本当は猫が好きなのに

右手が温かく湿っている。私が不安そうな顔になると愛犬のモモは私の手を舐める。いつもの私ならそんなモモの頭をなで返してあげるけど、ただ部屋から見える空を見上げた。

本当は猫が飼いたかった。ただあなたが犬が好きだというから飼い始めたのがモモだった。

入居時に真っ白な壁だった壁が薄く黄ばんでいる。ベランダでしか吸わないっていう約束だったのに、その約束を2カ月で破ったあなた。ライターをしょっちゅうなくすせいで今でもまだ部屋の掃除をするとライターが見つかる。

本当はタバコなんて吸わないで欲しかった。体に悪いだけだし私のために長く生きるために辞めて欲しかった。

たくさんのチラシが捨てられず部屋に放置されている。裏面には中身のないカッコイイ言葉を並べただけの詩が綴られている。きっといつか役に立つからって言って書き溜めたあなたの歌詞は、あなたとおんなじだ。カッコイイだけで中身がない。

本当はあなたの曲が好きじゃなかった。ライブに行った時に他の女の子にするライブパフォーマンスが嫌いだった。

最初は着けていてくれたゴムは最初に買った分がずっと残っている。そのうちに面倒くさいっていう理由でつけてくれなくなった。だから、私はピルを飲むことにした。そのことになんども乾いた「ありがとう」を言われた。

本当は薬の副作用が不安だった。もしも血栓で私が死んでもあなたは悲しんでくれないんだろうなって思った。

嫌のことがあるとすぐに感情的になる。うまくいかないとすぐに暴力的になる。私のスマートフォンは投げられて画面にひびが入っている。腕にある青たんは何度も出来たせいで、消えない痣として残り続けている。

本当はあなたの気持ちなんて理解できなかった。理解できるって言えばごめんなさいって言えば早く終わるって考えてた。


愛とは空虚だ。愛が無くなればそこには何もない。心の中に「本当」を隠して私たちは人を愛しているフリをしている。そうすれば、救われる気がするから。

愛とは鏡だ。自分自身を相手を愛することで表現しているに過ぎない。人を愛している自分を好きになるためには平気でうそをつく。私たちは自分自身を否定できない。


きっときっとそうなんだ。

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