37作目:私がそんな顔をしているのは
「あら、可愛い猫ちゃんね」
祖母は言う。
先日病死した愛猫の写真を見つめて。
「写真の中に飛び込んで、抱きしめてあげたいわ」
先日まで、愛猫を失った悲しさで毎日のように泣き散らしていた。
寝ているか、泣き喚いているか。
そんな日々だった。
さなか、祖母は認知症になってしまった。
いや、なってしまったというよりも、もしかすると認知症に助けられたのかもしれない。
この間までの悲愴な顔が、嘘であったかのように微笑んでいるのだから。
「ばあちゃん、良かったね」
もう、ミイのことを思い出して、苦しんだりしなくて済むのだから。
「あら、ちっとも良くないわよ」
されど祖母は言う。
「あなたがそんなに悲しそうな顔をしているのだから」
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