![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/168952078/rectangle_large_type_2_f39e856afd12c01e29983efb491fa759.png?width=1200)
100メートルの顔面
コロナ禍に通い始めた脱毛サロンが去年倒産してから、VIOは無法地帯だ。高齢処女だが、パイパンに憧れがあるので余すことなく照射していた。少なくなったとはいえ、もともと剛毛なので下着からはみ出なくなった態度だ。
誰にも破られない堅城とはいえ、婚活を始めたからには庭師くらいはまた雇わねばなるまい。
ノンデリ年下元彼に「チクチクしてる」と笑われた心の傷は一生消えない。お前は地獄で針山に刺されろ。
あとエッチな下着を買う。実家暮らしだからと今までは色気のないかぼちゃパンツを履いていたが、もういい大人だ。茶化されてもいい。
愛され続ける努力。
20代はそれができなかった。
彼氏ができるのがゴールではない。
まして、今度は結婚だ。
それこそゴールではない、スタートだ。
年始に浜口京子似(40)と初詣デート。
前日、爬虫類顔(42)とのアポで非常に疲れていたため、当方は眼鏡だ。愛され続ける努力が聞いて呆れる。
浜口京子とは初めての食事だった。2人が普段よく行く共通の中華チェーン店を指定した。最初は緊張したが、3回目も漏れなく15分の遅刻で(今度は相手に近い立地にしたにも関わらず)若干イライラしていたので食欲が出た(?)
共通のアニメの話題で盛り上がり、流行っていたけれど私の知らないアニメの話を辿々しく丁寧に説明してくれる。
なんだかその様子が微笑ましくて、心がぽかぽかした。餃子もはんぶんこしたので、シェアができる人だ。
会計は細かいお金を持ち合わせてなかったので、私が支払った。大金でもなかったので、割り勘を断ると、お茶代は出してくれるとのこと。(結局出してくれなかったが)
場所を移し、初詣。
境内に列が出来ていたが、並ぶ間も何気ない会話で盛り上がる。昨日の爬虫類顔との無言の気まずさはなんだったんだ。 そういえば、昨日は鬼のように寒く雨も降っていたが今日は暖かい。
「初詣です」
「私もです」
新年初の大嘘だ。
「車につける交通安全にしようかな…縁結びもありますね」
「縁結び守は、相手がいない人は相手と結びつけてくれるし、いる人はより強く縁を結んでくれるんですよ」
「…縁結びにします」
彼は受けた縁結び守を大事そうに眺めていた。
私は、受けなかった。
自惚れかもしれないが、彼はたぶん私以外と連絡を取っていない。あと、すごく私を好いてくれてる。乙女ゲームで長年培った勘だが。
きっと、彼とお付き合いしたらとても愛してくれるんだろう。漠然とそう思った。
しかし、まだ会って3回だ。
せっかちなのは私の悪い癖。
私にも、もちろん彼にも選ぶ権利はある。
飛ばしすぎないようにブレーキをかける。
やんわりと、他の人とも会っているアピールをしておく。今月は、暇になった友人の母プレゼンツのお見合いも控えている。
かといって過度な駆け引きは良くない。
結婚を目標としているくせに、まだ恋愛のドキドキを求めている気がする。そこは自戒。
カフェに入る。
彼はいつも生クリームましましの甘い飲み物を美味しそうに飲んでいる。私は普通の緑茶だ。
「なぜか、女の人にフェードアウトされてしまいます」
「特に問題あるようには思えないのですが…あ、もしかして遅刻してませんか」
「………してます」
「それですよ!ダメですよ!?楽しみにしてないのかなって思っちゃいます」
自分のことをゆうにゃんだと思い込んでるババアなので、あざとくボディタッチをしながらやんわり諌めた。言ってやった。40過ぎて、時間を守れないのは正直どうかと思う。
そこから距離が縮んだ気がして、お互い…というか私が少しだけ、踏み込む。
「私、実家ぐらしなのにほぼ貯金ないです」
「いいんです、僕が稼ぎます」
「年齢もありますし、長年生理不順です。恐らく子供ができにくい身体です」
「無理に作らなくても、きっと2人で楽しく暮らせます」
口ではなんとでも言える。けど。
なんだか、抱えていたものが軽くなったように思えた。
正直泣きそうなくらい、嬉しかった。
よく考えたら、会って3回目でする話ではない。重すぎる。彼に期待しすぎている。そのあとは、なるべく楽しい話をするように努めた。
そのあと、次回の約束をして別れる。
なんだか気恥ずかしくて、フォローのメッセージを入れておく。すぐに返信がくる。
「正直な話特に気になりませんでしたよ。気にならないというのは軽く考えてるのではなく、色々人それぞれ事情があるという話なんです。
先ずはお互いの性格が合わないとと思っていて、毎回拙い私の話を聞いてくださっていて、私の中ではとても嬉しい時間になっています。」