俺の恋の話(3)

華に、別れる。と、宣言してしまった。――
電話もいつ来るか、解らない。
情を感じながらも、真夏の態度に、飽き飽きしてもいた。
華から、メールが入った。――
又、相談だろう…予想は裏切られた。――
電話での、落ち込んだ様子は微塵も無く。
「新しく入った人の、写メゲット!カッコいい!」
焦った。――早く、別れた。と、報告しなければ…
華が、他に行く!……と、思った。
「真夏、話しが有る。」
装った真剣さで、俺は、切り出した。――
「はい。」
「別れたい。」
言った瞬間、自分の言葉に胸が痛んだ…感傷か?
「――解った。」
素っ気ない真夏の返事に、――突然、腹がたった!
華の、陽気なメールを思い出し…怒りが重なった…
「何なの?陰気な態度取って!――何? 俺への嫌がらせ? 全て、解ってるんでしょうから。言わせて貰うけど、――ずーっと前から……好きじゃありませんでした! 楽だから……利用していただけ! 他の女の子を、何回も可愛いと思ってました!――あんた、押し付けがましいんだよ!――あーっ!息苦しかったっ!」
一気に言う…イライラの感情に歯止めが効かない。
「……御免なさい…」
無表情で、真夏がつぶやく。
「あーっ!嫌だ、嫌だ!サヨウナラ。荷物は又、取りに来ます!」
俺は、一番大切な、ゲームと携帯を持って、真夏の家を出た。――
俺の心残りは…猫たちの事だけだった。
餌は貰えるだろうが……捨てていく様で、凄く罪悪感が有った。――

「今、電話していいですか?」
……車に入った俺は速攻で、華にメールした。――
「今、オンしてるから、後で連絡するね。」
一時間以上も、待った挙げ句……来たメールがそれだった。――
真夏なら、あり得ない。
何か、あったのか?……と、直ぐにゲームなど止めるだろう……
それでも、俺は、電話を持った。
さらに、何時間かが経過した。――
その間、真夏に言った言葉を、虚ろに思い出し――心がチクチクした……
そんな思いも、華からの電話で消えて無くなった。
「彼女と別れました。――華が好きになったから。」
俺の気持ちは、もう、止まらない所まできていた…
「私も、好きになっていた。でも、子供の事があって、直ぐに離婚は出来ない…」
華は申し訳なさそうに言った。
「結婚しててもいいから、付き合って下さい。」
「私も、付き合いたい。」
華は、迷わずに言った。――
やったー!
問題は山積みだが、俺と華は、付き合う事になったのだ。――
翌日の夜、真夏の家に荷物を取りに行った。
俺は、華と結婚するんだ。――早く全てを綺麗にした方が良い。
後、もう一つ、俺には、やらなければならない事が有った。――
「直ぐに、済むから…昨日は、感情的になってた。ゴメン。」
この後の布石に…心にも無い嘘が出る。
「はい。」
真夏は、正面を見たまま、放心状態だ…
荷物は、片付いた。――
「真夏、最後に、真夏を抱きたい……」
そう、――俺は、最後に女が抱けるか再確認したかった。
これからの華との、付き合いの為に、――
「はい。」
真夏は、拒否もしなかった。
俺は、真夏に後ろを向かせ、華を想像しながら、抱いた。……よしっ!
真夏は、抱かれてる間も一言も発しなかった…
「体に気を付けて、――元気で。」
真夏が言ったのは、それだけだった。
言葉は、軽く耳をすり抜けた……
俺は、華を抱く日を思い、ご機嫌だ!
「解らないよー、ただいまーとかって。直ぐに帰って来たりしてー!」
冗談めかして、言った。
別れまで、陰気なのが、ウンザリだったのも有る。
そして、俺は、長らく暮らした、真夏の家を出た…
――
夏の少し手前の頃だった。――
今年は真夏、海に行けないなぁ…と、考えていた。
少しの罪悪感と情を、初夏の風が吹き飛ばす……

俺と華は遠恋だった。――
直ぐには、会えない。
毎日毎日、電話を掛け合いお互いの事を話す。――
ゲームは、時々やる程度になっていった。
「付き合ってる事、グループには内緒にして。」
と、華から言われた。
俺は、一番に言いたかった!
華の、浮気防止の為に……
「話したい。」
と、言ってみた。が、――
「絶対にやめてっ!」
思い掛けない程、強い口調で華に言われる……
「――何で、隠すの?」
納得出来なかった……
「グループの雰囲気、壊したくない!それに、私、結婚しているんだよっ!」
……俺の気持ちより、グループの雰囲気か…
真夏なら。――
俺は…ゲームの後の会話もやめて、俺達の未来について話し合いたかった。
ゲーム自体が、邪魔な存在になっていた。
皆に、愛想の良い華にイライラするからだ。――

