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アーモンド・スウィート

 柿境月姫(かきさかいかぐや)、菅原葵(あおい)、矢崎芙巳子(ふみこ)は一緒に学校へ行く約束をしている三人だが、気の合う三人というわけではない。待ち合わせをして、合流した瞬間からおしゃべりに花が咲くわけではない。どちらかと言えば芙巳子は一人で居たいタイプだし、葵は教室では山川笑美(えみ)とおしゃべりをしているので、しかたなく。ただ家が山川とは反対の方向なので、同じ方向の柿境、矢崎と一緒に登校していだけだ。
 月姫は、二人を誘った責任を感じ何か面白い話題を見つけて話そうと考えているのだが、二人が黙々と歩くものだから自分も余計なことを言って、感じが悪いと思われるのが嫌だった。ただ月姫は沈黙に耐えられない。
 家が練り物屋で、居酒屋も営っていて、月姫も学校から帰ると手伝っている。染みこんだ社交精神が、黙って歩くことに我慢ができない。
「今日から音楽の先生代わるって」二人が興味あるかもしれない話題をやっと見つけて振ってみた。
「川口先生、今頃定年で辞めるって、少し無責任じゃない?」
 芙巳子は不機嫌丸出しの顔で言った。
「新しい音楽の先生どんな人かなぁ」月姫は川口先生の悪口より、新しい先生への興味の方へ話しをもっていきたい。
「音大出たばかりの若い人が赴任してくるとは、考えられないけど…」
 葵がぼそりと言った。
「男の人かな、女の人かな?」まったくと思いつつ月姫。
「川口先生の代わりなんだから男の先生じゃない。男の先生の欠員は男の先生で埋めるんじゃない」
 芙巳子は興味ないけども、と感じに平坦な声で言う。
「女の先生ということだってあるでしょ?」と月姫。
「かもね。四年三組の担任の小山内先生も先月から産休だって。替わりの先生は男の先生だったから」と葵。
「なんか小山内先生、クラスの男の子にぶつかられて大変だったんだってね。だから早めに産休に入ったって」月姫は同情的に言う。
「小山内先生の代わりが男の先生だったから、川口先生の後任は、女の先生でバランスを取るかもしれないと思うわけ?」
 芙巳子は驚いて葵と月姫の顔を見る。
 月姫は新しい先生が、可愛い感じの女の先生が良いと思っているだけだ。
「新しい音楽の先生が、友達のような雰囲気の先生だったら良いなぁ、と思うだけで…」
 芙巳子の見つめられ、「驚くこと?」と思いながら月姫は続ける。
「男の先生でも女の先生でも、どっちでもいいけど」
 面倒くさいと、月姫は顔に出さないように注意して言った。
 葵は頷いたが、芙巳子は頷かなかった。
「友達みたいな先生なんて居ないんじゃない。教える範囲が決まっているから、詰め込むように授業は進めなくてはならないだろうし。テストはしなくてはならないだろうし。教科を教える以外にも仕事はあるそうだし。父兄とは連絡をこまめに取らないと査定に響くと聞くし。結局、自分はサラリーマンと考えるのよ。毎年毎年入れ替わる生徒と、友達成ろうと考える酔狂なサラリーマン先生なんて居ないと思わないの?」
 もっともらしく芙巳子は言った。
 何で矢崎さんは、そこまで辛辣なことを言うんだろうと葵は思った。
「逆に、音楽や図工は、楽しい時間にしようって考えてくれる先生だと良いよねぇ」
 芙巳子への反発から、月姫の話しに乗ったおしゃべりをする葵。
「川口先生は、お爺ちゃん先生だったけど優しかったし。吹奏楽部の活動も熱心に見てくれる先生だったからね」
「そうよ。川口先生の代わりの先生も優しくて情熱的な先生が良いよ」
 フーっと、ため息とも不満ともとれる一息を芙巳子は漏らした。
 月姫と葵は、芙巳子の顔をまじまじと見る。しかし芙巳子は真っ直ぐ前を向いて、黙って学校に向かって歩くことにしたらしい。
 あとは学校まで月姫は無理に話題を振らなかったし、葵も黙々と歩いた。

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