戦闘服
男の戦闘服はスーツとか。
意気がってる年下の取引相手がほざいた。
そうだなぁと。
まぁ、大体はかっこ良く見える。
じゃ、女の戦闘用は。
格好つけてる割りにアラが見えるスーツ姿に、えらく下に見られたな、と。
あぁ、マウントを取りたいのか。
若さだなぁと思ったランチタイム。
おじさんばかりの部所で働くと、同化する事なく、女であることを有利に、卑怯にならない方法を探すことに少し労力を使う。
内勤はYシャツと黒のスラックスとカーディガン。
靴はREGALのブラウンのポストマン。
うっかり気を抜くと、取引先の偉い人が来たりして恥ずかしいことになる。
基本外出時はスーツだ。
セットアップはガチガチし過ぎてあまり好きじゃない。
この、キリリとした顔つきがきつく当たる黒はあまり好んで着ない。
最近はアクセサリーもつけることにした。
タートルネックセーターを着て胸元に何もないよりあった方が印象がぐっと良くなる。
ピアスは。
出張時のみと決めている。
スカートは深いソファーに座らざるを得なかった時に困ったので、はかないことにした。
印象が良くなることはいい。
だけど、異性として見られるのは困るし、それを表現されてもどうかと思う。
気に入ってくださって、仕事がしやすいのは歓迎。
飲みの席のお誘いも嫌じゃない。
困るのは。
女性として誘われること。
それなりに歳を重ねているのに。
あからさまなアクションに、そんな余地がまだあったのかと。
主たるものを仕事内容でなく、性にされて。
これは嬉しくなかった。
大きな商談会。
ゲストの私に無礼な人。
仕事で来ているから、下手に逃げることは会社に迷惑がかかりそうで。
上司や同僚にまで良くない印象を持たれたら困る。
そんな思いが先走って、自身を後回しにした。
働く女に付いて回ること。
今回のは強烈なお誘いで、バカにされてるのかと。
良く考えたら、これまでに何度かあった。
私はこういうの、平気だと思っていた。
そこまで怒りがあるわけでもないけど。
気分が良くない。
だけど、よそへ飛び火するのも腹立たしい。
取引先の担当にクレームを入れておいた。
恥ずかしくて上司に言いたくないから、社内でコントロールするように伝えた。
次はないよ、と釘を刺したけど。
あのバカでかい会社でそれが通じるのかは怪しいところ。
担当は代わりに謝罪を下さったけど、それも何だか申し訳なくなって。
私の振る舞いがそうさせたのか、少し心配になった。
おかしいですか。
そう聞いたら。
いや、そんなことはないから、と。
一緒に昼食を取った時、気持ちに同調してくれて、そんなやつ居たのかと。
助けてくれた。
モテるんだよ
と笑ってくれたのが、強張った気持ちをほぐしてくれて私も笑った。
その日の戦闘服とやらは。
ダークグリーンのレーヨンブラウスにネイビーの格子柄パンツ。
ジャケットはグレーベージュ。
グリーンのスウェードのパンプスを合わせて。
相棒のアクアレーサーを着けて。
想定していた戦闘とは違うものと対峙した日だった。
闘ってやる。
見てろよ男たち。
少し儚げな戦闘服かも知れないけど。
それも武器として。
中身の戦闘モードで受けて立とう。
私は気が強いから。
決めたら、揺るがないのよ。
男たちの都合の良い中身に見られがちだけれども。
甘いわ。
仕事と感情は切り離しておかないと痛い目を見るのよね。
働くってそういうことでしょう。
憧れのあの人のように、感情をコントロール出来ないなら。
揺らいだ方が負けと、
思い知らせてやる。
次は何と対峙するのかと。
左腕のアクアレーサーを眺めて。
車に乗り込んだ。