新芽の香りのするフェスティバル
舞台芸術のフェスティバルが個人的に好きで興味があり、かつ舞台芸術のフェスティバルで仕事をしている人間にとって、ゴールデンウィークの静岡というのは非常にありがたい存在で。学生だった8年前からほぼ毎年、ゴールデンウィークの個人的恒例行事になってる。いつも演劇しか観てないけど、一昨年は三保の松原にも行った。なぜフェスティバルが好きかとふと考えれば、それは私が貧乏性なゆえだろう。そこに行けば一気に何作品も見られる、海外招聘演目があることもある、普段会えない人とも話せる、ついでに観光もできるというお得感。
「ふじのくに⇄せかい演劇祭」と「ストレンジシード静岡」に行ってきた。今回は前半日帰り、後半は二泊という旅程。なかなか会えない人たちともばったり会えて嬉しい。ここ数年気になっていた「泊まれる純喫茶 ヒトヤ堂」に宿泊し、一泊3,000円強で素敵な時間を過ごした。朝食のコーヒーとトーストがとてもおいしかった。
公式演目は例年通り全制覇して、どれもすごかったのだが意外に一番裏切られ心打たれたのは、最後に観た『マミ・ワタと大きな瓢箪』かもしれない。ニヤカムさんのチャーミングさに持って行かれた。ウェブサイトのプロフィール写真を見てほしい……。SPACにも観客にも愛されてることがひしひしと伝わってきた。
『かちかち山の台所』は舞台芸術公園と平沢地域を散策しながら、昔話を“おじいさん”ではなく動物や女性の視点から読み直すハイキング演劇。新芽の香りを大量摂取できて幸せだった。『楢山節考』楕円堂は利賀山房の空気感。俳優陣の目力が印象に残っている。ただ申し訳ないのだが午前中のハイキングで疲れすぎていて内容はあまり記憶がない……。『友達』のテーマの古くならなさには圧倒された。「友達、面白かった、面白かった……」と一人でぼそぼそ呟きながら帰宅した。
シャウビューネの『かもめ』、オスターマイヤー演出には『民衆の敵』で衝撃を受けてから6年、こんな近距離でこれを観ていいのかという贅沢さ。ほぼフェミニズム演劇として観た。『白狐伝』はこの壮大さで切なくて泣けるのすごい。狐たちが電動スクーターにも見える台に乗っていっぱい出てくるところが好きでもう一回観たい。そしていつも通りの音楽の素晴らしさ。これを聞きにSPAC通ってるといっても過言じゃない。
全体として脱西欧中心主義、脱人間中心主義のプログラミングだった。またいつも思うけどパンフレットとプレトークの充実度。仕事で公演制作についてると作品以外に予算がかけられないことの方が多いのでありがたみがすごい。
ストレンジシードは、新緑や景色に負けないエモさがカギだなあと思っているのだけど、今回も全体的にエモくて良かった。移動型が多かった。ロロ『パレードとレモネード』はシンボルロードとその周辺を借景にするのぴったりだな。のあんじー『待たない!』は二人が同時多発的に同時に見られない距離で別のことやってるのが斬新で野外劇の新領域って感じがした。
サファリ・P『おちゃのじかん』は観た中で最短だったけど、15分とは思えないほどいろいろな技術が凝縮されてた。浅川奏瑛×演劇空間ロッカクナット『ビトゥイーンズ・パーティ』は良いダンスだった。
ワワフラミンゴ『タヌキのへそくり』、ひさしぶりのワワフラ、この面白さと愛おしさからくるこの快感はここにしかない。ほころびオーケストラ『恋するロボット』、地球にあるもので火星に6個だけ持っていけるものを観客と出し合うところが良かった。BONG n JOULE『The Road to Heaven』 はポールの技術がすごいのはもちろん、演奏の二人が重要だった。
全体として静岡には私よりもずっと若い(中高生くらいの)観客がいっぱいいていいな。若い人が目に見えて居る、というのは、未来が具体的にある、心強い感じがするものだな。
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