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アーモンド・スウィート

 大垣音(りずむ)は遊海秀嗣から聞かされた話しを頭の中でもう一度吟味してみた。どうやら中嶋彩葉のことは最初から好きだったようだ。それがだんだんとさらに本格的に好きになってきていると感じる。なのに渡辺珠恵のことも気になっている。秀嗣の話を黙って聞いていたけれども、どうしようもないクズなやつと心の中で呆れていた。昔からその性格は知っているので、いまさら音の小言を聞いても治らないだろう。心の中で溜め息を吐いた。
 思い返せば、小笠原寿紫(すうじぃ)のことが好きだったときも、区立保育園近くにある区立の幼稚園に通っていた出雲織衣富(オリーブ)のことも同時に秀嗣は好きなっていた。織衣富は伊勢屋さんというお餅屋の女の子で、彼女の母親がオシャレだから彼女は毎日可愛い服を着ていた。顔も可愛い、服も可愛いと見た目がいい子だった。音も織衣富を見かける度に、彼女の服が羨ましくて仕方がなかった。その織衣富は今では音と同じ五年三組にいる。不思議な縁と言えないかもしれないが、音はあの可愛い服を着ていた彼女として覚えている。今でも小学校に毎日可愛い服を着て来ている。顔は可愛くなくなったかと言えば、顔はお人形さんのようにさらに可愛くなった。当然、織衣富は三組の男子女子両方から可愛いと人気がある。彼女が小学校卒業後に進路を決める決断をするというなら、アイドルになること薦める。きっと織衣富なら、○○○48でも○○坂46でも、ハ○プログループでもスタ○のアイドルグループでも、センターに立てて一番人気になれると思う、見た目だけに限っていえば。歌が上手いか、ダンスが得意かは分からない。ダンスは体育の課題でこなす分にはまあまあ踊れると思う。あとはセルフプロデュース能力があるかないかだけども、みんなから愛されるキャラだと思う、東神田小五年三組の中だけでみれば。
 考えが混乱している。今は寿紫のことでも織衣富のことでもない。
 秀嗣の恋愛相談にのっているんだっけと思い出す。
「中嶋さんを大切にした方がいいんじゃない」
 子供でも大人でも同じ、当たり前の助言を秀嗣にした。
「まあ、ね。でも…中嶋さんクールじゃない。僕のこと本当に好きかな中嶋さん。それを聞きたかったの」
「知らないよ。中嶋さんのこと知らないし。でも、中嶋さんってクールなんだ。澄ましてる感じ?」
「澄ましてはないけども。知的な雰囲気というか、キャピキャピした騒々しい感じで話さないというか…勉強が出来るから落ち着いている? 余裕がある感じ?」
「勉強出来るから落ち着いている? 逆に友達、クラスの女子とも絡まないで自分の机で教科書を読んだり、文庫本読んだりして休み時間を過ごしている感じかな」
 想像すると中嶋彩葉はイジメに合いやすいタイプに感じる。勉強できるから、逆に勉強が出来ない人間を見下しているように取られるじゃないだろうか。休み時間に誰とも絡まないならば。秀嗣が好きになるくらいだから、顔は可愛いんだろうけど。可愛い顔しているから人と壁があると余計にイジメの的になりやすい気がする。
「休み時間に、難しそうな文庫本を読んでるね。『モンテクリスト伯』とか『レ・ミゼラブル』とか」
「ドストエフスキーとか、トルストイとかも読んでいる感じがするねぇ」
 音はドストエフスキーもトルストイも名前だけは知っているけども、二人の作家が書いた物を実際に読んだことはない。ただ言ってみただけ。もちろん『モンテクリスト伯』も『レ・ミゼラブル』も読んだことはない。ただ物語の名前だけは知っている。秀嗣に対して、あたかも音も二人の作家、二つの作品を名前以上に知っていると見せたかっただけで名前を挙げた。
「んー、大人が読むような小説を、背伸びして読んでる? というと悪口になっちゃうけど、『モンテクリスト伯』も『レ・ミゼラブル』も面白いらしい。『若草物語』とか『赤毛のアン』とかと同じに少年文庫版も出ているから、読んでみたらって言われた。あと『白鯨』『星の王子さま』もオススメだって」
「本が好きなんだね。本好きなところも含めて中嶋さんのことを好きになったの? それに勉強を教えてくれるとか?」
 勉強が出来るから本が好きなのか、本が好きだから勉強ができるのか。
「五年一組の女子では一番のようだから勉強は出来るよね。でも勉強を教えてもらったことはないなー。教えてって言ったこともないし」
「中嶋さんに、勉強教えてって言ってみればイイじゃん」
「えーっ……恥ずかしいよ。ぼくさ、知ってると思うけどかなり勉強できないじゃない。小学生が小学生に勉強教えて貰うって考えただけで、恥ずかしいんだよ」
「勉強教えて貰うって、心の距離を近づけるチャンスじゃん。漫画でもテレビドラマでも、そうやって男の子と女の子の距離は縮まってゆくって教えてくれてるじゃない。恥ずかしいていうなら無理にって言わないけど」
 中嶋彩葉の性格は実際に会って話してみないとわからないけど、それは明日か明後日か、それとなく一組のクラスに行って中嶋彩葉と直接話せば分かることだからイイ。顔が可愛くて勉強が出来て、休み時間に本を読んで静かでもし性格も良ければ、男の子たちには魅力的な女の子に感じるだろうと思った。
 姉の立場として弟の彼女はどういった子か、音は確かめて見たくなった。
                             (つづく)

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