アーモンド・スウィート
ぞくぞく登校 珠恵と理加
渡辺珠恵(たまえ)は、国語の宿題の感想文のことを考えながら歩いていた。先生から出された、教科書の小説を読んでの感想文には自信があった。自信はあるのだが、面白味がない気がするので引っかかっていた。算数のドリルの宿題は全部答えを書き込めたので、算数のほうは気が楽だった。天野先生は珠恵が算数を得意なことを知っていたので、ときどきクラスの他の人に答えさせて、「珠恵、いまので答え合っているか」と聞いてくることがある。あれは先生の半分意地悪だと思う。半分は自分を信頼してくれていると思う、けど恥ずかしい。
珠恵の両親は、補習型の塾を開いていた。珠恵は幼稚園の頃から、小学校一年生の内容を飛び級で勉強していた。勉強は国数英理社の5教科どれも得意になった。
「珠恵ちゃん、おはよう」渡辺理加(りか)が道路を向かい側から大きな声で珠恵に呼びかけてきた。
珠恵と理加はクラスの中どころか学年の間でもW渡辺と呼ばれている。
理加は名前の通り理科と算数が得意で、お父さんが理化○研究所の研究員なので遺伝だと思う。見た目は背が高くて、彼女自身が気にしているが、クラスでも細い。普通の女の子なら喜ぶだろうけど、すぐ貧血を起こすので体育の授業は半分も出席出来ずにいて、いつも見学している。それが居たたまれないらしい。
自分の見た目をいうのは何だが、珠恵は一組女子の中では真ん中の背丈で、身体は理加と違い丈夫だ。体育も休まない。顔も目立った特徴がない。しかし自分ではキリッとした二重まぶたと唇の色と形が気に入っている。顎もシュッとしていて、髪はその顎のラインに切り揃えてある。高校生くらいになれば、顔も大人びてまあまあに成ると今から期待している。
渡辺の名字を持つのはあと一人、二組に渡辺優香里(ゆかり)が居る。三人の渡辺でトリプル渡辺と呼ばれて良さそうだが、呼ばれない。その訳は、二組の優香里と珠恵はあまり話したことがない。理加も優香里とは話したことがないからだ。というのも、不思議と一年二年の時も珠恵と理加は同じクラスだった。三年四年に成って三人の渡辺は三組別々に別れ、五年六年成ったら珠恵と理加はまた一緒のクラスに成った。ちなみに優香里は筋肉質で背が高く大柄な体形をしている。二組の友達から聞いた話しでは、体育が得意らしい。一番好きな科目は音楽だそうだ。実家は書道教室をやっている。珠恵は今まで書道を習いたいと思わなかったから、本当に縁がない。
理加は習い事が嫌いなんだそうだ。個室に拘束されている雰囲気が駄目で、息苦しくなるとか。これは精神的な話し。
「感想文の宿題どうだった?」一車線ずつの信号の無い横断歩道を手を上げて渡ってくる理加に、珠恵の方から声をかけた。
「『小僧の神様』なんだか面白くなっかったね。パパは『小僧のー』が入っている文庫本は薄い本だから、一冊まるまる読んだら面白いよと言ってけどね」理加はため息を吐くように言った。
「でね、パパが言うには、この小説の受け取るべき教訓は「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ」という物なんだって」
「そうだよね、小僧の仙吉の方の気持ちを感じ取る話しじゃないんだよね。貴族院議員のAの側の気持ちを考える話しなんだよね」
珠恵は仙吉がAのことを神様扱いするのが許せない気持ちだった。その許せない気持ちを素直に書いたが、少し仙吉をちゃかして書いたら溜飲も下がって、面白く書けたんじゃないか思っていた。
「寿司でも何でも奢ってくれる大人って怖いよね。「お寿司好き?」「可愛い服欲しい?」「最新機種のスマホが欲しいの?」て、近づいてくる大人って絶対こんたんがあるよね。ママやパパ、学校から何度も言われている悪い大人の可能性あるよねー」
理加の何気ない感想に珠恵は驚いて、顔を見てしまった。
「変態の可能性? ロリコンとか」髪をかき上げつつ、珠恵は平静を装って聞いた。
「そうそう。男の子専門のロリコンがいるんだって。女の子が好きなロリコンが大人の女性に相手にされないのと同じで、男の子専門のロリコンはもともとホモで、やっぱり大人の男性に相手にされないから、7歳から12,13歳の男の子に興味を持つらしいよ」理加は自信も持って話した。
「それ、ほんとう」
「テレビで見た。顔にモザイクがかかって、声が変えられた男の子専門のロリコンの男は、生まれた時から男の子が好きだったって言い張ってたけど。中学生から上の年齢の男の子には興味がないて言っていたけど。スタジオの出演者たちは、ウソだって男に言ってた」
「やらせじゃない?」珠恵の両親はテレビはやらせが多いと言っていた。メディアリテラシーというらしい。テレビのニュースはもちろんのこと、ちょっとしたバラエティー番組の情報でも、それが正しい情報か間違った情報かを自分で冷静に判断しなければいけない。
「さあ…台本があるかな? でも実際ロリコン男は居るし。痴漢男も居るし。撲滅してくれたら、やらせでも何でもいいよ」
「怖いものねー」珠恵は最近見た痴漢男を思い出して身体が震えた。
「Aはロリコンだと思う。明治大正の時代だってロリコンは居たとおもうし。ロリコンも女の子専門のロリコン、男の子専門のロリコン両方いたと思うから」
天野先生が理加の感想を聞いたら何て答えるだろう。面白い着眼点ですね、て言うだろうか。きっとクラスで理加の感想はバカうけするだろう。
「それ宿題の感想文に書いた?」
「書かないよー。バカにされるでしょ。嫌だよー」理加は顔をブンブンと振る。理加のツインテールの髪がクルンクルンと揺れた。
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