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アーモンド・スウィート 何で騒ぐでいるのか

 淡路町の交差点から歩いて十分ほど、秋葉原・上野に向かって進んだ所にあるスーパーマーケット・リングリングに秀嗣は来ていた。ばあちゃんに、夕飯に焼きうどんをするからうどん玉六玉とモヤシを四袋買って来てと頼まれたからだ。リングリングの他に、神田錦町の神田警察署の前にスーパー・メイプル、神田和泉町・秋葉原にスーパー・レインボーがある。秀嗣はその三箇所のどこでも歩いて、ばあちゃんや母ちゃんに頼まれて買い物に行く。値段を考えていつもリングリングに行っている。一番値頃感があるのは和泉町のスーパー・レインボーなので、毎日でも買い物に行ってあげたいと思っている。しかし、秋葉原を通り、昭和通りを上野に向かって歩くのは、人通りが多いことも有り学校では推奨されていない。それに途中に今和泉小学校があり、ここの生徒と秀嗣たちは仲がよろしくない。追っかけ追っかけられる関係にある。今和泉小学校の生徒が神田駅前や東神田小の前まで出っ張ってくることはないが、もっぱら秀嗣たちが秋葉原に遊びに行く時、上野まで歩いてゆく時、彼らのテリトリーに入る。または年一回の岩本町・馬喰町で行われているファミリーバザールに行ったとき、スーパー・レインボーに買い物に行くとき、彼らのテリトリーに入る。なぜかしら今和泉小の彼らと出会ってしまう。秀嗣たちは周りを見回しながら、接触を避けようと努力をしてるのに。追う追われるの関係はその時に仲間の人数で決まる。東神田小の仲間が多ければ秀嗣たちが追う、今和泉小の仲間が多ければ、秀嗣たちが追われることになる。じゃあ秀嗣たちの方が人数が多ければ避けようと努力していないではないか、と指摘されれば反論できない。

 話しが脱線したので元に戻る。秀嗣はリングリングに買い物に来た。店内には行って直ぐに奇声が聞こえる。
「◇○キー▲♂♀ウエー★§ワー〆#ダー♭♫♩……!?」といった感じで子供が裏声で何かを叫んでる。あまりにも高い声なので、何を言っているのか分からない。ただ何かを言って叫んでる。何かを買って欲しくて叫んでいるのか、店を出てどこかに行きたいと叫んでいるのか、スーパー連れて来られ自由を奪われたから叫んでいるのか分からないが、連れて来られた子供は何か不満が有るらしい。
 姿が見えないから、店の奥で叫んでいるらしかった。店は夕方の買い物をしている大人たちで少し混んでいた。なるべく近付かないように気をつけながら、うどん玉六個とモヤシ四袋を買い物カゴに素早く入れて、念のためにお菓子売り場を避けるようにレジに向かった。本当はアイス売り場や、お菓子売り場を見て回りたいけれど、あの高い裏声を間近に聞きでもしたら、秀嗣が方が叫びたくなってしまう。「あれは、キ○ガ○だな。触らぬ神に祟りなしと言うから、道草を帰ったほうが心身の健康の為…」
 とレジに向かう秀嗣に背中に向かってキ○ガ○のような叫び声が走ってくるのが聞こえる。「やすし!!」と叫びながら追っかてきている母親らしく声も近づいてくる。やべぇー、と思った。見れば七歳くらいの男が、店の他のお母さんやお祖母ちゃんたちの間を縫って走ってくる。母親は買い物カゴを載せたカートを押しながら追っかけくる。カートを人にぶつけながら追っかける訳にもいかず、子供との差が開いていく。まるでリングリングの店内を陸上トラックのようにしたおっ駆けっこの有様。
 それでも母親は頭を使い、商品棚と商品棚の間をショートカットするように走る。母親が後ろを追っかけてきていると思っていた男の子は、母親が後ろにしないことに気付き、母親を見失ったところで立ち止まった。そして案の定、涙を流し大声で泣き出す。
 また一段と「◇○ギェー▲♂♀×ヴェー★§÷ドゥワー〆#@ディグァー♭♫♩……!!!!!」と、さらにドンドンと飛び跳ねながら、腕をブルンブルンと振りながら大きな声で泣き叫ぶ。近くにいた余所のお母さんたちは男の子に注目せずにいられない。そして全員が一言、男の子に注意しようか躊躇っている表情をしている。言って素直に聞く子供とは思えないから、注意もできない気がする。ショートカットした母親が、やっと姿を見せた。
 と男の子は、普段の躾の悪さか、はたまた母親が夫婦ゲンカなどで物を投げる姿を見習っているのか、手近にあった食パンを手ではたくようにして床に落とした。食べ物を粗末にする神経を疑いたくなるが、飽食の時代と言われて久しいから、食パンや菓子パンをスーパーの床に落とすとか、食べられる物を捨てるとかしても、心がチクチク痛んだりしないんだろう。母も子供も。二つ、三つと躊躇ためらいなく、母親の姿を真っ直ぐに見ながら続けて落とす。すぐにどこかで様子を見ていたフロアー責任者と思われる女性店員が、男の子に声をかけた。同時に男の子の視線を辿って母親も見た。母親は何事もなかったように、床に落ちていた食パン数個を棚に戻した。
「あのー、こちらでお話を伺いたいんですが、よろしいですか?」とフロアー責任者が母親に声をかける。近くにいた別の女性店員に、拾った食パンを持ってくるように指示をする。男の子は母親と店員の遣り取りを敏感に感じ押し黙り、やっと店の中に普段の静けさが戻る。
 男の子と母親、女性店員二人が店の奥に行った。
 あのまま落としたパンを棚に戻して、素知らぬ顔をして店を出るつもりだったんだろうか。
 そして何を騒いでいたんだろうか、と秀嗣はレジを待ちながら思った。

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