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アーモンド・スウィート 受験ブルー?

 秀嗣の家は、神田で製本業を営んでいる。元々は四谷にあった大きい製本会社の暖簾分けようなの形で、秀嗣の祖父と祖母が神田で始めた。父は高校を卒業すると直ぐに家業の製本屋を手伝った。父には三人の弟、妹たちがいる。三人は父と違って、妹の一人は短大を卒業して、もう一人の妹は都立の大学を卒業している。弟は大学を六年かかって卒業した。祖母は自分の甲斐性で叔父を大学まで出したと思っている。決して文句ばかり言っていた祖父のお陰でもなく、従順に文句も言わず働いた長男(秀嗣の父)のお陰だとも思っていない。父は科学者に成りたかったらしい。出なければ和菓子職人に。近所に和菓子の工場があったので、子供この頃から遊びに行っていて、工場の職人に可愛がられていたので、また両親から甘いもお菓子を買ってもらった事がなかったので、余計に和菓子や洋菓子がお腹いっぱい食べられる和菓子職人、洋菓子職人に憧れたのかもしれない。しかし、高校を卒業後、母親に頭を下げられて家業の製本屋を継いだ。これは、父の兄弟たちが大学を卒業したことを考えれば、母親(祖母)に騙されたのかもしれない。なぜ妹二人が大学、短大を出して貰えたかは、祖母が高校しか出ていないからで。平成には、女子も大学卒業は当たり前と世間でなって来ていたからだ。そして長男なのに父が高卒止まりで叔父が大学卒(しかも六年も使って)のかは、祖母が叔父のことを「ゴールデンチャイルド」と思っていたからだ。祖母にとって叔父は特別な子供、後の三人は平凡は子供だった。祖父はお金があればあっただけ使う人で、自分の遊びのために使う、人が困っていれば助ける為に使う、選挙といえば使う、近所の結婚式、葬式、祝い事、悲しみ事なんでも惜しみなくお金を使った。蛇足を書けば、父は違った、倹約家だった。叔父は祖父に、子供頃から似ていた。その上、祖母の父親にも似て「(酒・タバコを)飲む、(博打を)打つ、(女と)遊ぶ」人だったから特別可愛かったんだと思う。真面目な性格で、節約家で、親の性格が違えば可愛がられたと思う父は、何なんだろうと秀嗣は思う。

 秀嗣にとって東神田小での「生活」は日に日に快適ではなくなりつつあり、苦しいと感じる時間が多くなった。
 担任の天野先生の授業も、最近では楽しく感じられなくなっている。塾の講師の教え方が上手いという事ではなく。
 あー、これは受験に関係してない内容なんだなー、という学校での授業内容を斜めにみるという悪い影響が出ていた。

 彩葉との間にも勉強以外に会話がなく。一方的に彩葉の方が秀嗣に、「頑張ってる?」「頑張って!」という励ましなのか、発破なのか、言葉だけの関係になってきている。秀嗣の方は「んー……」言う感じに返す以外にできず、心の中は悶々としてきていた。

 そして最近では月姫かぐや三保子みほこりずむとも学校が終わったあとにしゃべっていない。秀嗣にとって何気ない日常の会話は息抜きになっている。男子ではこの何気ない日常の会話に付き合って貰えず、女子ならば付き合って貰えるので良いのである。男子が興味を持っているゲームとか、サッカー、野球、バスケット、オリンピック後スケートボード、ローラースケートなどは、秀嗣の方が興味が沸かない。ユーチューブやティックトックも少しは見るが、熱心に見るほどではない。流行の動画をいち早く見ていたからといって、早いとか遅いとか、勝ち負けとかを競うのにも興味がない。自分で動画を撮ってみたいと思っているが、小学生が撮った動画を誰が見るのかと疑問に思う。自分たちと同世代か、一日暇を持て余している年上のお姉ちゃんたちか、青田買いを狙って目敏い大人かという感じで想像してみる。動画を見たみんなに、ナルシストと思われ無視されそうだ。再生数は稼げない。続きの動画を期待されない気がする。

 人志は、秀嗣と教室でも目を合わせなくなった。秀嗣に何の思い当たることがないので、そのことも頭を悩ます一つだ。
 中学受験をするということは、友達との仲を少しずつ変えていくものだなんだろうか。勉強が出来る者は余裕を持って、勉強の出来ない友人を助けて教えてくれるものではないか。互いに「頑張れ!」と言いながら、少しずつ距離が空いていき無関心に近づくものなのか。

 ともかく、父と母の秀嗣の中学受験、高校受験、大学受験への期待が日に日に大きく成っている。

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