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アーモンド・スウィート

 麦畠遥佳むぎはたはるかの家は生け花を教えている。母も祖母も生け花の先生だ。遥佳自身は将来生け花の先生になるか考え中である。スイミングスクールに通うほど泳ぐことが好きで、幼い夢だがオリンピック選手にもなってみたいような気がする。大学に進んで、医者か弁護士になりたいと夢みたりもする。
 医者に成るなら脳神経外科の医者になって、人を助けたいと思う。祖父が脳梗塞に倒れ、血栓が右脳を詰まらせた為に左半身が麻痺してしまった。右脳をやられたからか言葉も不自由で、喉にも麻痺がでた。喉の麻痺は遥佳からみても可哀想で、周りが注意していないとしょっちゅう誤嚥してむせる。普通の水や白湯がスムーズに飲めないようだ。
 祖父を毎日みていると、もう少し脳の機能が戻ったら良いのに思う。だから脳神経外科の医者に成りたい。そう優しく思うのだが……。
 
 祖父は、お酒が好きだった。本当のところ今でも娘(遥佳の母)、遥佳の目を盗んでお酒を密かに飲んでいる。祖母は、若い頃から大酒を飲んでいる祖父を「どうしようもない人」と容認している。どうせ死ぬなら、お酒を好きなだけ飲んで、悔いなく死んだら良いでしょうと言っている。母と遥佳は、分かっていて止めないことに悔いを残すような気がして、祖父がお酒を飲まないように見張っている。祖父はお酒を飲むのが好きなだけではなく、遊び歩くのも好きな人だった。仕事が終わると、次の日の朝四時、五時に家に帰ってくる生活を長年続けた。女の人が居る店から帰ってくることもあれば、夜釣りに行って帰ってくることもあった。徹夜で麻雀をして帰ってくることもあったし、学生時代の友達とクルマで旅行に行って朝帰ってくることもあった。自分の体の丈夫さを過信して、無茶な生活を繰り返していた。
 脳梗塞になるのは生活習慣病の面もあるらしく、高血圧・糖尿病・高尿酸血症・メタボリックシンドロームなど原因にあるそうだ。全部が全部生活習慣の所為ではないらしが、運動と食生活と規則正しい生活で予防できることが多いらしいのは確かだ。

 祖父は五十歳まで内科の医者として働いていた。脳梗塞倒れる一年前の五十五歳のときに自分で定年を宣言して、働いてたクリニックを止めてしまった。蓄えはそれなりあったようだし、妻(祖母)は生け花の先生として月謝をとっていたし、年金を貰うまで十年十五年間があっても大丈夫だと考えて、早めに引退したようだ。セカンドライフを楽しむ気十分だった。祖母と国内・海外への旅行も計画していたようだ。
 全てが、自分の不摂生でおじゃんになった。

「はるか~ぁ」今日も、遥佳が学校から帰ると祖父はわたしのことを呼ぶ。
「待って~ぇ」言葉は不自由だが、幸に頭はボケなかった。塾がない日は、遥佳は祖父と話すが日課になっている。ゲームをやるより、テレビを見るより、祖父と話す方が楽しい。
 祖父は、ニュースに成るような事象にイジワルな見た方をし、辛辣なことを言う。家の中では、好きに言ってイイと教えてくれる。外では、余計なことを言わないのが賢い人間だとも教えてくれた。
「いま、行くよ~」私服に着替え終えた遥佳は、祖父の部屋に急いで向かった。

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