俺と華が付き合ってから、三カ月が過ぎようとしていた。――
まだ、まとまった休みが取れずにいた。
旅費も、コツコツと貯めている所だった。
俺と真夏は、江戸っ子の様で、宵越しの金は持たない的な生活だった!
華に、会えないのも、半分は真夏のせいだ!と、腹が立った。――
「会いたいね。」
……可愛い過ぎる!
「今、直ぐに、会いたいね。」
毎日、――お互いの気持ちを確かめ合い、深めていった。
「もう、――ゲームなんかやめて、グループを抜けない?」
甘々なムードの流れで、俺は常々、思っていた事を言った。――
「はぁ?何で!そんな事、出来ないよ!ずーっと、やってきたのに!何、言ってるの?」
甘々から一転、恐ろしい程、反抗的な言い方だ……
俺は、――今まで無理をして、華に合わせてきた。
自分が、造り上げたキャラ「雀」に、華は好意を持ったのだから……
昔と同じだ……相手の理想に合わせてきた。――
もう、限界だった…
「嫌なんだ……華が、他の奴らと仲良くして、下ネタ話をしてるのが!…俺達には、話し合わなきゃいけない事が、有るだろ?」
初めての本音が出る…
「別に、仲良くなんかしてないし、下ネタ位、いいじゃん!」
喧嘩に発展した。――
新参者に、華が興味を持っているのも、薄々、気付いていた。――
一刻も早く、グループを抜けさせたかった。
「――今度、入った奴に写メ送ったよね?俺が居るのに、何でそんな事するの?普通はしないよね?」
真夏なら、絶対しない!
「送ってきたから、送っただけ!伊織って、いちいち細かいね!そんな性格だったの?」
細かい事なのか……
「俺は、――華が好きだから、気になるんだろ?」
「私も、伊織が好きだよ。それでいいじゃん!ゲームは関係無いでしょ!」
華の口調は、益々強くなった。――
納得出来ないまま……会う前に、喧嘩も嫌だった俺は、折れる事にした。――
本当の自分も見せられず…結婚生活など、送る事が出来るのか?
一抹の不安を…初めて、感じた。――
愛想を振りまく華が嫌で…俺は、ゲームに参加しない日が増えていった。――
逆に、華は、三カ月前と同じ位、ゲームをする日が増えていった。――
その辺りから、電話での内容が変わり始めた……
旦那の愚痴や子供の話しが多くなり、俺達の未来の話しは減っていった。――
華がゲームを終え、電話をして来るのを、ひたすら待つ。
何時間も何時間も――苦痛な時間が増え続けた……遅い時は、朝になる事も多々有った。
心配で…寝ないで待っていた。――
そして、遂に……
「電話、待ってるの、解ってるよね?――早く、やめようとか思わないの?」
寝不足も手伝って…非難がましい言葉になった。
「はぁ?楽しんでいるのに、私が抜けたら、雰囲気壊すでしょ! その位の事も解らないの?」
謝る気などは、さらさら無く、頭が悪いのか?…と、呆れられた感じだった。――
俺には、それこそ…解らなかった。
好きな人が、一番じゃ無い気持ちも。
そこまで、グループが大切な気持ちも……
……真夏は、俺が好きだったんだなー。
全て、俺が一番だった。――
華が変わる事は、無く…――苦痛な日々は、続いて……
でも……華に会いに行く事で、全ては解決し、――
華との明るい未来が、待っているのだから……
今は、俺が我慢しよう!と、思った。
思おうとしていた……

四カ月に入る頃、やっと、休みが取れた!
華に伝えるべく、――早朝に、メールを打った。
返信は……夕方過ぎてからきた。
「家族で、買い物に出掛けてましたー。」
――華は、本当に、離婚する気が有るのだろうか…いや……三カ月もの間、話し合ってきた。
実家を離れたくない華の為に、俺が向こうで就職をする話しも出て……父親になる覚悟さえした。――
あの時間が、全て、嘘だったとは思わない……
その夜、気分を切り替えて、華に電話をした。――
「嬉しいね!早く、その日にならないかなー!」
いつもの可愛いく、明るい華だった!
俺は、――真夏と比べてきた自分を恥じた……
「俺も、楽しみ!早く、会いたいね!」
考えれば、グループの事も、近くに住んでいたら、別れ話しになっていたかもしれない…
華に、会える事が決まった今となっては、遠恋で良かった!とさえ思った。――

遂に、その日はきた!
俺にとっては、久々のフライトだ。――
空港で空を見上げると、大きな虹が架かっていた。
「あー、真夏が見たら大喜びだ…」
思わず、口に出していた。
馬鹿かっ!これから、華に会うって時に、何を考えてるんだ?
空港から、華の家に近いホテルに、やっと…たどり着く。――
本来なら、知らない土地の事、空港まで迎えに来て欲しかった。――が、相手はまだ既婚者だ、自由な時間も限られている……仕方が無い事だった。
到着を知らせるメールを送り、華の連絡を待った。
ここを、離れる訳にもいかず、下の喫茶店で軽食を取る。
真夏なら、速攻で、ご当地ラーメン巡りだな…
考えてしまい…フッと笑う。
新しい土地に来ると、遂、考えてしまう…長い年数の付き合いとは、恐ろしい物だ……
少し、緊張しているせいかもしれない。
三時を過ぎ、――華から来ると、連絡があった。
遂に、会えるのだ!

コンコン。ノックの音がした。――
俺は、緊張気味に…「はい。」
と、言い。ドアを開けた。――
「どうも―。」
華が、照れ臭そうに、立っている。
俺は、「――入る?」 と、ドアを大きく開けた。
会えなかった、四カ月間を思い出し…俺は言う…
「会いたかった…」
思わず、華を抱きしめた。――
「私も…」
華は、潤んだ瞳で、俺を見つめた…
俺達は…抱き合い、――キスをした……
感情が溢れ出し…ベッドに縺れ込む。――
俺は……出来なかった。――
自分の体だが、何故かは、解らない。
「おかしいな……寝不足だからかな?……」
俺は、泣く事も、謝る事も無く…
言い訳をした。――
「今日は…疲れたから、仕方ないよ……」
と、言いながら、華は、ため息をつく……
明らかに、残念そうだった。
俺は、昔の女達を思い出していた。……
その後、居酒屋に場所を移し、――ゲームの話しなどをしたが、思いの外、盛り上がらない……
華が、帰る時間になり――
「又、明日。」
「うん。又、明日。」
コンビニに寄り、ぶらぶらと、ホテルに帰った。
部屋に着き、華からの、帰宅連絡を待つ。――
が、いつまで待っても、電話は無かった……
暇なので、ゲームを開き、――驚いた!
華は、グループで、プレイしていた……
急速に冷めていく……自分を感じていた。――
出来なかった事に関しては、――読者の方々が考える程、ショックを受けてはいない。
何故かは、解らない……
歳の分、強くなったのか?
童貞じゃない…余裕なのか?
それとも……写メより、華がかなり老けていた!という、言い訳が有るせいなのか……?
もう、恋は、しない!と…落ち込む事も無く。
居酒屋では、気まずい雰囲気に…食べた気がしなかった。――小腹が空いてきた。
コンビニで買ってきた、ご当地カップラーメンをあけ、食べる事にした。
一人、ホテルで食べるカップラーメンは、寂しい味がした。――
カップラーメン、一つでも、真夏と二人なら……
「美味しいね!最高!」――と、笑い合うのだろう。
…考えながら、ラーメンをすすった……

