見出し画像

友達と疎遠になった日を思いながら/「映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」感想


※ほんのりネタバレがあります。


この映画を観て、友達が隣町の中学に進学した時のことを思い出した。「演劇をやってみたいから、地元を離れて演劇部のある学校に行く」と、友達は卒業間際に話してくれた。
その子とは家が近かったこともあり、保育所の頃から家族ぐるみで仲が良かった。小学校で別のクラスになったときも毎日一緒に下校していたし、交換ノートだって何冊も続いた。本当にずっと一緒だったから、別の中学に行ってもこれまでのように友達でいられると当たり前のように思っていたし、寂しいという気持ちすらあまりなかった。つらくて泣いたり、さよならを言ったりした覚えもない。
卒業後にあっさり疎遠になってしまうなんて、当時の私は想像すらしなかった。

別の道に進むとは、どういうことを意味するのだろうか。
「クレヨンしんちゃん」は永遠の幼稚園児たちの日常を描いた物語であり、彼らが作中で歳をとったり成長したりすることはたぶんない。彼らの日常はいつまでも続くと錯覚してしまいそうになるけど、いつかはみんな幼稚園を卒業する。かすかべ防衛隊の5人だって、卒業後はそれぞれ別の小学校に進学するかもしれないし、同じ学校に通うことになってもクラスはバラバラになってしまうかもしれないし、新しい友達もできるはずだ。

人と人との繋がりは、些細なことがきっかけで驚くほどあっけなく無くなってしまう。私は友達と疎遠になった後にそのことに気付いたけど、この作品では、風間くんが幼稚園児でありながらその「あっけなさ」に気付いてしまう。今はしんちゃんたちと一緒にいるけど、この先も一緒にいられるとは限らない。先のことが見通せる賢い子だからこそ、大切な友達との未来について一人で思い悩んでしまう。その姿に私はどうしようもなく胸を打たれた。


あらすじ

風間くんの誘いで、全寮制の超エリート校・私立天下統一カスカベ学園に、1週間の体験入学をすることになったしんのすけたち。体験入学で好成績をおさめれば学園に正式入学できると知った風間くんは、みんなで一緒に入学しようと意気込んでいた。しかしそんな矢先、お尻に奇妙な噛み跡をつけられて倒れている風間くんが発見される。驚くべきことに、翌朝目を覚ました風間くんは、究極のおバカに変身していた。

出典:映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園
作品情報・あらすじ|MOVIE WALKER PRESS 

作品のテーマは「青春ミステリー」。風間くんのお尻に噛み付いた「吸ケツ鬼」の正体を探るべく、かすかべ防衛隊が立ち上がる。天カス学園の個性豊かな生徒たちにスポットを当てて推理を進めつつ、しんちゃんたちが生徒たちと関わり合い、学園生活を楽しむ様子も丁寧に描写されていく。

ミステリーの緻密さもさることながら、「青春」というテーマへのアプローチも素晴らしい。
謎解きパートで登場したキャラクターたちの個性が、物語の終盤でそれぞれに輝きを放つ。頭の良い子や足の速い子、生き物が好きな子や人情深い子。バラバラな個性を持った人たちが一つの場所で生活することって、大人になるとなかなかないような気がする。
しんちゃんと風間くんはその最たる例だ。真逆と言っていいほど異なる個性を持つ彼らは、幼稚園が同じでなければ、出会うこともなければ仲良くなることもきっとなかった。それを思うと、風間くんが友達を誘って体験入学へ行き、5人で過ごす学園生活を誰よりも楽しんでいる姿がたまらなくいとおしく見える。いろいろな人が集まって過ごす幼少期のひとときはとても尊いものなんだと改めて感じた。

いろんな個性を持った人が集まっているからこそ、人と比べて悩んだり、不安になったりする。悩む時間は非効率かもしれないけど、大切な人や自分自身に思いを馳せて、頭を悩ませる時間にこそ価値がある。そういったメッセージが、青春を生きるキャラクターたちのエネルギーとともにぶつけられる。生き生きとした生徒たちが眩しくて、眩しいからこそ儚くて胸がいっぱいになる。細かなボケも全部面白くて、笑いながらめちゃくちゃ泣いてしまった。

悩みながらもどうにか行動しようとする風間くんと、彼の気持ちはわからないけど自分らしく向き合おうとするしんちゃんたち。彼らが駆け抜けた先にあるエンディングがもう最高に素晴らしかったので、まだ観たことがない人はぜひ観てみてください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?