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僕は頭が悪いので……

 僕は頭が悪い。以上。これはとても個人的な話である。
 僕は頭が悪いので頭の悪さを上手に演じることができない。この国では頭が悪いということをアピールするのは当然の礼儀なのに、僕にはそれが上手くできない。結果として僕が頭の悪い人間であるということを知っている人間は少ない。勿論、何人かの親しい友人や、かつて親しかった元友人は僕の頭の悪さをよく理解してくれている。
 僕は頭が悪いのだということ、それは僕の人生を狂わせてきた最大の原因だろう。偏差値やIQが低いということだけじゃなく、僕にはいくつか欠けた知的機能がある。それがもとで、僕は世界に対して強い不信感を持つようにもなった。
 僕はこれまで色々な失敗をしてきた。沢山の無価値なものと数え切れないほどの無意味な言葉を世界に垂れ流してきた。それというのも、僕が頭の悪い人間だからである。
 頭が悪いということは罪なことだ。何故ならば、頭が悪いということだけで人を傷つけることができるから。知らないということは罪なことだ。何故ならば、それは相手の痛みに気づかないということだから。
 思えば僕は、この"頭が悪い"ということと"知らない"ということの間でブランコを漕いでいた一人の無邪気な子供のようなものだ。僕は頭が悪いので孤独へ逃げ込むようにして生きる道を選んだ。
 僕は頭が悪いので、文章を書いてしまうし、本も読んでしまう。そうしないと世界と繋がることができないからだ。僕にとって文学はシュノーケルだ。それがないと息もできない。
 本を読んでいると「君は真面目だね」とか「頭がいいんだね」と言われる。そういう言葉がお世辞であっても僕を混乱させる。僕は頭が悪いので、相手が何を思ってその言葉を吐いたか分からない。僕は頭が悪いので何を語ればいいのか分からなくなる。僕は沈黙する。
 すると眼の前に広大な白紙があって、それは世界だ。創作の相手は常に世界なのだ。ものを書くとき、人は世界という最強者を前にたった一人で闘わなければならない。
 僕はもはや自分の頭の悪さがなんの言い訳にもならない場所で、未だにこう言いたくなる。
「僕は頭が悪いので……」

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