こばなし
これまでの作品。
たまに書くエッセイ。自分の考えたことや、体験談がメイン。
しばらくは玉石混合。
4話完結の短編小説です。
第1話「おおきくなったらケッコンしよう」 幼い頃の僕――新田優樹(あらた・ゆうき)は心が不自由だった。 自分がどうしたいのか分からない。今どんな気持ちなのか分からない。それ故に「どうしたの?」と聞かれても、「〇〇した」と答えられない。 母が聞いてくる。 「寂しいの? 痛いの? 悲しいの?」 そのどれにも当てはまらない気がして、首を横に振る。 「寂しい? 痛い? 悲しい?」 母の顔が徐々に焦りの色を帯びてくる。根気強く僕の気持ちを知ろうとしてくれているが
「最近、ゼロが流行ってるよね」 「たしかに」 「糖質ゼロとか、カフェインゼロとか」 「健康志向だよな」 「なので作ってみました。飲みごたえゼロの缶ジュース!」 「中身何も入ってないだろこれ」 「ツウな人にだけ味が分かります」 「なにその、裸の王様の飲料バージョンみたいなキャッチコピー」
占い屋に、30代くらいの男性が訪れる。 「僕の将来、どうですか」 不安げに彼が聞く。 「そうですねえ……光り輝いています」 「え」 「まるで太陽のように」 「えっ、ちょ、ちょっと待ってください!」 男性はなぜか、ひどく取り乱した。 「それってつまり、髪の毛一本も無くなっちゃうってことですか!?」
アイドルの私は、ある日、同じユニットの二人が話しているのを見た。 「あの子、また歌が下手って叩かれてるw」 スマホ片手に、私のネタで盛り上がってる。聞きたくなかった—— 「分かってないよね」 ん? 「ね。あの子の魅力は歌じゃないのに」 思わず目が潤む。 私の歌が下手なのは、否定しないんだ……。
やわらかな指先が、僕の肩を突いた。 「ねえ」 放課後、文芸部の部室。 真向かいに座って作業していたはずの彼女は、いつの間にか僕のとなりにいる。 「ちょっと休憩しようよ」 「……ああ」 筆が止まってきたところだし、ちょうどいい。 僕は彼女の誘いに乗ることにした。 「はい」 「ありがとう」 手渡された紙コップから白い湯気が立ち昇る。 いつの間に淹れてくれたのだろう、紅茶の香りがふんわりと広がっていく。 「進捗どう?」 「まあまあかな」 そうは言うも
「ひき逃げに遭いました」 交番を訪れた若い男性が言う。外傷は特に無さそうだが——とりあえず、話を聞いてみよう。 「車をキラキラさせて、我が物顔で飛ばしてきたんですよ、アイツ」 「せっかく前で気持ちよく走ってたのに」 「いきなり後ろから突き飛ばされたんです。最悪ですよ!」 マリカの愚痴……?
心霊好きな友人が写真を見せてきた。 「どうだ、分かるか?」 高校生と思しき団体の集合写真を眺めていると『それ』らしきものを発見。 「……あっ、ここ、映ってる」 僕が指さすと、友人はしたり顔。 「実はそいつ、顔色悪いだけ。他の奴らの足元、見てみ?」 言われてはっとする。 「みんな足が透けてるw」
おばあちゃんが亡くなった。大好きなおばあちゃんだった。 「りつ」 お葬式の日の夜。庭で夜空を見上げていると、お母さんが私の名を呼んだ。 「身体、冷えるよ」 「……ありがと」 お母さんは私の肩に、優しくカーディガンをかける。 「ねえ、お母さん」 「ん?」 「私ね。おばあちゃんとおじいちゃんが大好きだった」 おじいちゃんは孫の私と、たくさん、遊んでくれた。 5年ほど前にぽっくりと亡くなるまで、毎日のように。 おじいちゃんが教えてくれた昔の遊び。 こまま
意中の相手に告白する。 「僕と付き合ってくれ」 「うれしぃ。でも私、重いよ?」 「むしろそれくらいがいい」 「ありがと。……じゃぁ、恋人になった記念に、お姫様抱っこして?」 「分かった」 両の腕で彼女を支えると——あまりの重量に地面はひび割れ、腕は悲鳴を上げた! 「なるほどッ、確かに重いッ!」
俺の友達が最近、やたらといい耳栓を探している。 「どれもぜんぜん効果ないんだよ」 「そもそも、なんでそんなに耳栓したいん?」 「いや、お前は気にならないの?」 「何が?」 「めっちゃうるさいじゃん、うぉぉん、うぉぉぉん、って、女の声が」 「それ、たぶんお前だけや」 そんで、耳栓は効かんヤツや。
AIに創作物を模倣される現代。イラストを公開する時は、防止用の加工が必須だ。 しかし、その神絵師に防止策はいらない。その理由は、構図や色づかいといった要素が人知を超え、再現不可のレベルだからだ。 今日も彼のイラストがSNSに上がる。まるで、真似れるものなら真似てみろと言わんばかりに。
ここは大型ショッピングモールの迷子センター。 「すみません、迷子になってしまいまして」 現れたのは三十代ほどの男性。不思議に思ったが、一応、親御さんは、とたずねる。が、 「そういうのじゃなくて」 と男性。 「これからどうしたらいいか、分からないんです」 どうやら、人生の迷子ということらしい。
社会人としてどうなんですか、という言葉が好きになれません。 利便性は知っています。社会人にカテゴライズされる人に対して使用することで、心的なダメージを与えられます。これは多分、大多数の人が社会人としての理想を持っているからこそ、そういった用法がなされているのだと思います。 便利な言葉です。社会人にもピンからキリまでいるのに、あたかもその人だけが劣っているかのように感じさせることができてしまう、便利な言葉。 すっごく暴力的で、すっごく、都合のよい言葉。 でもき
「次のガチャ、見た?」 「ああ」 「引く?」 「当然。推しだからな」 「いいな。俺、石ねえわ」 「ちっちっち。必要なのは『石』じゃない。必ず引くという『意志』だけだ」 「お前、こないだ生活費として貸した5万、まさか……」 「大丈夫。ちゃんとガチャ(生活費)に使う」 「それは生活費とは読まねえ!」
画面上のニュースキャスターが読み上げる。 『AIによる自動生成が問題になっています』 なんでも、SNS上で炎上の種になっているらしい。 『AIは消えろ、AIはゴミだ、と、いった声が……う、うぅ』 突然、キャスターが泣き出した。 『こんなの、もう、耐えられません』 そう、彼女もAIだったのだ。
人生に夢は不要。 夢が無くても仕事はできる。 呼吸はできる。 手足は動く。 心臓は脈打つ。 けれど夢が無いと、あまりにも苦しすぎる。 いつか叶うかもしれない何かが無いと、生きてくの無理過ぎる。 漫画やアニメやゲーム、小説が無いと現実に押しつぶされる。 夢はお薬。 僕は毎日、夢を見ている。 腹八分、足りない二分を埋めるために。 今日も寝床で夢を食む。 僕の見た夢で、誰かの二分も埋められたらいいのに。