、魂の時に紡いだ絆は簡単に切れることはなく、永遠に繋いでいけると。
もう一度人間として生きたいと願った時、上松さんはあっちの世界を、僕はこっちの世界を選んで生まれただけの話なんだ。
(僕としてはよく考えた方だな)
自分を誉めて上機嫌になった僕の耳に、ボソボソと語りかける声が聞こえてきた。
耳を澄ますと、聞き覚えのある声が僕の名を頻りに呼んでいることが分かる。
その声に従って歩こうと思った僕は、一瞬立ち止まり、名残り惜しそうに後ろを振り向いた。
(上松さんね……)
“僕に似て可愛かったな”なんて独り言を呟きながら、声のする方へ足を向けた。
(……華……敬華)
「楊敬華!」
「えっ、えっなに?」
「敬華……さっきから名前を呼んでいるのに、何故返事をしない?」
「えっ、呼んでたの?」
僕は“聞こえなかった”と言い訳をして、お札を書く手を止めている端木熙を、気まずそうに見つめた。
(あちゃー……怒ってるよ……)
“どうしよう”とあたふたしだした僕の態度に、カチンときたのだろう。
“ガタン”と大きな音をたてると共に、勢いよく椅子から立ち上がった端木熙は
「返事をしないから、ずっと心配してたんだ」
と、目くじらを立てて怒鳴る。
「そうか……心配したんだ」
「心配したんだじゃない!」
「うわーっ、ち、近いよ、端木熙!」
僕は一気に歩み寄った彼の行動についていけず、恥ずかしさを感じて、ついそんな台詞を口走る。
「俺は……」
「うん?」
ソファーの上で体を半分程起こした僕に、お構いなしと言いたげな表情から一変、端木熙は今にも泣きそうな表情に変わり
「お前にもしもの事があったら、俺は……」
と、珍しく胸の内を明かす。
「おいおい、僕はもう死んでるんだぜ?」
「それでも……俺は……」
呆れた表情で言う僕に、言葉にならない気持ちを、端木熙は一所懸命に伝えようとした。
(僕にとっては少しの時間でも、こいつにとったらとても長く感じるんだな…)
彼の辛い気持ちはひしひしと伝わってきたが、それでも僕のプライベートの時間まで、縛られたくはない!
僕は意を決して、徐ろに口を開く。
「心配をかけておいてなんだけど。
これから先、もしかしたらちょこちょこいなくなるかもしれない」
「楊敬華・・・お前という奴は!」
「うわーっ、ごめんなさい!
でも、もう決めたことだから、許して!!」
「決めたって、何を?」
「それは内緒!」
僕は端木熙の尋問らしき言葉に対抗して、絶対あの世界のことは喋らないと決めた。
その代わり、僕は完全にソファーで仰向けになった形で、端木熙の攻撃を浴びることとなった。
(痛いんだけど・・・でも・・・ごめん。
僕はここではない世界で生きる、彼女ー上松さんに会いに行きたいんだ)
文句を延々と言い続ける端木熙を無視して、僕はこの誓いをしっかりと胸に刻んだ。
お仕舞い