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うまい馬
21時の繁華街の居酒屋。昼間の競馬を観賞したふたりの男が、熱く語り合っている。
「今日のレース、馬たちが輝いてたね」
田中が言う。
「うまいこと、天気も晴れてくれたしな」
山本が言う。
「それにしても1位の馬、なんであんなに速かったのかな?」
田中が言う。彼は2位の馬が勝つと予想していた。
「あれは騎手が上手かったんだよ」
山本が言う。彼は騎手に詳しい。
「いやあ、例の美人調教師の調教が上手かったんだろう」
田中が言う。彼は余計なことに詳しい。
「調教が上手い美人調教師かあ。俺も調教されてえなあ」
山本が言う。彼にはその手の趣味がある。
「やっぱりアッチの方も上手いんじゃないかなあ?」
田中が話を下衆な方向に持っていこうとする。
「何言ってるんだよ。お前、そんな調子だから女子とうまく付き合えないんだよ」
山本が田中の痛いところを突く。田中は山本の攻撃を避けるかのごとく話題を変える。
「それにしても、この馬刺し美味いなあ。馬だけに」
「誰が上手いこと言えと」
田中の発言につっこみつつも、ひきつった笑いを浮かべる山本に田中が言う。
「あいかわらず、うまく笑えないやつだな」
うるせえよ、と山本。
「ところでさあ、この後どうする?」
山本が言うと、ふたりの席に見知らぬ誰かがやって来て言った。
「食後のデザートにうまい棒食おうぜ」
その見知らぬ誰かにふたりはつっこむ。
「いやいやお前、どこの馬の骨だよ」
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