アーモンド・スウィート イジメから守るストレス
今宮十夢はイジメが大嫌い。当然、自分がイジメの対象になるのは嫌である。同じくらいイジメを見るのも我慢できない。
やりたくてしている訳ではないが、いつのまにかイジメを止める役割をクラスから期待されるようになってしまた。十夢は小学校五年生のわりに背が高く、以前は剣道をしていたから肩幅も胸幅もある。腕力だけは自信がある。もちろん箒など棒のような物を持てば、剣道の技を使って相手を撃退すことはる造作もない。
2組の佐野政治や黒田竜彦、隣の1組の松村
義隆のよう性悪な奴らもいるから、十夢ひとりでは手に余ることもしばしばであるが、イジメられている人から期待の眼差しで見つめられたり、クラスの一部の善良な女子から期待された眼差しで見られると、十夢は目の前のイジメを解決しなければならないと覚悟が決まる。
十夢は今日も、学校から疲れて帰ってきた。今日もイジメ退治のようなことをしてきた。イジメを始めた側が「何もしてないもん」と態度で強気に言い返してくるので、十夢は慎重に行動し、イジメが確定するのを待った。イジメられた人が急に泣き出し「やめて、って言ったのに!」と訴え、クラス全体にイジメ確定の気配ができたところで、イジメた側に「止めろよ!」と言ってイジメの現場に割って入った。イジメがあった事実が確定して、十夢の正義が錯誤にならなくて良かった。ときどき、イジメがあったと十夢が指摘しても、イジメを受けた人が「余計なことしないで! あっち行って!」と逆ギレすることがある。人付き合いは難しい。多少の我慢を強いるところがある。どうしても力の強弱、立場の上下といった関係がある。10歳前後の友人関係でもある。
疲れたときこそ、ブラジャーを身につけて気持ちを高揚させないとならない。ポッポッと体の中が暖かくなるが、頭の中はミントアイスを食べたようにスーッと澄んだようになる。ブラジャーの力が絶大だ。
お気に入りのブラジャーを付けて、上にチェック柄のシャツを着る。半ズボンをきれいな物に履き替えれば、今日の疲れも大分取れてくる。
わざわざブラジャーを付けた姿を鏡に映してみるとこしなくても、付けているという実感が身体に感じられればそれで十分だ。
最近、ブラジャーを付けて外を歩いて見たい衝動がある。夜の遅い時間なら、東神田小の誰も外を歩いて居ないはずだから大丈夫だと思うが、遅い時間は十夢の母と父が逆に心配する。休みの日の朝早くに、北の丸公園に散歩をしに行くと言って出てみたらどうだろうか。朝の五時、もっと早く四時頃に、日の出前の時間あたりに外に出てみたら、子供は当然として近所の大人の誰も外を歩いて居ないだろうから、大丈夫なような気がする。
そして十夢は新たな欲望が目覚め始めて、じつは困っている。その欲望は、女性用下着のボディースーツと女性物水着を着てみたい欲望だ。水着はビキニタイプも、ワンピースタイプも着てみたい。締め付けられる感じを、全身で感じてみたい。テレビで見たが、「アメリカのマイアミ大学が行った実験で、人は体に圧迫が与えられた状態だと、ストレスホルモンの『コルチゾール』が31%低下し、幸せホルモンの『セロトニン』が28%増加するらしいことが分かった」そうだ。圧迫がリラックス状態を生み、不安の減少に役立つらしい。十夢は正義の味方を知らず知らずに期待され、クラスのイジメ退治の責任を押し付けられてストレスが溜まっているのかもいしれない。
けっして女装をしたいわけではない、況してや男が好きなわけもない。
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