次の日、華は、夕方まで来なかった。
俺は、待ち続けていた。――
来たと同時に、直ぐに帰らなければならない…と、告げられた。
残念に思わない、自分に戸惑った……
今日は、最後の日だ、喧嘩はしたくない。
適当に話しをして過ごす。――もう一度、ベッドに行き……などという気にもならず…
「俺達の未来」でも無く……――本当に「適当」な話しをして過ごした。
帰り際、――「気を付けて、帰ってね。」
華が俺にキスをする。
俺は、別れの感傷も無いままに……何をしに、ここまで来たのだろうか?……と、考えていた。――
その夜も、――俺が、「気を付けて、帰ったか」の確認も無いままに……
華は、グループでプレイしていた。――
帰ってからの日々は、――思い出すのも、嫌なくらい、散々なものだった。
喧嘩、喧嘩の毎日だ。
終いには、喧嘩の勢いも有ってか…
「私と、出来なかったのが、ショックだった!ガッカリした!頼りなく感じた。」
と、まで言われ、本音が出た…と、思った。
俺の気持ちは、一つも、考えてはくれないのか……
「二人で居れば、それでいいじゃん!」
と、言った、真夏の言葉を思い出す。――
俺は…なんて、愛されていたんだろう……
「私の愛は、半端ないからね!ハハハッ。」
真夏の声が耳に響く…
その数週間後、――俺から、華に別れを言った。
人生最悪の別れだった……
罵りの言葉を浴びせられ、悲しみしか残らない……別れだった。――
俺は、何も言い返さなかった。
自分もそこまで、墜ちるのは嫌だった。
それに……俺も、以前――真夏に、同じ様な酷い言葉を浴びせたのを思い出していた……
二度と、同じ過ちは…犯したくない。と、いう思いが、俺を制していたのかもしれない。――
でも、――俺は、華との恋を後悔はしていない。
人生勉強になった!――と、せめて思いたいから…

散々な、別れから二カ月が過ぎた。――
外もすっかり、寒くなり始めている。
この34歳は、長かった恋を終わらせ。
初めての遠恋を経験した。
恋愛においては、俺の人生史上、一番に濃い歳だったと、言えるだろう。
フッと、外を見る。――雀が、枝にとまっていた。
俺と真夏は、冬の雀が大好きだった。
「太ってて、可愛いね―。ハハハッ。」
何時間でも、飽きずに見てたっけ……
真夏が居たら、喜んだだろうな。
あの…猫たちは、元気だろうか…?――なついてくれたのに……縁を切ったのは俺だ。
そんな事を考える資格も無い……
縁と言えば、――光とも、華に会う、資金集めで、誘いを断り続けていたら…連絡さえ来なくなった。
後悔は無いが、華との恋で、俺が得た物は、何だったのだろう?
心に響き、残る言葉一つ無い……
グループも、前の奴と同様……追い出される形で離れた。――全員が、華の味方だった。
「一人でも味方が居てくれたらね…。」
真夏の言葉を又、思い出していた……
オンラインは、楽しい分、怖い世界だ。
今は、――俺達の様な悲しい思いをする奴が、一人でも出ない事を祈るばかりだ。
全てを失い、得た物は、苦い人生経験だけ。
人生勉強にしては、代償がデカいなぁ…
「伊織、得た物は沢山有るじゃない。楽しい時間!」
真夏の声が、今度は頭の中で聞こえた…
確かに。――二人で、楽しい時間を過ごした時期は有ったのだ。……無駄だったとばかり、考えるのはよそう!……そう、思えた。
しかし――真夏を思い出す事が多すぎないか?…
突然、又、思い出す、明さんの訳が解らないと、思った言葉……
「真夏って女はくせになるよ。居ないと、禁断症状出る程ね。」
まさか……俺、禁断症状出てるのか……?
――出たとしても、あれだけ酷い事をした後で、どの面下げて、連絡出来るって言うんだ…
俺は、――真夏に華の事で、謝る気はない。
真夏を好きになり、真剣に付き合った。他の人を好きになり、別れを告げた。
全ての人の恋愛が、最後まで上手くいく訳ではないのだから…
ただ、あの頃の俺は、新しい世界に狂い、熱に犯されていた。
言い訳だ!と、思って貰って構わない。
真夏の事を思い出すにしても…俺が一番だった。とか…自分中心の事ばかりだった。――
自分を思わない、華ばかりを責めていた…
人を思いやる気持ちを失っていた……
真夏に向けた、酷い言葉も、酷い行為も、覚えていないとは、言わない。
自分が人として間違っていたのも認める。
……表現が難しいが…自分が造り上げた、架空の自分に支配されていたのかもしれない。――
真夏は、――彼氏が出来たのだろうか?
俺は、真夏との生活を退屈だと感じた。――
失った物を今、幸せだったんだ…
と、思い始めていた……
ピューピューと、風が吹きつける。――
首をすくめて、どんどん冷える、心と体を両手で、ぎゅーっと、抱きしめた。――
……真夏のおでんが食べたくなった。――

……どうしよう…本当にどうしよう。――
俺は、人様が聞いたら、「大炎上、間違い無し。」の事を考えていた。
真夏にどうやって、連絡を取るかだ。――
解っている!都合が良過ぎる事は、俺が、一番解っている!
解っている…けど、何をするにも真夏が出てくる。
頭から出ていってくれないのだ。
俺は、思い出してしまった……あのノートの事を。
・もしかして…俺がまだ…好き?
・世界一大好き。一生変わらない予定
ご存じの通り、皆が言ってくれる程、俺は、「良い子」ではない。――
ただ、単純で、素直では有ると、自負している。
俺は、震える手で、メールを打つ……
「ただいま、真夏。」と、――




「お帰り、伊織。待ってたよー!」
直ぐに、真夏から、返信が有った。――
目が熱くなる…涙が浮かんだ。嬉し涙が……
何故か、真夏も泣いていると、感じた。――
感じた。――じゃねぇよ!と、――皆さんの、呆れた顔が目に浮かぶ。――
そんな、馬鹿な話し!ふざけるなよ。伊織っ!
と、人は言うだろう。
きっと、その人達にも、――
真夏は同じ事を言って、笑うんだ……
「私の愛は、半端ないからね!ハハハッ。」

