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見えないものを見る

タイトルの言葉は、「最高の人生のはじめ方」という映画の中でのモーガン・フリーマンのセリフだ。

かつてのベストセラー作家が年老いて、奥さんも亡くしアルコールだけが唯一の支えというなか、夏の間だけ滞在した場所で出会った少女とその家族とのやり取りを通して、生き生きとした生命力を取り戻す、そんな感じのお話。

「最高の人生」というのが、少女の母親であるバツイチ女性との恋愛を指すのか、再び書く意欲を取り戻したことを指すのか、はたまた作家という仕事に興味を持った少女に自分の哲学を伝えることを指すのか、最初はよくわからなかった。

でも、今こうして文章にしてみると、それらすべて(他にも色々あるかも)を指しているのかな、と思った。人には色んな欲求があるから、複数の要素がそこそこ満たされていないと、幸せとは感じないのかもしれない、なんて思った。

それはさておき。

タイトルにあるセリフは、「物語の書き方を教えて欲しい」という少女に、モーガンが自分のノウハウを伝える中で出てきたもののひとつ。

この言葉をきっかけに、少女は物語を紡ぎ出すコツをつかんで、生まれて初めての物語をあっという間に創作し、その歓喜を全身で表現しながら母親の元へと駆け寄っていく。

仕事をしていても、誰かのふとした言葉がきっかけで、それまで何となくしか理解していなかったものへの理解が、一気に進むということがあると思うが、多分そんな感じ。

自分もいつか小説とか書けたら面白そうだなぁ、と妄想することがあるけど、たしかに「見えないものを見る」ことは、物語を生み出すひとつのアプローチなのかもなーと感じた。

クリエイティブな生活を送っている人からすれば、毎日の歯磨きくらい当然のことかもしれないけれど、自分としては新鮮だった。

それからたまに自分でも「見えないものを見る」練習をしてみるものの、映画の中の少女のように物語がどんどん湧き出てくる…!という感じは、まったくない。

勝手なストーリーを想像することはできても、結局記憶にあるものを再生しているに過ぎず、ありふれたものしか出てこない。

それでも繰り返し練習していれば、いつかまた違った感覚に出会えるのだろうか。あの少女のように、「物語が湧き出る感覚」を感じられない人間は、そもそも物語を生み出す才能には恵まれていないのか…。

でも、あの少女も、はじめから湧き出てきていた訳ではない。

長い一本道を二人で眺めるシーン、何が見えるかモーガンが少女に語りかけるが、その時は少女にも何も見えなかった。

最初はうまくできなかったからこそ、できたときに歓喜に震え、母親のもとへ駆け寄ったのだ。何かに感動したとき「誰かに伝えたい!」と思うのは、なんかわかる。人の欲求のひとつなのかも。何でだろう。

いつかあの少女が感じた歓喜を、味わえる日が来たらいいなあ。

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