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冷静と情熱のあいだ

江國香織がストーリーを書き、次の刊行時に辻仁成が続きのストーリーを掲載するという手法の連載からスタートした。
映画しか観ていない。
【冷静と情熱のあいだ】

この夜のわたしと彼は、冷酷と激怒のあいだという感じだった。

案の定、彼はうちの近くまで来ていた。商店街を抜けた先の2人掛けのベンチで会った私たち。
彼は涙ながらに、何故?何故?と連呼する。
わたしはもう決めたからの一点張り。
突然の崩壊。助長は無い。絵に描いたような平行線。

使うか‥
子供が欲しいんだよ。〇〇〇くんにはまだやりたいことがあるでしょ。だからこのままだったらもう。
ありきたりなセリフ過ぎて大事なところで引き攣ってしまった。
彼は真っ赤だった。真夜中寝言混じりにしか聞いたことない燃えたぎる青年の歯軋りが聞こえてきた。
彼は肩で息をしていた。

ドラマや映画で本当にこんな場面はあるかと思うぐらい、名シーン名台詞が怒涛のように訪れた。

一度考えておいてと高いトーンで彼に声をかけると、振り返らずにその場を去った。
心の10%は振り向きたかった。
彼はこのあとちゃんと帰れるのだろうか。
取り乱して、変なことにはならないだろうか。
未練というよりも心配の10%だった。

着いてきそうだったので、素早くスマホに目をやり、近所の友達に電話をする素振りをした。
スマホのバッテリーは10%も残っておらず、LINEを開くとすぐに黒い画面になった。
(続く)

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