毒親だった肝臓がんの母から「いい娘を持って幸せだ」と言われるまで(10)
2020年3月コロナで面会が制限される1週間ほど前、最後に面会したときの母は、不思議なほど穏やかだった。元気だったころの母とも違う様子だった。
その日はとにかくご機嫌だった。
なにかすべてを悟ったような様子で、ニコニコしている。車いすに手をかけて、
「来てくれて嬉しい!家は遠いんでしょ?」
と私に言う。
「すぐ近くだよ。車で10分くらい。」
というと、
「車に乗れるの?あーそう。」
どこまで分かっているのかとも思ったが、母が大切にしている御書を持ってきたことを伝えた。ほかにも本を少しと新しいメガネを渡した。
母は本をパラパラめくりながら、
「このまま死んだら来世もまたこのままだってのはイヤなのよ。絶対に勝って、来世はもっと幸せになってみせるんだから。がんばるぞー!!」と母は笑顔で言った。
「そうだね。私が代わりに祈ってるんだから、絶対大丈夫だよ。願顕於業なんだから、これからでしょ!」と言うと、
「あーーー!私はいい娘を持って幸せだ!来世もまた親子になってね!」
と母は笑っていた。
母が肝性脳症を発症してから、あれほど嫌いだった母をなんとか守りたいと必死だった。世間体、親子の情、倫理観。どれも違うかな。家族って難しい。私は母を好きなのか嫌いなのか、また親子になりたいのかわからない。
生命が危険だと何度か言われたけど、そのたびに不死鳥のように復活した母。なんという生命力。コロナでガラス越しの対面で何度も会いに行った。
10月の土曜日の朝、施設から電話があった。今度こそあぶないという。兄と息子にLineを送り、娘と私も施設に向かった。
眠っている母の口を、娘がティッシュで拭っている。
息子が到着したところで、母は待っていたかのように静かに旅立った。
あっけなく、じゃあねって感じでまばたきを2回して、一度息を深く吸って吐いた母。
そうだね・・・また親子になるか。っていうか、眷属だからさーー。親子なのかわかんないわよ。それにあんた私にハズれたとか言ってたくせに(# ゚Д゚)
でもね、今は考えないでおこうね。全部おまかせで。