アンズ飴

 これは僕が目指していた大学、○央大学法学部と法○大学法学部の二つを落ち、浪人を決め予備校に通っていた頃の話しだ。
 
 僕は高田馬場駅近くの予備校に通い始めた。その予備校に決めたのは、大学を落ちた後に回った複数の予備校の中で、その予備校が一番落ちつているように思ったからだ。入ってみたら、今で言うーーもう言わないかもしれないがーーチャラ男が沢山いて、そのチャラ男と意気投合する遊び慣れた女子も沢山通ってきていることをしり驚いて、またガッカリした。
 とにかく、僕は一年間真面目に勉強をしようと決めていた。だから一年を通して男友達も女友達も一人もできなかった。積極的に作らなかったのだから当然なのだが。
 がしかし、短しい間だけ彼女が出来た。
 僕は昔から、自分を試すギャンブルのように、または自分の気持ちに正直にいようとする考えから「好きだ」直感的にと告白してきた。世間一般の男性、女性というものがどのくらいの頻度で告白をするのか分からないけども、少なくとも僕の回りでも頻繁に「好き」と告白していたのは僕だけだった。当然10回告白すれば、7回から8回、9回は断られる。だいたい高校では、僕は告白癖がある男とクラスを越えて学年中の男子女子に知られていた。よく告白した女子から「結局、誰のことが好きなの?」と問い詰められた。この質問の答えは非常に難しい。人との出会いは巡り合わせだと思っていたし、もう少しあとにもっと素敵な出会いがあったらそちらに僕の心は動くだろうと分かっていたから。
 つまり水が高い場所から低い場所に流れるというのではなく、ある物体が強い引力からより強い引力のある方へ引きつけられるように、僕の心は必ず、より魅力的な女の子に引きつけられる。僕は二股をかけたことはない。当然、三股、四股もない。彼女にとって二股の時期になると分かっていて付き合い始めたことはあった。彼女は少し、現在の(その時の)カレシと僕との間で苦悩したようだったが、カレシとは別れ僕と付き合うことになった。別れた理由は言わなかったので、フッタのかフラれたのか分からないが。その彼女とは二ヶ月ほど付き合って、あっさと別れた。寝ることもなかった。寝て身体の相性でも試してみたら違っていたかもしれないけども、その彼女と僕は寝る気がしなかった。元カレは友達では無かったが、知らない間柄でもなかったことが原因だったかもしれない。まあ知り合いと不倫出来ないタイプの人間のなのかもしれない、僕は。
 
 話しを予備校の時の彼女に戻そう。彼女は誰が見ても美少女だった。女優で例えると新○優子を青文字形ファッション誌のモデルにした感じ。顔は整っていたし、着ている物もオシャレだった。男ならだれもが密かに告白して、デートを夢みるだろうと想う感じだった。チャラ男たちは毎日のように彼女に声をかけ、クスクスを笑わせていたけども、たまに「付き合っちゃうおうぜ」と言ってかもしれないけども、彼女はチャラ男たちと付き合わなかった。チャラ男も彼女に告白以前にすでに決まった女の子が居たから、自分がモテモテであると自慢したいので無ければ、彼女と付き合い始めたら二股になるとはじめから分かっていたのだから本気だったか疑わしい。
 彼女は誰とでも気軽におしゃべりを楽しむタイプの人だった。しかし、誰とでも等間隔で付き合っていたようだった。ーー別れたあとで思ったことだが、彼女は自分の美貌と希少価値を十分に分かっていて、それを活かす意欲も十分にあったと思うーー僕と彼女の初めての接点は、八月初めの夏期講習の時だった。普段毎日のように彼女のまわりでおしゃべりをしていた、チャラ男とその彼女が、なぜか夏期講習に全員参加しなかった。あるいは、チャラ男とその彼女たちは、成績別の違ったクラスに入れられていて別の校舎だったのかもしれない。
 その時、彼女は退屈していたんだろう。狙って彼女の隣の席に座った僕は、「四月からずーっと見ていた。好きだ」「良かったら付き合って」という突然の告白をした。彼女は初め少し驚きながらも、「いいよ。どこにデートに行く?」と簡単に応じてくれた。もしかしたら試されていたのかもしれないが、ぼくもあっさりと交際にOKが出されたことに驚きながら、告白してもデートプランまで用意していなかったので、彼女への質問から始めた。
「遊園地とか好き?」
「好きだけど、どこ行く?」
 東京○ィズニー○ンドか後○園か、豊○園が頭に浮かんだ。遊園地は遠いし、僕がデート代を出すとなればお金がかかるので最終のプランとして、いまはただキープして置くことにした。
「動物園や水族館は?」
「子供っぽいね。小学生か中学生の初めてデートて感じ」
「博物館や美術館、絵画展に行くと言うのはどう?」
 僕は将来小説家になろうと思っていたくらいだから、美術的な会話ができない女子に対して、かなり冷静になってしまうところがあった。だからこの質問はぼくにとってとても大事だった。彼女の答え次第では、付き合いが始まる前から別れを想像してしまっただろう。
「今度は大人なデートね。…でもないか。特に絵に興味をもったことはないけど。嫌いじゃないから、あなたがわたしを連れて行って、その作家のことや、絵の描かれた背景とか教えてくれるというなら、嫌じゃない」
 とりあえず希望は繋がった。僕の方の勝手な都合の希望だけど。
「音楽は何を聴くの? 誰が好き?」
「あなたは普段何を聞いてるの?」
 僕は当時、RCサクセションやTHE BLUE HEARTSなどテレビになかなか出演機会を与えられない、それでも日本のロックシーンを代表していたものを好きで聞いていた。あとアイドルが好きだった。いまほどアイドルを応援していることが公に認められてない時だった。ーーちなみに、ぼくはモー○ング娘。はスルーした。シャ乱Qのつんく♂がテレビ東京の企画(お金)で作ったアイドルなぞ、アイドルファンを小馬鹿したものはないと感じていたから。後に秋元康が秋葉原に作ったA○B48も最初は遠くの方から見ていたーー

「日本、アメリカのロックをよく聞いてる。誰か一つをあげてと聞かれたら…」
 僕は彼女にどう答えて良いか、正解がなにか分からなかった。
「小林克也の『ベストヒットU○A』とか毎週見てチェックしてるけど」
 マイケル・ジャクソンやマドンナなど、アメリカでも日本でも、世界中でチヤホヤされているPOPミュージックは、意図して嫌っていたけれど『ベストヒットUSA』は毎週見ていた。
「ああ、そうなんだ。じゃあさ、FUJI ROCK FESTIVALは終わっちゃったけど、チケット取れたらROCK IN JAPAN FESTIVALかSUMMER SONICに一緒に行かない?」
「いいねえ。ぼくも気になってたんだ、ロックフェス。一緒に行こうか」
 まだFUJI ROCK FESTIVALが先行して始まって、ROCK IN JAPAN FESTIVAL、SUMMER SONICが始まったばかりで、これから日本の夏とロックフェスという組み合わせが定着する黎明期だった。
 そして僕と彼女は奇跡取れたSUMMER SONICに行った。
           
                              (つづく)

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