結果、又、真夏と付き合い始めた。――
一週間を過ぎ、俺は、ケジメとして、華との出来事を真夏に話した。
正直、まだ思い出すと、辛い部分も有る。
真夏だって、聞きたくも無い事だろう……と、思ったが…意外……
「えーっ!ご当地カップラーメン、ズルい!私も食べたかった!」
「えーっ!写メより、凄い老けてたのー!超ウケるんだけどー!」
「最低ー!欲求不満ばばあだな、鏡見てから、出直してこい!」
「自分のした事はね、必ず、自分に返ってくるよ。グループの馬鹿共には、倍返しだな!」
話しの合間、合間に、ふざけた合いの手を入れてくる……
俺は、自分が感傷に浸っているのが、馬鹿らしくなってきて……終いには一緒に大笑いしながら話していた……
真夏に訊きたい事が有った。――
「何で、――待っててくれたの?別れる。って解ってたの?」
「私、ノストラダムスじゃないから!別れる。なんて事は、解ららないさ。――世界一大好きって言ったでしょー! 付き合う時、半端な気持ちで、圭と別れたんじゃない!結構、キツかったんだからね!――でも…あの頃の伊織と、一緒に居たかった!」
真夏は腕を組み、怒った口調で言った。
後日、真夏と寝た。――やはり、出来る!
何故?解らないが…今となっては、どーでもいい。
猫たちは…メンバーが変わり、減っていた。
シマを変えたり、亡くなったり…したようだった。
寂しいが……又、この子達の仲間にしてもらおう。
もう一つの気掛かりは…美魔女軍の事…
怒ってるよな……
真夏に訊いて、怒ってる。と、言われたら、――
足が竦んで二度と会えないと、思った……
噂をすれば…じゃないが。――
亜美さんから電話だ。
「これから、麻雀だって。行く?」
「行きます。」
思わず、敬語になる。――

……始めて、会った時より緊張する!
店に着き、真夏が先に入って行った。
頭をかきながら、後から俺も、入って行く……
皆はカウンターで、寛いでいた。
「あーらっ!お帰り、伊織ちゃん。」
亜美さんが、冷やかす様に横目で見ながら言った。
……ちゃん。付けだよ…
「あーっ!伊織だー。おかえりっ。」
美希さんが、俺を指しながら言う。
……指かよ…
「やだーっ。すっかり、痩せてぇ。元からか?…おかえり、伊織。」
明さんが、茶漬けを食べながら言った。――
本当に、勘弁して下さい……
「伊織ちゃん。お・か・え・り。」
春江さんが、やはり…冷やかす様に言った。
又、ちゃん。だよ…しかも、言葉区切るし……
でも……変わらぬ笑顔だった。
俺は、戻れたんだ……と、今、強く感じた…
後は、ごく普通に、麻雀を始めた。――
前と何も変わらない…居心地の良い空間だった。
俺を――非難もしない……
心の中で、皆に手を合わせた。――有難う。
「私は、神様じゃないよっ!」
明さんの、ツッコミが聞こえた気がした!
後の茶会で……
「何で、俺を責めないんですか?……」
と、訊いた。
「責める事じゃないでしょ?伊織は、恋愛をしただけじゃない。まぁ…真夏が心配してる時点で、酷い目に合って戻るのは、目に見えてた。――若いウチは判断が出来ないもんだよ……好きな気持ちが強い時は特にね。」
亜美さんが、言ってくれる。
「相手がいい娘なら、真夏は何も言わないはず、あんなに、心配しない。戻ると思った。」
と、美希さん。
「傷付かなきゃ良いけど…ってね。――伊織は、心配要らない。真夏はモテてたから。……逆に心配か?」
明さん…
「伊織と、真夏がいいなら良いでしょ。相変わらず、本音は言わないけど…今、幸せそうだから良いよね。」
春江さん。
素敵な人達だと思った。――が…後が酷い……
「一体において、今までがおかしかったんだよ。」
「そーさー、私だって、若い方が良いわ!」
「伊織、やったのか?え?やっちゃったのか?」
「次はないな、さすがの真夏も別れるな。」
「おい、土産はどーした?土産は!」
言いたい放題だ……
真夏は、ゲラゲラ笑ってた。
俺も、腹を抱えて、笑った。――声を上げて、笑ってた……
その後、家に帰り。――
俺は、凄く気になっていた事を、真夏に訊いた。
「ねぇ、真夏は、華をまるで、知らないじゃない?――何で、俺を心配したの?何で、華を認めてなかったの?」
美魔女軍が、華を知ってる様に言うのが、気になっていた…
真夏は、二人分のコーヒーを丁寧に入れながら、話し始めた。――
「伊織は、――華を好きになってから、悲しい顔が多くなった。グループの揉め事の時も、――助けてあげられない自分を責めて、辛そうだった。華が、助ける人であって欲しかった。――」
真夏はコーヒーをそっとすすり、続ける……
「私に、言った数々の言葉も、幸せな伊織なら、絶対に言わない。――華が、本当に伊織を思ってくれたなら、苦しみも、悲しみも半分になって、――伊織はいつもの優しい笑顔でいたと思う。――」
俺は…言葉も無く…真夏を見ていた……
「悲しい顔ばかりさせる人は、認められなかった…最後の方は、私も、良く覚えていないやー、ハハハッ。以上。」
――あの、状況でも、真夏は俺を見ていた…
俺の事を考えていた。――泣きそうになった……
ここまで、俺を愛している人は居ない。
と、言い切れる。――
その思いを重たいと、感じる事も又、有るだろう…
でも……真夏の思いが有るから――今、俺は……
優しい笑顔で、いられるのかもしれない。――

