アーモンド・スウィート
五年三組の大垣音(りずむ)と秀嗣は同じ地区の保育園に通っていた。あと一人、同じく三組の角谷紅愛(くれあ)と三人は、保育園時代に一緒にママたちと共に保育園へ登下校をしていた仲だ。恋心をなどない兄弟のような感じで、園へ通う道でも帰る道でも駆けっこしたりぶつかったりしてきた。特に音と秀嗣は姉弟のような兄妹のようなこそばゆい不思議な関係だった。音は一人っ子だったので、秀嗣との姉弟のような関係は毎日が楽しく嬉しかった。秀嗣にいろいろ事で相談したり、話しを聞いて貰ったり、秀嗣の話しを聞いたりしてきた。子供頃の秀次は女の子と同じくらいおしゃべりだった。それが小学校に上がり、三人の状況と関係に変化がおきた。
秀嗣がませて女の子を意識するようになった。紅愛はそういう彼が嫌になり、距離を置くようになった。音とはやっぱり姉弟のような関係だったからか、小学の上がってもちょくちょく各々の家の前、どちらかの部屋で色々なことを話した。先生への不満、同じクラスの人間の陰口、勉強の不安、恋バナなどなど。一年から五年に進級する間に音と秀嗣は一度も同じクラスに成らなかった。そのためお互いに別の親しい友達ができ、二人は徐々に疎遠になった。秀嗣は現在五年一組の柿境月姫、加瀬和歌、山崎三保子と仲が良いらしいと漏れ聞こえる。和歌とは一年から四年生まで、四年間一緒のクラスになった。彼女も少し大人びたところがあり、音は仲良く遊んだり、おしゃべりをしたりできなかった。しかし四年間一緒のクラスだったから、お互いに相手の性格がなんとなく分かっているので、仲が悪いと言うことは特にない。月姫とは近所なのに遊んだ想い出はないが、町内会の催し物では一緒になることが多くあって、町内会のバス旅行などではいつも彼女の隣の席に座るように大人から言われたし、縁日や盆踊り大会などは「行く?」「いつ行く?」など話して合わせるようにして参加していた。三保子も同じ町会の仲なんだけども、三保子の家が町会行事に積極的でなかったので、縁日や夏祭りでさえも一緒になった記憶がない。もう少し詳しく話せば、小学校に上がる前に幼稚園に音も秀嗣も転入園した。その時に音と月姫は出会った。月姫と親しくなった切っ掛けが、現在五年三組にいる小笠原寿紫(すうじい)に秀嗣が一目惚れして、告白して見事にフラれた時に秀嗣を慰めてくれたのが月姫だった。六歳くらいの子供といえど、他の子たちは男の子も女の子も、秀嗣がふられたことを面白がって囃し立てた。そこに月姫がカッコ良く登場して「女の子なんて日本に沢山居るからね。世界に目を向ければ星の数ほど居るからね。すうじぃちゃんのことはあきらめなよ、ね」と言って秀嗣の目を真正面から見つめた。音は、秀嗣にとって姉のような自分の役割をとられたと感じたが、自分もからかわれたり囃し立てられたりしたら嫌だなと思って前へ出られなかったので、意地悪する子にバチッと言えなかった。それを、月姫が代わりに言ってくれたので、逆にカッコイイなーと感動して、すぐに友達になった。
三保子は初めから保育園ではなく幼稚園に通っていた。音、月姫、秀嗣、寿紫が一緒のクラスだったのに対して三保子は隣のクラスだった。より小さい頃はクラスの中の関係こそ「世界」だったので、隣のクラスの子と仲良くしようという気持ちが積極的におきなかった。
音の家は質屋をしている。三保子の家は神田の町の外でも評判の鯛焼き屋だから、質屋にお金を借り来るなんてない。また質屋は普通の人が気軽におしゃべりをするような場所ではないから、三保子のうちの誰かが音の質屋に三保子を連れてくるようなこともなかった。普通に考えれば音のうちの誰かが、三保子の家に鯛焼きを買いにゆくところだけど、音の両親も、その上の祖父も祖母も揃って辛党で、お酒と七味唐辛子と和辛子が大好きだった。だから月姫の家におでん屋には行っても、三保子の家の鯛焼き屋には行かない。小さいけども不幸な、音と三保子のすれ違いを生むことになった。
そのことはさておき、音は秀嗣から久々に相談を受けた。
また女の子のことで悩んでいるらしい。
うむ、まったく。ヤツは惚れやすくていけない。
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