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紫陽花に降る青黒い雨ー『カムカムエヴリバディ』の詩的な映像表現

今日の『カムカムエヴリバディ』(第17話)は、岡山大空襲を描いており、内容的には見ていてとてもつらくなった。一方で、金太役の甲本雅裕さんの慟哭どうこくのシーンを初め、俳優陣の演技からは今日も感動をもらった。それと同時に、独特な映像表現の秀逸さに目を奪われた回でもあった。


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甲本さんの迫真の演技については言わずもがな、ここでは一言だけ、上白石萌音さんの演技に触れておきたい。避難先で空襲の恐怖に怯えながら、安子は稔の写真をぎゅうっと抱きしめて、祈るように目を閉じる。そのしぐさと表情が相俟あいまって、視聴者に安子の感情がひしひしと伝わってくる。無言のシーンだが、私には安子の心の声が聞こえてくる気がした。「稔さん、どうかご無事でいてください。そして、るいやみんなを見守ってください」、そんな祈りの声だ。


さて、気になった映像は、夜中の空襲が終わり、夜が明けたことを示唆する場面転換に用いられた、二つの連続する描写であった。それは、時間の流れを示す効果をになうと同時に、象徴性や暗示性に富んだ詩的な映像表現となっており、少なからず驚き感銘を受けた。


一つは、可憐かれん紫陽花あじさいに降り注ぐ青黒い雨の映像だ。紫陽花は橘家の庭をいろどっており、安子の母小しずが花ばさみで切って花瓶に活けようとしていた花だ。だから、紫陽花は橘家の温かい家族や平和な日常の象徴だ。さらには、紫陽花は、慎ましく美しく生きる全ての市井しせいの人々の象徴でもあるだろう。それをけがすように容赦なく降り注ぐ青黒い雨は、ナパーム弾の油のようでもあり、焼け跡に降る灰塵かいじんを含んだ雨粒のようにも見える。そして、それは戦争の残酷さや理不尽さを象徴しているように感じられる。またこの雨は、その後広島の原爆投下の時に降り注いだ黒い雨をも連想させる。ある意味無残だが、インパクトの強い映像だ。

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続く、墨のように黒い川の水面みなもに光の粒がきらめく映像は、不穏な美しさを漂わせていた。稔が安子に自転車を教えたのは、川のほとりの土手だった。また、安子が見合いを命じられた時、別れを決意して大阪の稔に会いに行くシーンがあった。二人は川のほとりをそぞろ歩きし、肩を並べて川面に沈む美しい夕日を見る。そんな流れ続ける川もまた、穏やかで平和な日常の象徴であり、稔と安子にとって大切な思い出の場所だ。その川が今真っ黒に染まっている。激しい空襲によって、実際に川が黒くなったのかもしれない。いずれにしても、黒い川は、一夜にして平和や多くの大切な命が奪い去られた凄惨な事実を象徴しているように思える。と同時に、静かな水面に光がきらめいているのは、空襲が止み、夜が明けたことを暗示してもいるのだろう。それをナレーションでなく一つの映像で表現する演出の巧みさ。

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これらの映像と共に、弦楽器による荘重そうちょうな調べのBGMが流れる。音楽と融合することで、束の間つかのまの映像が、より印象的でアーティスティックなものとなっていた。

優れて詩的な映像表現と出会い、このドラマの制作陣のレベルの高さを改めて実感した今日の回だった。







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