そこからは、毎年の繰り返しだった。――
正月には、必ず、餅を食べ過ぎ、二人で苦しみ…
「あーっ!一生、餅、食いたくない!」
と、毎年、繰り返す。
春には、サクラの名所巡り、花粉に二人で悩み…
「来年はやめるか?……ハクション!」
次の年も、くしゃみをしながら、桜をみあげる…
夏は、海に何回も行き、思いっきり楽しみ…
「すっかり、人も減ったな……」
当たり前。9月も、半ば過ぎだ…
秋には、暑さも過ぎ、元気になった動物達に会いに、動物園へ…
その頃には、一端の動物好きになっていた!
この頃のお気に入りは、ウサギさん。
フォルムが実にキュートだ!
これも、意外だったが、――
真夏は、婆ちゃん並みに年中行事に、ウルサい!
年越しそばだ、やれ、豆まきだ、七草だ、土用の丑だの…――もう、言い出せば、きりが無い……
ウザいな――と、思いながら渋々、付き合い……
その生活に染まっていく、自分がいる。
今までの、人生で、――こんなにも、四季を感じ、生きた事は無かった。――

俺は、37歳になった。――
まだ、懲りずに、女は真夏一人!…なんて、思わない。
綺麗な子には、目も行くし、妄想も膨らむ。
男なんて、一生そんなもんだ。――
平穏で、退屈な日々は続いても、人生、何が起こるか、解らない。――
普段から、風邪も引いた事の無い真夏が、盲腸で入院した!
俺は、前述の通り、病院が、大の苦手だ。
大きな病気さえ、一度もした事が無い。
真夏に付き添い、病院に行き…今から手術だと言われた。――
簡単なものだと、言われたが、――経験が、無いので、安心出来ない……
今まで、考えた事も無かった……
もし、真夏が居なくなったら、どうしよう。――
堪らなく、怖くなった。
一緒に居られるのが当たり前だと思ってたのに……
俺は……一年に一度きり、真夏に連れられ、正月に渋々、行く時にしか、手を合わせた事のない…
神様に、お願いした。
絶対に、手術が成功する様に!
真夏と、ずーっと、一緒に居させて下さい…と。
手術は、呆気ない程、簡単に終り。
一週間程の、入院だと言われた。
真夏が、初めて俺を頼った一週間だった。――
美魔女軍を案内して、お見舞いに行った。
患者さん、看護婦さん達が、ジロジロ見てくる。
俺達は、とにかく派手だったから……
美魔女軍は…病人にも、言いたい放題だ!
「真夏……パジャマだと、ヤバい位、胸ないねぇー」
「私達じゃ、ノーブラは、無理だよね…」
「今、A?…A有るの?あー、A以下って無いか…」
「これじゃ……伊織が、気の毒だ……」
美魔女軍は、全員、巨乳だ。
何故……真夏だけ?……常々、残念に思っていた…
「そっすね……」
俺も、便乗して言っていた。――
「ちょっとぉ!見舞い!見舞いの言葉は!……しかも、伊織!覚えてろよ!ハハハッ。」
真夏は、怒りながら、笑い出していた。
「元気で、本当に良かったよ!」
皆が、言って。――帰って行った。
真夏は、友達にも気を使う…
騒ぎ過ぎたのか、目を閉じて。――
「ゴメンねぇ、伊織。病院、大嫌いなのに……」
まだ、力の入らない声で、謝る……
「こんな時に、何言ってるの!本当に、手術無事に終わって、良かったね!」
ベッドの上の真夏は、弱く見えた……
いつもの、頼り甲斐のある、真夏では無かった……
守らなくては。…と、感じた。――

退院後の暫くは、家で過ごした。
ゲームをずっと、やっている俺も、オカシイが…
真夏も、かなり不思議な人間だ。――
気に入った物への執着が、半端無い。
同じ漫画やドラマを何回も見る。――
付き合い当初から、12年間!見ているのに、毎回、ゲラゲラ笑うし、涙を流す……
しかも…滅多に、お眼鏡にかなう物が無い。
したがって、余り増えない。――
「又、読んでるの?――」
俺が、呆れ顔で訊く……
「ハハハッ。」 真夏は、笑っただけで答えない…
「良く、飽きないよねー?ハハハッ。」
笑いながら、俺は…5年前から繰り返しやっているゲームソフトをセットした。――
何か、言いたそうに…真夏が冷やかし顔で、俺を見ている。――
「何!」
「……別にぃ…ハハハッ。」
――俺と、真夏は実に、波長が合うのだ。

