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アーモンド・スウィート 友達を作りにきている訳ではない

 学習塾での勉強に秀嗣はついて行かれなくなっている。分からない処を聞きに行けば、塾の先生は親切に教えてくれるのだが。珠恵と人志と一緒に勉強したいのに、秀嗣の周りはしらない顔ばかり。東神田小の5年生ですらなく、今和泉小か違う地区の五年生だと想像される生徒ばかり。秀嗣から話しかけても、驚かれるか愛想笑いをされる。「ちょっと…、今、集中していて…」と塾の問題集とノートを鉛筆で示されるばかり。少し前に、授業で分からなかったところを聞きに講師控え室に行って、ついでにとなかなか周りと打ち解けないんだと話したら。「ここ(塾)には、友達を作りに来たんじゃないでしょ?」と言われてしまった。たしかに友達の輪を広げに来たわけではないけれど、授業と授業のあいだの休憩時間に誰とも打ち解けず教室の前の黒板を真っ直ぐ見ているか、ボーッと息抜きをしているの緊張が少しだけ解けずに辛い。人と話しをすることで、リラックスする効果があると思う。先生たちは、誰とも一日話さずにいて辛くないのかな。もし周りを人に囲まれて、しかし誰とも話さずに何時間も黙っていても辛くなった悲しくなったりしないのかな。勉強に限らず、大人になればなるほど、仕事の場面でおしゃべりは必要じゃないかな。しかし「貴方は友達を作りに来たんじゃないんでしょ? 無駄なおしゃべりしている時間はないでしょ。私の時間を浪費させるつもり?」と言われたりしたら悲しくない? コミュニケーションを円滑にするアイドリングに話しているつもりなのに、逆に怒られたら悲しい気持ちにならない? 相手との心の距離を近づけられなかったようで辛いと感じたりすることはないのかな。まだ子供だから、そんな甘ちゃんなことを秀嗣は思うのだろか。
 水曜土曜日は珠恵、人志たちのS1クラスの生徒は塾にいない。教室を出てウロウロしていても、誰にも出くわさない。S2クラスの生徒は来ているという話しだが。東神田小五年生の二組三組の一部の人間がいると噂で聞いているが、見覚えのあるヤツに出くわさない。今和泉小か余所の地区の子ばかりのような気がする。

 塾の勉強が楽しくない。学校の授業と塾の問題が、なんだか繋がりがないような気がする。二つの勉強法を同時に習ってる気がする。学校と塾、どちらか選ばなくてはいけないような気がする。本当に学校だけの勉強では中学受験に落ちるのかな? 秀嗣が真面目に質問しても、塾の先生は困ったように笑うし、周りの生徒は不思議そうに首を傾げる。
 中学、高校の勉強には、義務教育と正規の授業、あと特別な人間たちを相手にした授業があるのかな。良い学校に行くには、特別な授業を受けられなければいけないのかな。そうすれば東京大学とか京都大学とか、早稲田大学とかに入れるの人になるのかな。塾から振り落とされたら、将来の見込みがないダメな人になるのかな。
 珠恵と人志と話したいな。学校で会うと他の関係ない話しに成っちゃって、特別な授業の話し聞けないんだよな。珠恵も人志も、塾のこと何となく五年一組の教室では話したがらないしな。でも彼らなら知っているのかな。やっぱり塾で、彼らと一緒に机を並べて、付いていけないとダメだよな。

 

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