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アーモンド・スウィート

 好きだったけども、もう今は好きじゃなくなったという事で別れるというのは、気持ちがないんだと思う。未練と言い換えてもいい。でも男性は、――仮にAさんと呼ぼう――待たされて待たされて、二年も三年も四年も待たされて、もう痺れを切らして「このまま付き合うか、それとも今、別れるか話し合おう」と言ったんじゃないだろうか。そして「別れるなら、今まで出したお金を返してくれないか」と女性に対して未練を含んで言ったんだと思う。それをある人に――仮にB氏と呼ぼう――相談したある人は――仮にCさんと呼ぼう――、そのB氏から「つまり、Aさんはお金の問題いと言ってるんですね」とCさんは確認されて頷いた。「そのAさんから貰ったお金は一円も返す必要はありません。なぜなら法律的に返す必要のないお金だからです」と教えられたんだと思う。そしてB氏は「わたしは、目に見えない"愛"だかと、数値化できない好きとか嫌いとか、悲しいとか苦しいとか、痛いとか辛いとかいう感情、楽しいも嬉しいも、理解できないですね。損か得かという、私や貴方にとってプラスかマイナスという考えかた、シンプルで良いと思ってます。仕事の依頼を受けるときも、依頼者にとってプラスかマイナスか、損か得かを私は一番に、シンプルに考えてます」と教えらたんじゃない。でCさんもB氏と同じ考えだったんで安心してたんだよね。と田中千鶴は秀嗣に教えてくれた。どうも最近、テレビで何度も放送される話題について秀嗣が分からなかった。父や母に「どういうこと?」「なんでM内親王とCさんの二人はこのままじゃ結婚できないと、ワイドショーで毎日騒いでいるの?」と聞いても、子供はそんなこと知らなくていい。大人になったら、否が応でも分かるようになる。と言われ不満いっぱいだった。ならば男女の恋愛について詳しい田中さん聞こうと思って聞いたら、彼女はいまのように教えてくれた。さらに、まったく関係ないテレビタレントや世間一般が野次馬根性であーだこうだ言っているだけと教えてくれた。彼女はやっぱりすごい。勉強はからっきしでも、男女の好いた惚れた、別れた喧嘩した、またくっついたについてよく知ってる。

 秀嗣は田中千鶴から聞いた話しを、そのまま倉岳人志に話した。
「大変だよねぇ」
 秀嗣は勉強していた人志の前の席に座って、彼に話してる。塾の問題集と塾で使っているノートを開いて、自分の席で予習していた人志は、自分たちに関係ないM内親王とCさんの話しをうるさいなーと思いながら聞いていた。
「なんでMさまは反対されても、Cさんと結婚したいんだろう?」と秀嗣はぶつぶつとしゃべり続ける。
「好きだからでしょ」簡単な話しまで疑問に思う秀嗣に我慢できなくなり、つい返事をかえしてしまった。
「そりゃー、好きだろうよ。唯一の選択肢と言ってるんだから」
「そこは、沢山の選択肢を持っていて、Aでもない、Bでもない、最善の選択はCかもしれない、いや待てよDという考えもあるじゃないか、もしかしたらEというふうに考える人がいるかもしれない。わたしはEは選択しないが、DもEも充分に選択しの中であり得る。といった感じに考えたと課程を発表してて、自分はCを選択したと言うべきじゃないかなとぼくは思った」
 秀嗣はまじまじと人志の顔を見て、難関中学を受験しようとするやつは、やっぱり頭の中が違うなーと感心した。
「じゃあMさまは、Cさんのどこが好きになったんだと思う?」
 まったく自分たちに関係ない、無駄な興味だと人志は思う。
「分からないよ、そんなこと。人それぞれじゃない。人が人に惹かれるところは」
「見た目かな? 内面、性格がイイのかな?」
「Mさまには優しいだろうし。Mさまの前では真面目だろうし。頼り甲斐もあるように見えるだろうし。『湘南江の島海の王子コンテスト』で王子に選ばれたくらいだからセルフプロデュース能力もあるだろうし。カッコ良く見えるだろうし。アメリカに渡り、ニューヨーク州の弁護士資格を取って、日米の企業間で活躍する交際派弁護士になる夢を持ったいたと話していたから、夢に向かってひたむきに頑張る姿にキュンとしたんだろうし。Mさまから見れば良いところいっぱいなんじゃないの」
 問題集から頭を上げなくても、「ほぉー」という感じに人志の意見に感心する秀嗣を感じ、うるさいヤツと思いながら悪い気はしなかった。
「国民から反対されても、Mさまのお父さんお母さんが待ったをかけても、一緒に成るのを止めようとは思わないのかな。理解されなくて悲しくならないのかな」妙な感じ話題を変える秀嗣にそろそろ黙っていて欲しいと思う。イライラしてきた人志はシニカルに、
「悩める時も、健やかな時も愛を誓いますか? 誓います。という感じにM内親王とCさんの二人は、心を一つにしてるんじゃない」
「もう、二人で生きてゆくと決めているということ?」
「CさんとCさんのお母さんとMさまと三人で」
「Mさんのお父さんとお母さんは?」
「皇嗣殿下は皇室の人だからね。次の天皇になるんだから、一緒には暮らせないよ。まあCさんのお母さんとも一つ屋根の下で暮らすか分からないけど。二人だけの生活から始めるかもしれないね」
「Cさんは、逆玉の輿というやつかね」まだ秀嗣は話しを続ける。イライラが頂点に達してきた。付き合うのもここまでだと人志は決めた。
「あっ!? 知らねぇよ」
 秀嗣は、恐い顔で自分を睨む人志に、初めて彼がイライラしていたことに気付いた。人志の机の前の席から立ち上がり、
「ごめん。無駄口をしゃべりすぎたよ……」
 秀嗣は、一旦は自分の席に行くかに見えて、自分の席に戻らずに教室を出て行った。秀嗣が教室を出ていく後ろ姿をチラッと見て、人志は別に教室から出て行かなくても良いのに思う。脅し過ぎたかなと、少し反省してつつ問題集に集中を戻した。

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