俺は、39歳になった。――
この物語が始まった、25歳の時には、自分が39歳になるとも、思わなかった……
そう!真夏が俺と知り合った時の歳になったのだ!
俺は、ユリユリ女子に言いたい。
初めは、「年上と、恋をしている自分」に、酔っている所も有るだろう。
「年下に、好かれている自分」に、酔っている所も有る。
しかし…付き合いだして、数年もすれば、――
年の差など、さして、気にならなくなるものだ……
ユリユリも、十数年後には、横目でJKを見ていないとは、言い切れない……
夢を壊す様だが、経験者の俺が言うのだから、あながち、嘘では……無い。
俺の外見は、さして変わっていないと、人は言う。
真夏は、年齢的に、ぽっちゃりしてきた。
この頃になると…真夏は、何が有っても、俺の事が大好きだな!…と、変な確信を持つようになった。
――ある時の事だ、何気ない会話から、喧嘩に発展した。
喧嘩など、そんな物だろう。
初めから喧嘩をしようとは、思わない……
「これから、何かしたい事ある?」的な話題だった。
「私、たまには、気分を変えて違う海に行くってのも良いな。」
真夏は、言った。
「俺は、――1回で良いから、違う人と…やってみたい……」
「……そうなんだ。」
突然、声のトーンが落ちた真夏に、カチンときた。
「真夏には、解らないよ!……何人かは、経験、してるんだから――本当に、俺の気持ちは、解らないと、思う。――別に……付き合いたいんじゃないんだ。プロの人とで良い……」
本心だった。
真剣に、ずーっと、考えていた事だった。
「……気持ちは、解る。――解らないって言われるだろうけど……この歳になれば、色々な人の話しも聞いてる…男の人は特にそうだよね。――」
真夏は、深く考えている顔をして…続けた…
「――解ったよ。別れて。」
「えっ?」――何?……
一瞬、解って貰えたんだ!と、思ってしまった……
「今の言葉、私は絶対に!一生忘れられない。」
「……」
そんな…話しにまでなるとは――思わなかった……
「……人間、歳を取ると心が、狭くなる。――どの位前からだろう……付き合って一年たたない頃からかな?もう、伊織を信じられなくなっていた。」
真夏は、俺を見ようとはしないまま続ける……
「付き合い始めに…――真夏は、こう言っていた。って、伊織は、よく言うけど……それは、伊織の気持ちを信用出来たから、言えた言葉なんだ。」
……俺は、正直に本心を言っただけだ…
「だから!付き合いたいんじゃないって。1回だけの関係だろ?…大袈裟なんだよっ!」
「他の人の彼女まで、羨ましそうに見ている様な…今の伊織相手に…私の心の支えがあるとしたら…たった一人だけ、体の関係が有る女だって事。」
「真夏だって、他の男、見てるよ! しかも華の時に、出来なくてもそういう気持ちになったなら、アウトだって、言ったじゃん。」
「そうだね…でも、結局はやらなかった!って、言った伊織の言葉で納得した。――伊織にとって、一人が嫌なのと同じ位、――私には一人だって事が凄い大切なの。」
視線を下げたまま、真夏は、言った。――
「じゃあ、他の人とやったら? 別れるんだ?――遊びでも?……一回の浮気さえ、俺には許されないんだね!へーっ。」
真夏が入院してから、大きな喧嘩は避けてきた。――が……俺は、久々に頭にきていた。
「ゴメン、1回でも、今の私には無理。――伊織は、何がしたいの?何人とやった。何回やったって、誰かに話したいの?」
「違うよ!馬鹿にしてるの?自分で、体験したいだけ!――それが良くても、悪くても、真夏とは付き合っていくって、言ってるじゃん!」
本当に、体験したかっただけだ……
「……付き合ってあげてるって、感じだね。――まぁ、そう思ってるのは、知ってるけどね…」
投げやりな真夏の言い方に、ムカついた!
「始まったよ!何でも知ってて凄いよね、貴方は!」
そう…――真夏は、訳知り顔で物を言う。
そこも、息苦しく感じる所だった。――
「最後に、一言だけ、年上からの忠告……好きになって、付き合った人と、二人目でも三人目でも、やった方が良いと思うよ。――だから、別れてって、言ったんだけどね。」
俺が、頭にくればくる程、真夏の方は、冷静になっていく。
「一回だけ他の人と…」 この、…俺の発言から……明らかに真夏は、変わった。――
本気で、別れる気だ……と、思った。
「真夏以外と、――付き合う気は無い。」
表情の消えた真夏が怖かった…居なくなる…と…
「どうなるにしても、――さっきの言葉は、忘れられない…伊織を女関係で信じる事は、――二度と無い。一生ね。」
「信じなくてもいい。真夏が……しないで、って言うなら、俺は、しない!」
無意識に言葉が、出ていた。――
本心か?――自信さえ無いが……別れる。と、思ったら…口から出ていた。
「あのさー、この前、別れたの…スッゴいキツかったんだよねー。――伊織が、居るから、生きる意味が有る。位に好きだったからねぇ……」
真夏は、独り言の様に言い。――続けた……
「一番、始めに別れた後、伊織に、――彼女が出来なかったのが、凄い嬉しかった。まだ、私だけの伊織だったってね。――光が誘った、合コン。――行かないで…って言葉を言うのに、凄い決心で、言った……聞いて貰えなかった。……言っておくけど、まだ、恨んでるからね。――これで、もう、誰かとやっちゃうのかな?って。心配で……でも、帰ってきた。――まだ、私だけの伊織だった。」
俺は……喋れないまま、真夏の言葉を聞いていた。
「華と、出来なかったのも、――本当は、凄い嬉しかった!まだ、ギリギリ、私だけの伊織だった。ってね。…ただ、別れの前にしたセックスは…私の一生の中で、一番悲しいセックスだった。――それも、恨んでるから…」
真夏は、まだ俺を見ようとは、しなかった…
「これだけの思いで、私は……「一人だけ」にこだわってきてるの…それでも、伊織は、「一人だけ」が、嫌なら、私は、今直ぐに、別れたい……」
大きな溜息をつき…真夏は、続ける。――
「頑張って、思い続けて……――これ以上の、年齢で振られるのは、マジ勘弁なんですけど!…あぁ、ちなみに、これは……さっき伊織が言った「俺は、しない!」に対する。プレッシャーだからね。はははっ。」
突然、真夏は俺の方を向いて。笑った…?――
自信さえ無い……と、俺が思った言葉だったが…
真夏が、俺の方を見てくれたのが、嬉しかった。
「――なんだよ、プレッシャーって!ハハハッ。」
俺は、笑った。――
…今まで、見た事の無い真夏と、14年経ち、初めて聞いた、真夏の本心だった。――
真夏は、口に出さなかっただけで…俺より独占欲が強く、嫉妬深い人だった……
それが、怖くも有りながら、何だか嬉しかった。
又、突然に思い出す。――美希さんの言葉だ…
「真夏の言う事は、裏を読んでやってね。凄い強がり言う奴なんだよ…」
全く、その通りだ!
「伊織の歳じゃあ無理か…」
この歳になり、俺は、やっと理解した。――
俺の事を、信じない……と、言ったのも、信じたい強い思いが有るからこその言葉なんだろう。
昔なら、ムカついただけで終わった言葉さえも……
「好き」の裏返しに聞こえた。――

