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本当を積み重ねるということ

本当を積み重ねるということ
         
 
 ある朝、辰己芳子さんから電話があった。話したいことが溜まって話しておかずにいられないと言う。良いことばかりじゃないわよと、前置きがあってのことです。
 
 「ここ数日、ウソの料理ばかりを教えているわよ。先人が本当のことを教えてきたのに、あんなウソばかり伝えていたら、大変なことになるわよ。
「菜っ葉のうで方(辰己さんはそう言う)も知らない。肉とたまねぎの関係も知らない。そして、チャーハンにキュウリを入れるって、何事ですか!」
「食べることは毎日のことだからと言って、それをないがしろにしていると大変なことになる。日本のありとあらゆる実態の世界がいい加減になるわよ。」
と、怒り心頭だ。
 
 そこで、私はハッとした。実態の世界、まさにテレビはその世界だ。そこにウソあったら、それは本当になっていって広く伝わり、正しいとさえ思われる。怖さはそこにある。まして、老舗番組がそれを放送すると言うことの責任は重い。
「ものごとを本質的に考えたこのない人たちが考えているのではないか。」
と、とても強い口調で辰巳さんは続けた。

 
 また別の日の取材で長野に行き、郷土料理の研究もしている料理研究家の横山タカ子さんから聞いた話も興味深かった。
 横山さんは、ある日の撮影で、野沢菜を盛りつけるだけの一品を撮影するとき、納得がいく盛り付けができなくて四苦八苦した事があった。そのとき横山さんは、気づいたという。

「漬け物を盛るって毎日のこと、でもぞんざいに盛りつけていたことにハッとしたんです。やはり毎日やっていないと、いざという時にちゃんとできないものなんです。それから、漬け物ひとつ盛り付けるにも、試行錯誤する毎日です。」と。
 
 日々のこと、ついぞんざいにやってしまうことって、たくさんある。時間がないからとか、自分一人の食事だからとか、情けないが言い訳がいくつもある。言い訳ばかりしているとそれで終わりそうだ。これはいけない。
 そして、始めたのが笑っちゃうけれど「ちゃんと料理」。自分ひとりの食べるものを、これまでより少しだけ丁寧につくろう。味のピントがイマイチ決まらないと思っていたが、半分目をつぶってきた和のおかずをちゃんとやろう。
 たまたま、手に取ったのは、京味の西健一郎さんの本「日本のおかず」で作り始めた。全品制覇するのが目標。西さんは他界されて、思い出とこの本がよりどころとなった。西さんのことはまた別な機会に書きたい。
 
  辰己さんの電話の最後の言葉を思い出して、身が引き締まる。
「真実を伝えようとしないと、
 自分の人生を汚すことになる。
 自分を傷つけることになる。」
 
 仕事も人生も、本当を積み重ねていくこと。
それが人を成長させたり、精度の高いコトやモノを生み出すのかもしれません。
 
(2015/9/13)

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