少しの間は、平和だった。――
何でもそうだが、安心した時が、一番危ない……
案の定。亜美さんまでも巻き込む事件が起こった!
俺は、その頃には真夏公認で、亜美さんと、LINEのやり取りをするまでの親友になっていた。――
長い間、連絡が、無かった奈々からLINEが、入った。――
「久々に、出掛けない?伊代も会いたがってるし。」
伊代は、娘だ。奈々は、シングルマザーだった。
俺は、躊躇した…
真夏との喧嘩から、日がたってない…しかも、真夏の思いを聞いたばかりだ……言いづらい…
でも、奈々とは恋愛関係が、100%無い。
俺は、真夏にLINEを見せて話した。
「そうだね。――行ってきなよ。」
真夏の様子を見ていた…一瞬、考える時間は有ったものの、無理をしている様でも無い。
俺は、奈々にLINEを返した。
「良いよ。」
当日、真夏にお洒落をさせられ、出掛けた。
合コンでも、そうだ。女の絡む用事の時、真夏は、俺にお洒落をさせたがる。――
女にしか、解ららない感覚だと、真夏は言う。
当日は、動物園に、行く事になった。
伊代とは、幼稚園の時以来、会っていない。
「大きくなったねー。」
小学生に、なっていた…――俺は、驚いて言った。
奈々は、ギャル系のカッコをやめ…老けていた……
「そりゃーそうだよ、何年間も会ってないもんね。」
俺達は、園内をぶらぶら歩いて行った。――
休日で、家族連れが多く。――親子だと思われたら、嫌だな……俺は、少し離れて歩いた。
帰りに、ファミレスでお茶をしている時、――
「伊代の学芸会が、有るから来てよ。」
奈々が言いだした。
「伊織君、来てー!」
伊代も言う。
真夏は問題無い。奈々には、真夏の件で恩も有る。
「良いよー。」
俺は、即答した。
そして、家に帰った。――
真夏に、今日一日の事を全て話し、――学芸会の話しをする。――心配させたくなかったからだ。
「話してくれて有難う。」と、真夏は言うだろう。
と、思っていた……
「――学芸会は、断りなよ。駄目だよ。」
真夏は、真剣な顔でキッパリと言った。――
予想を裏切られ…俺は、驚いていた。
「えっ?何で?」
「学芸会には、他の母親や家族が来るの。――あれは誰?ってなるよね?……伊代が、友達に、誰?って訊かれたら?」
真夏は、眉間に皺を寄せている……珍しい…
「友達だって、言えばいいだけじゃん?――伊代とも約束したんだ。断るの無理!」
即答で快諾しちゃったんだ…無理、無理。
「普通のお母さんに、男友達は、通用しない。――ましてや、伊織の容姿じゃね。……有らぬ噂を立てられて、逆に、迷惑を掛ける。――子供にまで、その噂が伝わったらどうするの?」
又、真夏の、長い屁理屈が始まったよ……
「そんな噂、奈々は気にしないよ!そんな奴じゃあ無い。」
俺は、ムキになってきた。
奈々が悪く言われた気がした……
「伊織……言ってる事が全然、違うよ。――奈々を悪く言ってる訳じゃないの。」
真夏が、珍しく、イライラしている。
「あれでしょ?…結局は、俺が女と会うのが気に入らないだけでしょ?――奈々は有り得ないから。」
焼きもち焼きの真夏に言い含める様に言う。
「馬鹿なの?そんなの関係無い。――子供に良くないって、話しだよ!行かせるんじゃ無かった!」
真夏らしくない…口調だった…
「その、子供が来てくれって、言ってるの!だから、何も問題無い。」
面倒くさそうに、俺は言い切った。
「簡単に考え過ぎ!噂くらい怖い物は無いんだよ!」
「正直に言えよ!焼きもちだって!俺にも、奈々にもそんな気無いから!」
俺達はヒートアップして、大声で言い合っていた…
が、真夏は、突然、声のトーンを落とした。――
「良く聞いて。――伊織は、そう言うけど、奈々は違う。動物園で家族連れを見てて、羨ましいと思った…伊織と、家族になれたら……と、思ったから、学芸会に呼んだんでしょ?そうじゃなきゃ、突然、言わないよ。――そして、伊織は、行くって言った。――それは、子供にまで、期待をさせてしまったって事。それが、どれ程、ヤバい事なのか……解って欲しいだけ。」
今度は、説得口調だよ……
「結局は、ウダウダ言って、奈々と俺がくっつくのが嫌だって事ね!」
「くっつく気が有るなら、学芸会、行っていい。行くなら、結婚する気で行けって、事!」
理解しない俺にイラつき、真夏は、又、ヒートアップし出した。
「大袈裟なっ!俺は、絶対に行くから!――あんたが何言っても、ひがみにしか聞こえないわっ!」
遂に、俺もマジギレ……
「解ったよ。行くなら……別れてから行ってね。」
真夏から、二回目の別れ話だ。
今回は、折れる訳にはいかない。
俺にとって、約束を守る事は、譲れない信念だ!
「何で、そんな話しになるのか意味解らねえけど、じゃあ、別れる。別れて、行くはっ!」
真夏は、頭を振りながら……
「別れて結構。ただし、――今回だけは…仕方ない亜美さんに電話して。亜美さんの話しを聞いて――それでも、行くなら、そうしな。私は良いよ……
子供にまで、迷惑、掛けるなっ!」
真夏は、俺と付き合ってから、始めて…怒鳴った…
「あーっ!亜美さんに訊くよ。俺は間違ってない!」
俺は亜美さんに電話をした。――
「亜美さん、今、真夏と別れて。…俺の女友達が…」
オレは亜美さんに話した。――話し終わると…
「伊織、真夏を連れて、ファミレスに来な。」
亜美さんが,落ち着いた声で言った。

亜美さんは、事有る毎に、俺の味方をしてくれる。
今回も、真夏に言い聞かせてくれるだろう。
電話で、直ぐに言って欲しかったのに……
ファミレスまでの車内は、重苦しい空気だった…
真夏は、腕を組んだまま正面を睨んで、口もきかない。――
こんな姿も珍しい…余程、嫉妬してるらしい…
店につき、今の話しをもう一度した。
俺達に、恋愛感情が無い事を強調して話した。
「うん。今回は、伊織が間違ってる。」
亜美さんは、即答した。
「嘘だろー?――子供にした、約束を守るのは、当然でしょ?」
驚き過ぎて、亜美さんにまで怒鳴った……
「約束をした、伊織が間違ってる。――それとも…伊織は、伊代のパパになるの?」
「でしょーっ!」
「真夏は、黙っててっ!――パパになる気なんて…絶対に無いです。」
話しが通じ無いのか?この人達には……
「伊織がした、約束は、そういう事なんだよ。――それに、真夏が正解。奈々は…伊織に気が有るよ。――伊織に惚れたって、言うより…父親が欲しかったんだろうね…」
「二人とも奈々を知らないから、そう感じるだけだと思います。――これが、一番、聞きたかったんですが…真夏は嫉妬から…行くなって、言ったんじゃないんですか?」
「違う。伊織、良ーく、考えて。――今まで、真夏が別れ話に、私を巻き込んだ事が有った?…ないよね?…今回だけは、事の重大さが解るから……子供の為に、伊織を私に説得させた。――悪い事は、言わない。学芸会は、断りな。……そうすれば、奈々が動くから、伊織にも解るよ。」
いつになく、亜美さんまで真剣だ。――
「俺が、間違っているんですね?……解りました…断って、様子みます。」
俺は、まだ、半分不満顔で言った。
「真夏も、いけないよ。伊織に、奈々の気持ちが解る訳が無い。…男同士で子育ての話しは余り、しないよ。――別れ話は、卑怯だ。」
亜美さんは、真夏にも指摘をした。
「それも、そうか…」
真夏は、納得したらしく、もう、怒ってはいない…
俺は…余り納得出来ないままに、言われた通りの事を奈々にLINEした。――
「学芸会は行けない。子供の為に、良くないから。」と、――奈々から、直ぐに返信が有った。
「何で?――彼女が何か言ったの?……伊代がね、伊織カッコ良いね!って、――パパなら良いのに。って、二人で話してたんだよ。来れば良いのに…」
――俺は…唖然とした…呆然か…これは…予言?…
二人が、話していたまんまじゃないか!――
驚きは、まだまだ、続いておきた…
数日後。――奈々からLINEが、入った。
俺が、好きになった。付き合いたい……と。
俺は、親友を無くした。――
恋愛感情が有るなら、「友達」は、出来ない……
「友達でいたい。――」……と、返信した。――
「――何でっ!解ってたなら……動物園の前に止めてよっ!酷いよ、真夏!」
やり切れない気分で……真夏にあたった。
「いや…予想より展開早かった…――本当にゴメンね……私が悪い!今回の事は、先に止められた……悲しい思いさせちゃったね…ゴメン…」
真夏は、俺が親友を失った事に、――痛く責任を感じていた。
避けられた事だった……と、後悔して。――
「何で?――何で、真夏や亜美さんには解るの?」
「うーん…性別と歳かな?……美希さんや明さんから、シングルマザーの大変さも…聞いてきたからね――伊織は、私が、「ほら、見ろ」って、態度に取れて気分悪いだろうけど。――亜美さんの言ってた通りだよ。伊織が解らないのは、当たり前。」
「――男、だから……?」
それとも……俺もその歳になれば解るのだろうか…
「後さー。今後の為に、――前々から、これだけは言いたかった!――焼きもち焼く程、もう、伊織に期待してないから、私。はははっ。」
真顔で、しかも、乾いた声で真夏は笑った。
――目が……笑って無い……
「――怖っ!」
「ハハハッ。」
――本当に、怖かった……真夏が、じゃない。
自分が、だ。――
俺は、今まで、十数年もの間、真夏の……
「世界一大好き」に、甘えてきたのか……?
何が有っても真夏は俺が好きだな。――などと、変な確信まで持ち……
そんな気持ちさえも、――真夏には、お見通しなのだろう。
これからは、そんなに甘く無いよ!――
と、言われた気がした……
「世界一大好き。一生の予定。」
そう………予定は未定なのだから。――

俺は、40歳になった。――
「歳、取ると、一年が、早く感じるよー。」
真夏がいつも口にしていた。
本当だなー。と、つくづく感じる!
一年間など、あっという間に過ぎていく。
そして今、かつての、真夏と同じ事を思う。――
一年でも、若返りたいとは、思わない。
俺も、それなりに充実した日々を――送れて来たからなのだろうか?
自分には、まだ解らない…が、今が、楽しいのは、事実だ。
先日、何気なく真夏に訊いた事を、思い出していた――
「結構、酷い態度ばかりだった俺を。世界一大好きって、何で言えたの?」
俺の問いかけに、真夏は……優しい笑顔で答える。
「伊織は…――少しの間だったとしても、一生懸命に、私を好きでいてくれたから……私は…それが、長いだけっ!」
――そんな、必死な時が有ったな……
若い頃の…甘くて、苦い記憶だ…――
まさか、その時は、ここまで一緒に居るとは、思わなかった。
いい加減な気持ちだった訳では無い。
40歳の自分を想像してみた事も無かったせいだ…
俺達は、結婚もしていない……子供を、育てた事も無い。
世間の人々からすれば、――成長、しきれていない大人だろう。
それでも、生きて歳を重ねると、人より歩みは遅くても、学べる事が沢山、有る。
何気ない日常の中、――人々から…色々な事を教わってきた。――
苦い経験さえも……いずれは人への助言と、なり得るだろう。
俺の為に、人がくれた優しさも、救いも。――
いつかは……人に返していこう。――
そんな事を、俺は、車内で考えていた。――
「たまには、気分を変えて違う海に……」
以前、真夏が言った事だ…
今年の夏も、二人、海に向かい車を走らせる。――
真っ白な砂が――キラキラ輝く浜辺の海まで、足を延ばして。――
キャーキャー…水着のギャルがはしゃいでいる……
「あんな子達と来れたら――楽しいだろうな……」
又、妄想が、俺の頭をよぎる。――
でも…所詮は。
その、海が綺麗だった事を話したいのも…――
名物料理を一緒に、食べたいと思うのも…――
真夏、なのだろう。――だったら、いいや。
「理想と、妄想」を胸に……真夏と過ごそう!
来年も又、横目で理想を追いながら――真夏と渋々…カニを追いかけるのだろう。
あぁ。幸せだー……と、感じながら。――
再来年もきっと…――笑い合っている……

伊織へ

私は、14歳も年下の君からどれ程、多くの幸せと救いを貰ってきただろう。――
人生の数々の場面で、君にとって私が、こんな存在で有りたい……と、思い。
この物語を書きました。
たっぷりの嫌味と、心からの愛を込めて。――
苦り切った顔をして、読んでいる君が、目に浮かぶ様です。
今でも、「世界一大好き」。
                    真夏
追伸
自分だけ、超良く書いてゴメン。ハハハッ。

この物語は、フィクションです。












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